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Tale 22 幼女召喚士(2)

 マーシャルテは、まずはライに詰め寄った。一秒もしないうちに眼前に現れたが、弓を構えていたのが幸いだった。盾にすることで短剣の切っ先を防ぎきる。


 攻撃が失敗した後、彼女はすぐに標的を変えた。襲撃の可否は二の次なのだろう。流れるようにして、黒い拳のリスティーに接近する。


「うわぁっ!」


 拳に直撃したダガーの一裂き。ただそれだけのはずなのに、リスティーは大きく吹っ飛ばされる。


「まだまだ行くわよ」


 直進した先にいたのはユエラ。咄嗟に【輝く光刃(ホーリーエッジ)】で対抗するも、マーシャルテの前には塵と化した。


 イルミネーションのように煌く周囲。だが状況はそれとかけ離れて切迫している。


 神速の一振りで杖は両断された。


「これが、マーシャルテの実力……」


 ライは圧倒されていた。対策さえされていれば、手も足も出ないことを痛感する。そして仲間がいても、彼女の行動速度の前に誰も対応できなければ意味がないと知る。


「うふふ……。ちょっとは驚いてくれたみたいね。……あら、あの一番気の弱そうな子はどこに行ったのかしら?」


 マーシャルテから見て、アルマは弱そうに見えるらしい。言われてみれば、その姿は同じ空間のどこにもなかった。


「逃げた……? いや、でも……」


 自分の勘を疑った。部屋を逃げ出したのならばそれを見逃すはずがないし、ましてや後ろの階段に通したとも考え辛い。見当がつかないまま一時的に戦意を削がれたマーシャルテ。


 ――声がしたのはその時だ。


「私ならここにいますよ」


 発信源は背後だった。


 マーシャルテの短剣よりも安っぽい、普遍的なナイフ。いつもは投げて使っているが、今に限っては力強く柄が握られていた。


 そしてその刃は、短い刀身を対象の皮膚のその奥に(うず)めた。


 黒みがかった赤い血が、粘性を思わせながら滴り落ちる。


 その状態に追撃をかけるように、身体は太い魔力の縄で締め上げられた。


「あなた、一体どうやって……っ!」


 その問いにはライが答えた。


「最初に言っただろ、“布陣は完璧だ”って」


 マーシャルテは全てを察し、作戦の要となっていた物に目を向けた。


 それは彼女の首に巻かれた装飾品だ。


「まさか、そのスカーフ……」


「はい、【視認阻害(ステルス)】です」


 ライが使える【視認阻害(ステルス)】というスキルは、彼がゲーム時代にアバターに習得させたものではない。スカーフという装備の一端に備わる力として存在するものだ。ゆえにそれを身に着けていなければ、彼は姿を消すことはできない。裏を返せば、スカーフさえあれば誰でも潜伏が可能になるということ。


 アルマはスカーフの力を起動させる。


 完全に姿が消え、再び現れた時にはライたちと合流していた。


 今回は一対多の構図が作れることは想定に入れていた。その時、最も警戒されるのはライだ。自分があえて派手に攻撃に転じることによって、アルマが隙を突けるような展開を何とかして作り出すというのが、彼の中での作戦だった。


 もちろん、アルマたちには何も伝えていなかった。しかし彼女は見事にライの意図を汲んだ。それこそが勝因だった。


「最初から勝敗は喫していたってわけね。油断はしていないつもりだったけど、またしても侮ったわね」


 敗北を認めたマーシャルテはその場に座り込む。両腕と体と尻尾は密着していて、しばらくは身動きが取れない。


「煮るなり焼くなり、好きにするといいわ」


 まるで悪魔とは思えない潔いマーシャルテを、ライは面白おかしく笑った。


「そんなことはしない。確かに、お前は油断はしていなかった。でも手加減はしていただろ?」


 この発言に、アルマたちは驚く。


「それ、本当ですか?」


「あの重い一撃が手を抜いてたって言うのか?」


「あり得ない」


 三者三様に反応が返ってくるが、ライは構わず話し続ける。


「確かに、攻撃に加わる力は本気だった。でも、リスティーとユエラ、二人はかなりの隙を晒していたはずだ。どうして無事なんだ?」


「それは、武器があったから。……あっ」


「そう、こいつの狙いは最初から武器を破壊することだったんだ。なあ?」


 ライは同調の視線をマーシャルテに送る。すると彼女は感服の意を示して笑った。


「大正解よ。ナディルネア様は弓使いさん、あなたに会うことを切望しているわ。ここで殺しちゃ私が怒られちゃう。だからナディルネア様に不敬な刃が向かないよう、あなたたちの攻撃の手段をできるだけ封じたってわけ。本当は魔力もごっそり消耗させるつもりだったけど……今となってはどうしようもないわね」


 ライは一歩前に出る。


「みんな、命を取らなかったことに感謝して、こいつはこのままにしておきたいと思う」


 その提案には、否定はなかったが、渋々の肯定が残留した。「まあ、ライが言うなら」という反応だった。


「勝手にしなさい」


 そっぽを向いてマーシャルテは言った。


「最後に一つ聞いていいか?」


「何かしら?」


「この塔、なんでこんなに空き部屋ばっかりなんだ? お前たちの仲間はいないのか?」


 マーシャルテはため息一つついて答える。


「魔王軍がどういう状況に置かれているか、それは知っているわよね? ……そういうことよ」


「そういうことって……」


 悲しくも魔界からの援軍はなく、この人間たちの住む大陸にはマーシャルテとその主二人だけの魔王軍関係者しかいない。彼女はそう言いたげだった。


 たとえどれだけの個人戦力差があろうと、二人は孤軍奮闘の状況だ。もの悲し気な言い草が、ライたち一行の同情を誘う。


「さあ、もう行きなさい。私の拘束が解けるわよ」


「ああ……」


 なぜか敵に心配され、四人は奥の螺旋階段へと進む。


 どこもかしこも石造りだが、塔に入って以来初めて外の様子が見えた。螺旋階段の側壁には小窓が開いていたのだ。


 映るのはグリュトシルデの夜景。侵入から一体どれほどの時間が経ったのか、ほとんど消えている家々の照明を見ると、自然の光をしばらく浴びていないライたちは時間感覚を徐々に取り戻す。急いた状況でなければ立ち止まって眺めるのも一興だが、この場所ではそれは決して叶わないことは十分に承知している。


 しかしライは立ち止まってしまった。敵ではあるが彼女も彼女なりに苦悩していることが気にかかって仕方がなかった。ついつい感傷に浸ってしまう。


「ライ、今は目の前のやるべきことに集中です」


「そうだな……悪かった」


 ライは気持ちを切り替え、全員で階段を上り切る。そして何度も見た蒼炎の照らす短い通路を歩けば、遂に最上階の魔王軍幹部が首を長くして待つ部屋だった。

2022/4/18 全体を少し修正。能力名称を変更:【ホーリーエッジ】→【輝く光刃(ホーリーエッジ)

【ステルス】→【視認阻害(ステルス)

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