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Tale 21 満月の塔(2)

 ライたちは最初の通路を進み、一つの魔法陣の前に来ていた。


 魔法陣のある小部屋。そこには、彼らが歩いてきた通路以外には接続がない。つまるところの行き止まりだった。


 全員が疑問に思うが、先へと進むための鍵は足元に広がる魔法陣のはずだと睨んではいた。


 肝心のそれは光を失っていて、起動していない状態のように見えたが。


 この魔法陣の先の景色を見ること。それが彼らの最初の試練だった。


「さぁて、どうしたもんかねぇ」


 唸っているのはリスティーだ。同じ空間にいるユエラは無言で手掛かりを探っている。あまりに狭いその空間には、魔法陣しか見受けられないのだ。何かを探そうとしても、見つかるはずがないのだ。


「ユエー、何かあったか?」


「……ない」


 床を徹底的に調べるリスティーに対し、ユエラは壁を調査していた。コンコンとその白い手で叩いては、一歩横にずれて同じことを繰り返す。不自然な反響音を求めて。


 しかしそこに希望を見出すことはできなかった。


 時に杖を向けて微弱な魔力を流すことも検討した。まずは枯れている魔法陣に対して行ったが、それが起動するというようなことはなかった。そもそもそれが起こりえるならば、今こうして手分けをして探索していないし、仕掛けとしては単純すぎる。


 次に、壁に対しても魔力を流した。壁に何らかの術式が施されているならば、それを発動させれば良いだけの話だ。


 しかし反応はない。状況は好転しなかった。


 持ち場を離れるわけにはいかないので、二人は「まだ調べていない場所は……」と候補を(ひね)り出し、しばらく探索を続ける。






 対して残りの二人、ライとアルマは来た道を戻り、最初の入り口付近の空間を調べている。


 空間的な容積で言えば、こちらの二人のいる場所の方が大きい。何かが見つかる期待値は高かった。


 だが目に見える物と言えば、石壁とそこに掛けられている青い炎の燭台、そしてどこからか入り込んだコウモリだけ。


 二人はコウモリが鍵を握っているのではないかと睨んでいたが、少し刺激しても痛みに反射する如く飛び回るだけだ。


 時折コウモリが高く飛び上がるので、照らされていないだけで空間が上方に抜けているのではないか、とも考え雷を垂直に飛ばして探ってみた。


 しかし石がボロボロと零れ落ちてくるので、やはり天井があるのだと確認できた。


 そんなこんなで今、二人は周に沿って石壁を調べている。同時に燭台に手掛かりがないか、それも一つずつ確認している。


「一個ずつ探していくとは言ったけど、骨が折れそうだよ」


「弱音を吐く余裕があるなら、もっと探してください。まだ半分にも到達していないんですから」


「そうだな。……そうするよ」


 終わりの見えない手作業を、無言で進めていく二人。しかしこれといった進展もなく、彼らの気は可笑(おか)しくなっていく。


「もうやめたい……」


「もうちょっとです。頑張ってください」


「大体、あの魔方陣を復活させる手掛かりは、あっちにあると思うんだけど……。俺がこの塔の管理者だったらそうするよ」


「それは随分と正直な管理者ですね。でも、実際の管理者は魔王軍です。奴らは狡猾で残忍。どこに仕掛けがあるか分かりません。ましてや、今のこの状況が罠なのかもしれません」


「そうだな。奴らの術中にはまらないためにも、警戒しながら進まなくちゃな」


 ここまで顔を合わせず、作業に没頭しながらそのついでとして雑談を繰り広げていた二人。視界も壁際の炎だけが確保しており、部屋内の全貌がすぐさま把握できるわけではなかった。


 何得ない会話がお互いの存在証明を成していたが、以降ライの台詞に返事はなかった。


 やるべきことに集中したいのであれば、その気持ちは分かるが、何度も呼びかければ「うるさい」程度のあしらいがあっても良いだろうに。


「アルマ……?」


 遅くして異変に気付き、アルマが担当しているはずの反対側の壁の方に向かう。すると嫌な予感は的中し、彼女の姿はどこにもないことを確認した。


 周囲を見回すが、消えた彼女以外に何ら変化はないように見受けられる。頭上に潜むコウモリ、空間に対称的にある揺らめき衰えない蒼炎、そして閉鎖された入り口。ライの疑念は一層深まるばかりだ。


「おかしいな、さっきまでそこにいたはずなのに……。一旦リスティーたちと合流しよう」


 ライは通路を進む。目指す方角からは物音は聞こえない。まさか彼女たちの身にも何かあったのか、と不安に不安が重なりそうになったが、視界が開けると一瞬で安堵した。


 未機動の色褪せた魔法陣の上に、二人は足を伸ばして座り込んでいた。


 そんな彼女たちを上から覗き込む。


「二人とも、休んでたのか?」


「一通り探し尽くしたんだよ。収穫はゼロだ」


 サボっているように見えるのを怒られるかもしれないと思っていたリスティーは、そうはならなかったことに安心して答えた。


「そっか。……なあ、アルマこっちに来てないか?」


「アルマ? 見てない」


 ユエラの言う通り、この空間に彼女はいない。相も変わらぬ魔法陣と三人だけだった。


「もしかして、いなくなったのか?」


「ああ。俺が気付く少し前までは確かに声がしていたのに、振り返ってみたらいなかったんだ。変だろ?」


「うーん……現場を見ないと分からない」


 ユエラは立ち上がって歩き出すので、ライが呼び止める。


「どこ行くんだ?」


「だから現場検証」


 三人は最初の部屋へと戻った。


 ライとアルマの作業スピードが同じだと仮定して、ライが調査を行った最後の場所、その対称となる側に立ち、付近を調べる。


 特に怪しいのは壁掛けの燭台だ。石壁に付随しているこれに、何らかの仕掛けがあってもおかしくはない。


「んー……」


 ユエラはその燭台の一つに手を伸ばすが、百五十センチに満たない彼女の身長と腕の長さを合わせても、掠りもしない。唸り声に反応して、相方が彼女の意を汲んだ。


「これをどうしたいんだ?」


「引っ張って」


「はいよっと」


 リスティーは燭台の下部を掴んで手前に引く。するとほんの数センチだが、燭台が動いた。


 軽い地響きの後、すぐ横の石壁がスッと消える。どうやら燭台の動きに連動しているようで、一度リスティーが手を離すと、その数秒後に再び壁が現れた。


 ライは今はただの壁であるそれを強く叩いた。幻影ではないようで、石の重厚感が拳に伝わってきた。


 その後で、今度は自分の手で仕掛けの先の通路を出現させる。


「まさか隠し通路があったなんて」


「音もあんまりしないんだ。気付けなくったってしょうがない」


(確かに、あの時は早く調査を済ませたいっていう思いが先行してた。でも、周りの変化に気付けなかったのは、ちょっと弛んでたかもな)


 ライは深く反省し、大きく呼吸して心機一転する。


「奥に行こうか」


 三人は顔を合わせて頷いて、人間数人ほどの幅の隠し通路に足を踏み入れた。

2022/4/17 全体を少し修正。

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