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Tale 3 冒険者ギルドへ(2)

「じゃあ、次は俺が質問してもいいか?」


「遠慮なくどうぞ」


「まず、ここはどこなんだ?」


「漠然とした質問ですね……。この世界はストラティアと呼ばれています。創世神ストラティアによって創造された世界と語り継がれているので、その名前がそのまま世界の名称として使われています。……こんな説明で大丈夫ですか?」


 アルマの口から出てきたストラティアという言葉。


 これだけでライは自分が本当に異世界に来てしまったことを理解した。地球はおろか、クロス・ファンタジー内にもそのような言葉は存在しなかったからだ。


「ありがとう。それで続けて質問させてもらうけど、俺はこの後どうすればいい?」


「というと?」


「俺は自分の知らない世界に突然連れて来られて、ぶっちゃけ……困ってる。この世界……ストラティアでどうすればいいのかが分からない」


「つまり、今後の方針が決まっていないということですか?」


 まさにその通りだった。元の世界に帰るにしても、召喚士探しは現実的ではない。しかし他にやることがなければ、その道を選択するしかないのも事実だ。


 そう思っていたところ、ライは一緒に渦に呑み込まれた仲間たちのことを思い出した。


「そうだな……。実は俺には仲間がいるんだ。多分そいつらもこの世界に飛ばされてると思うんだけど、まずはあいつらを捜したい」


 同じ状況に瀕していた彼らのことだ。自分と同じ世界に召喚されてしまったと考えるのが妥当だった。


 そして元の世界に帰るのならば彼らと一緒が良い。

 ライは突発的ではあるが、自分のこの世界での第一の目標を設けた。


「人捜しですか……。でしたら、冒険者ギルドに行きましょう!」


「冒険者ギルド?」


「はい。モンスター討伐や護衛など、この世界の様々な依頼を請け負う、いわば何でも屋の傭兵。それが冒険者です。その冒険者たちを管理する組織が冒険者ギルドです」


「そこに行って、仲間捜しを依頼すればいいってことか?」


「そうですね。そういう手もあります。ですが私の目によると、ライさんはこの世界では相当の実力をお持ちです。ライさん自身が冒険者になった方が早いかもしれません」


「俺が冒険者に?」


「はい。そうすれば、自分のペースで仲間捜しができます。ライさんとお仲間の事情は複雑のようなので、他人に任せっ切りというのも効果は望めなさそうですし」


「確かに」


「あとは生計なんかも立てられると思います。ライさん、この世界に来たばかりということは、お金もないでしょ?」


 そう言われれば、ライは文無しだった。システムで管理されていたゲーム内通貨は使えない。というかもう存在していない。


 さらに言えば、クロス・ファンタジー内で所持していたアイテムは現在装備している物を除いて消滅してしまった。


 この世界で生きていくには、この世界の金銭を入手する必要がある。

 アルマの説明でそれに気付いたライは決心した。


「そうだな……。分かった! 冒険者になるよ」


「それが良いと思います。私もライさんがこの世界での生活に慣れるまではサポートさせて頂きます」


 そのまま三人は森を進んでいく。アルマの付けておいた、赤い目印のおかげで迷うことなく進んでいく。


「さあ。もうすぐ森を抜けますよ」


 見飽きた木々が視界から消え、ライは両手を大きく天に伸ばす。そして体重が一気に後方に偏ったのか、ライはそのまま芝に倒れてしまった。


「ライさん、森は抜けましたが、まだ安心はできませんよ。このまま街に行きますよ」


 この森林地帯はちょっとした丘陵地帯に存在している。


 アルマの指差す方、見下ろせる程度の場所に、石壁が築かれた街と煌々とした灯りが映った。


「転がってる場合じゃなかったな。行こう!」


 ライは起き上がって、アルマと共に見晴らしの良い丘を下って行った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お疲れ様でした! ここがグリュトシルデの街です」


 街の門まで辿り着くと、アルマはライを歓迎した。


 二人は門を(くぐ)る。その様子を、門番であろう二人の兵士は敬礼して見送っていた。


 不審者ならば、彼らに止められたのだろう。しかしそれが起こらないということは、アルマの顔が兵士に知られているということだった。


 既に日は沈んでいて、家族で食卓を囲む時間だ。

 街は思いの外静かだった。ライはこういったファンタジー世界では、昼夜問わず活気があるものだと思っていた。


 街を歩く中、特にライが気になったのは街灯だった。


 外見的な造りは現実と似ていた。しかし肝心の光源部分は事情が違った。電球などがはめられて光っているわけではなく、何か石のようなものが発光していた。


 しばらくして、アルマは立ち止まった。


「少し待ってください。この子を送り届けなくてはいけないので」


「分かった」


 アルマは自分のすぐ横の木の扉を叩いた。

 そこから美しい二十代前半の女性が顔を覗かせた。


「リアナ!」


 リアナの母は引き渡された熟睡中のリアナを優しく抱いた。心なしか、リアナも一層安心した表情で寝ているように見える。


「大丈夫ですよ。怪我はしていません」


「アルマさん、いつもありがとう」


「いえ。結局、問題の解決には至っていないので……。原因が分かり次第、すぐに対処します」


「よろしくお願いします」


 リアナの母はそう言うと、扉をそっと閉めた。


「ふぅ……。ギルドの方に行きましょうか」


「ああ」


 ライはアルマに案内されるがまま、街を歩いていく。


「リアナちゃん、結構大きな事件に巻き込まれてる感じなのか?」


「リアナちゃんから何か聞きました?」


「知らない声に誘われるってことくらいで、他には何も」


「そうですか。私もその程度の情報しか持ってないんです。早く原因が分かればいいんですけど……」


「俺も気になるよ。何かあったら手伝うよ」


「ありがとうございます。……さあ、着きましたよ!」


 気付けば一つの大扉を構えた建物の前に来ていた。


「ここが冒険者ギルド……」


「そうですよ。想像よりも大きかったですか?」


「ああ……」


 冒険者ギルドの建物は三階建てだった。建物の大きさが組織の大きさと言っても過言ではないと思っていたライは、実は結構ビビっている。


 だから、ライの全身が緊張でこわばっていた。


「そんなに身構えることありませんよ。この建物の一階はほとんどのスペースが酒場で、ギルドの実質的な場所は二階なんです」


 そう言われると少し安心できた。


「そうなのか。じゃあ三階は?」


「三階はこれから行くので、その時に分かりますよ。さあ、入りましょう」


 アルマは慣れた手つきで扉を押した。ライはその後ろを恐る恐るついて行く。


 その先に彼が見たものは、活気溢れる冒険者たちの集いだった。

【キャラクター紹介】

◇アルマ・ローレット……グリュトシルデ所属の冒険者。目の前の悪に立ち向かいたくなるほど正義感が強く、困っている人を放っておくことはできない優しい少女。


◇リアナ……「知らない声に呼ばれる」という証言を繰り返す女の子。その原因はまだ誰も分かっていない

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