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Tale 21 満月の塔(1)

 月明りの反射する湖面。清らかな水辺に飛び交う、蛍のように発光する虫型生物。


 本来は街周辺では巡り合えない自然環境に感動するべきなのだろうが、四人は初めて見る眼前の建造物に気を取られていた。


 石造りだが、単純な造りではなさそうな一本の塔。


 湖面に映るその姿を見るに、先が果てしなく底に続いているのが分かる。実に目的地が水中だったならば、彼らは絶句していただろう。


 それほどまでに、見上げるのにも苦労する高さなのだ。


「これが満月の塔……」


「私も間近で見るのは初めてです」


「この塔、めっちゃ立派だけどよ……どうやって入るんだ?」


 リスティーは唸っていた。


 そんな塔に気圧(けお)され侵入に戸惑う彼らを、そのようにたらしめている要因が他にもあった。


 塔は湖の中心にそびえ立っている。いや、直立に浮遊しているのだ。二キロメートルほどの外周を散策しても、入り口らしき場所は見当たらない。もし見つかっても、そこまで辿り着く術がないのだが。


「ユエ、何か良い方法ないか?」


 物理ではどうにもならなさそうだったので、今頼れるのは魔術だけになる。


 その力を持つユエラは悩みに悩んだ結果、杖を光らせた。


「入り口がないなら作ればいい」


 そう言って、杖の宝石は白い輝きで満たされた。


「【輝く光剣(ホーリーグラディウス)】」


 頼もしくなった光の刃が塔の壁の一か所に集中して向かっていく。しかし衝突の際に光の塵を散らすだけで、壁には傷一つ付かなかった。


「魔術耐性、あるみたい」


「魔力で強化されてるってことか……」


 ライが呟くと、ユエラはただ小さく頷いた。成長した力が通用しなかったことで、彼女はまた一つ己の力の小ささを実感してしまったが、今は引き摺らない。それは今後の課題になる。これから解決していけば良いのだ。


「だったら、込められている魔力を上回れば良いだけだ」


 力ある者のみに許された行動。隣にユエラがいる現状、派手なことをして彼女のプライドを傷つけるべきではないとも考えたが、他人の力に嫉妬せず、力に溺れることのない彼女だから、それはいらない心配だった。


 ライは魔力の矢を生成し、それを蒼い雷で装飾する。月光により、一層美しくも見えた驚異的な一矢。十分に熱量を感じ、手を放そうとする。


 ――その時だった。


「見てください!」


 水面の少し上、ガラスのような透けた板が階段を形成する。その続く先では、石壁が微かな音を立てて侵入口を形成していた。


 穴が現れたならば、強引に作る必要はない。ライは魔力の出力を抑え、雷を空に雲散させた。


「開いた……のか?」


「そうみたいですね」


「行ってみようぜ」


「それしかない」


 四人の意見は一致した。


 侵入口から敵が襲来する可能性に警戒を緩めない。隙間のある透明階段を、湖に落下しないよう慎重に進んだ。


 結局、想定するような事態は何も起こらず、全ての段を上り切った。入り口付近に特殊な細工が施されている様子もなかったため、四人は一斉に踏み入ることにした。


「何も見えない……」


 ライがそう言って、外部の光が差し込む唯一の入り口から少し進めば、塔の内部は真っ暗。後に続く女子たちの足音が空間に反響した。


「明かりが必要……任せて」


 ユエラが光魔術を発動させようと準備した時、石の擦れる鈍い音が耳にこびり付く。そして遮断される自然光。


 一同は同時に振り返った。はっきりと言えることは、四人は塔内部に閉じ込められたということだ。


 その直後、視界が途端に明るくなった。石壁に青い炎が煌々としていて、彼らを歓迎するように周囲からは少々の熱気が感じられる。


「ここに魔王軍がいるのか」


 ライたちの思い込みがそうさせるのか、張り詰めた雰囲気が彼らを包み込む。最低限の視界が示す道は一つ。彼を先頭に、入り口の小空間を後にした。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 一方同刻、その塔のはるか上階にて。


「ナディルネア様、奴らが侵入したようです」


 腹心の配下マーシャルテが主に背を向けつつ報告するも、返事はない。


「しかし良かったのでしょうか? 入り口の仕掛けをこちらから解除して」


「あのままでは、塔は崩れていた。そんなことになれば、再建には何夜もの時間がかかる。その間に人間たちに攻め込まれたら、流石に今の状況では太刀打ちできないじゃろう。特に、あの弓使いは警戒するべきじゃ」


「それは……確かに仰る通りですが……」


 マーシャルテは主のその全ての発言を肯定するが、内心納得していない。


 たとえ苦汁をなめる結果となっても、それが運命ならば受け入れざるを得ない。彼女はそう思っていた。


 一方でナディルネアの取った行動、すなわち本拠地に敵を招き入れるという行為にも危険が付きまとうから、一概にどちらが正しいか、明確な判断を下すことは誰にもできなかった。


 それゆえに、マーシャルテはいつまでたっても現状に胸を張れていない。


「良いか、マーシャルテ。我らは人間の地を侵略するために、この場に留まっている……幹部として魔王様の、魔族の理想郷を作り上げるためにじゃ。命を落とした先代の幹部の(かたき)を討つためにも、今は派手な行動を慎み、自軍の再生に努めるべきではないか?」


「はい」


「心配するな! (わらわ)の力をもってすれば、この牙城に引き籠っていようとも制圧は順調に進むじゃろう。今は奴らの撃退、いや奴の奪還(・・)を最優先に考えるのじゃ!」


「承知しました。私が時間稼ぎとして相手をします。ナディルネア様は……」


「分かっておる」


 気丈に振る舞う主人に励まされ、マーシャルテは拭い切れなかった不安が少しばかり解消される。


「しかし、奴らはここまで辿り着くことができますでしょうか?」


「無論、たどり着けなければ、そこまでの脅威ではなかったまで。じゃが、最悪を想定して打てる手は打っておくべきじゃ」


「そうですね。では、私はこれで……」


 ナディルネアはたった一人の頼れる部下の背中を、闇に溶けていく最後まで見送る。


 そして先ほどまでとは打って変わって、低い声色で独り言を呟き始める。


「人間……。愚かで下等な生き物。我ら魔族の足元にも及ばない。じゃが、あいつは……」


 頬杖をつきながら天を見上げ、薄笑いを浮かべる。


「期待しているぞ」

2022/4/17 全体を少し修正。能力名称を変更:【ホーリーグラディウス】→【輝く光剣(ホーリーグラディウス)

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