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Tale 21 満月の塔(3)

 時を少し戻して、同じく隠し通路に入り込んだアルマは、腰を引き気味に、地に打ち付けた尻を(さす)りながら道を進んでいた。


「まさか、こちらが正規のルートだったとは……」


 彼女は予期せずに燭台の仕掛けを解いてしまい、ちょうど壁際に体重をかけていたことにより、消滅した壁の奥に倒れ込んだ。


 その際に短く驚いたが、それは再出現した石壁に阻まれてしまった。だからライは彼女の消息が途絶える瞬間に気付けなかったのだ。


 隠し通路を進んだ先、そこには魔法陣が輝きを放っていた。どうやっても起動しなかった寂れた魔法陣と見比べれば、違いは明らかだった。


 その中央に足を乗せると、アルマの全身は光に包まれその場から姿を消した。


 転移系の術式は非常に複雑で、一般の魔術のように振る舞うのは困難だ。ゆえに術式を書き留めるという形での魔法陣は、その使い方としてはオーソドックスなのだ。無論、転移魔術を理解できるだけの者がいなければ、魔法陣の作成もままならないが。


 ほんの一瞬だけ気を遠くしたアルマは、気付けば同じような魔法陣の上に立っていた。しかし目の前には見覚えのない新しい空間が広がっていた。


 正面には閉ざされた重厚な扉が、宝石をはめ込むための窪みを四つへこませて構えている。


 その左右には、またしても二つずつの魔法陣が微光を放っていた。


「これは……どうやら隣の魔法陣が関係してそうですね」


 四つもある転送陣から、想像以上の労力を要求されると考えたアルマは、一人では先に待ち構える全ての試練に立ち向かえない、と道を引き返す。


 一度他の三人に自分が見たことを話し協力を仰ぐ、という意思の元に。


 しかし、時すでに遅し。彼女が乗ってきた陣は、入り口奥で見た物と同じように色褪せていた。


「そんな……!」


 一方通行なのか、一度限りの使用だったのか、定かではないが、アルマの身には何も起こらない。こうなると、彼女の不安の色は濃くなっていく。


 後方には使用不可の魔法陣、前方には物理的には開かないであろう扉。実質的に閉じ込められたことを理解し、ここで仲間たちの助けを待つか、単独で四方の魔法陣に挑むか、選択を迫られる。


「ここで待とうかな……。でも、四つもあるんだから一つくらい……」


 アルマは気の向くままに適当に右奥の魔法陣を目指す。すぐ隣に来たところで、彼女は躊躇(ためら)い始めた。


 魔法陣の性質が、往来自由とは限らないからだ。もし最初に乗って来た魔法陣のように行き先からの接触が不可能ならば、魔法陣の先に潜む仕掛けに対処できなかった時、命があるかは保障されない。


「私一人じゃ、また迷惑をかけてしまうかもしれません」


 これまでの行いを反省し、仲間の大切さを理解した彼女は、自分を過信せず壁に寄りかかる。結局、ライたちを待つことにした。


 それから数分、彼女は魔物のいない空間に身を置き続け、訪れた一瞬の安寧に惑わされる。


「何だか眠くなってきました……」


 最後にそれだけ呟くと、アルマの全身は冷たい床に倒れ、抗いようもなく目を瞑ってしまった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 塔の最上階。簡素な造りの玉座に座す小さな悪魔は、足をばたつかせていた。


「ようやく進んだか」


 独り寂しく呟くナディルネアは、会話の相手がおらず退屈そうだ。腹心の配下のことを頭に浮かべると、彼女の動きを察知した。


 マーシャルテは塔の構造を完璧に把握している。偽物と本物の通路や部屋、魔法陣の位置も全てだ。


 そして関係者以外には知りえない秘密の道も。


 壁を透過していくように彼女は道を短縮し、壁の隙間からある薬を撒いた。


 それはそれは良い夢が見れるだろう、安眠へと誘う煙だ。


 その絶対的効果に抗うことのできなかった冒険者の少女を見て、悪い笑みが零れていた。


「あやつも何か動きを見せているようじゃが……ほどほどにしておいてほしいものじゃ。奴らが途中でくたばったら、面白くないからな」


 この最上階から、ナディルネアは動くことを許されていない。彼女がここを離れてしまえば、塔を管理する者がいなくなってしまうのだ。


 魔術で強化された石で固められた、夜空を貫く一本の塔。小穴は開いているが、魔術障壁が張られていて、外部からの姑息な方法での侵入は決して許さない。


 魔王軍と名が通るだけで、大抵の人間は恐れ(おのの)き、挑戦することも躊躇(ためら)う。その方が使命遂行には適しているだろうが、ナディルネアは快くは思っていない。明くる日も明くる日も、光の差すことの少ない塔に籠っているのだから。


 そういった意味で、塔への侵入者は彼女にとっては勇気ある来客なのだ。彼らには是が非でもこの頂に辿り着いてほしい、それが今のナディルネアの細やかな願いであった。


 その思いに反するように、別の願望もあった。


 敵の本拠地の最奥。そこがもぬけの殻だった時の挑戦者たちの顔を、彼女は見てみたい気もした。悪魔由来の性根の悪さとでも言うべきか、その欲と戦っている。


「それにしても、この退屈な待ち時間をどうやって解消するべきじゃろうか? うーむ……マーシャルテがその気ならば、(わらわ)はこういう手に出てみようかの」


 彼女が決めた行動は、表と裏、どちらによるものなのか。ただ不敵に笑い、ただ今も動き回る挑戦者たちの姿を、彼女の瞳にだけ投影される特殊なモニターで観察を続けた。

2022/4/18 全体を少し修正。

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