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Tale 20 仲間(5)

「その後、うちらはレイネールさんから事情を聴いた。あいつがどんな環境に身を置いて、冒険者にどんな思いを馳せているのかをだ」


「アルマが目を覚ましてから、私たちはアルマの心の負担にならないように受けるクエストを考えることにした。でも、余計な気遣いって思わせたみたいで逆効果だった。アルマは私たちとはパーティを組まなくなった」


 ライは語られた過去をただ受け止めた。心に深い傷を負わせた火災の光景が、その当時思い出され正常でいられなくなるのは、人としている限り仕方のないことだろう。ましてやその火事により家族を奪われているのだから、アルマに及ぼされた影響は並々ならなかっただろう。彼はそう思った。


 そしてその後の彼女の対応についても、ライはアルマが常に他人を優先して行動するのを、一緒に行動しているから知っている。だからこそ、冒険者としてユエラたちとひと距離置くようになったのも理解できた。


「アルマのことについては大体分かったよ。教えてくれてありがとう」


 ライはそれだけ言うと、席を立った。


 この場の者の中で、「どこに行くのか?」などという野暮は言わなかった。彼のその背中を見れば、意思は十分に伝わった。


「俺、アルマを連れて戻って来るよ」


 アルマがどこに行ったのかは分からない。だが満月の塔はその性質上、満月の夜にしか現れない。彼女が単騎で乗り込んでいる可能性は、現在の時刻からしてあり得ない。そう考えれば、ライとしても落ち着いて彼女を捜すことができる。


 アルマの過去を知る者三名に見送られ、街をぶらぶらと歩いているが、お目当ての人は見つからない。グリュトシルデは大陸の端にある街ではあるが、街と分類されるだけの規模を持っている。見当なしでの捜索に垣間見える希望はごく僅かだ。


 もっとよくアルマのことを知っておけば、今の苦労も緩和されただろうに、と思ったがこれでもストラティアに来て以来毎日彼女と行動しているのだ。自らを(とが)めようにも、どうにもならない思いが彼をモヤモヤさせる。


 こんな時に頼れるのは自分の勘だけだ。気が晴れない時はどうするか、と自問すると、気付けば草原まで足を運んでいた。


「本当に食べるんだな、ビスケット」


 人の往来も穏やかな草道の外れに座り込む少女と、餌付けされている数頭の羊がライの目にはすぐに映った。彼女が振り返る時、彼はそのすぐ隣に座り込んだ。


「ライ……さん」


「何よそよそしくなってんだよ。ほら」


 ライが何もない手のひらを差し出すと、アルマはそれに答える如く、その手に一枚のビスケットを載せる。


 ライはそれを前方に突き出した。すると羊が一頭、従順に寄って来た。


「おー、食べた! 可愛いぞー」


 与えられた菓子をバリバリと欠片を零しながら食べる羊の頭部と側部を、交互にわしゃわしゃと撫でる。


 アルマの持ち込んだビスケットはあっという間になくなってしまい、その頃には彼女が一方的に抱える気まずさも小さくなっていた。


「聞いたよ……故郷が魔王軍に滅ぼされたこと、家族が奪われたこと」


「そうですか……」


 知られたならば仕方がない、とでも言うかのようにアルマは哀愁を漂わせたままでいる。


「ありがとな」


「え……?」


 呟かれた言葉に、アルマは耳を疑った。


「怒られるとでも思ったか? 魔王軍幹部って奴の強さは俺には分からない。まともに戦ったことがないからな。だけどアルマはそれをあの時、体感したんだろ?」


「はい……」


「だったら、俺はお前の優しさを無下にするわけにはいかない」


「じゃあ……私の言うこと、聞いてくれますか?」


 アルマは伏せていた顔を、初めてライに向けた。気弱そうな今の彼女の心は、とても繊細だろう。


「それは無理だ。ここからは少し言わせてもらう。お前は一人で魔王軍の所へ行くって言ったけど、お前じゃきっと相手にならない」


「それは……分かっています。でも、私が何とかしなきゃ、あの時何もできなかった私とは違うことを見せつけてやらなきゃ……」


「誰のためにだ?」


 アルマは口を(つぐ)む。


「弟さんのため、村のみんなのため、それともアルマ自身のため? ……俺はどれでも良いと思う。立ち向かう理由がそれでできたのならな」


「ライ……」


「だからさ、もしお前の心の準備が整ったら、その時は俺も一緒に戦わせてくれ。アルマは俺の大切な仲間だ。仲間のために力を貸すのは、当たり前のことだろ?」


 それを聞いて、アルマの目には涙が浮かんだ。抑えていた感情、偽っていた感情に対する申し訳なさ、その全てが胸の奥から込み上げてきた。


 彼女に胸を貸すのは今度は羊ではない。ライは歳が幾つも離れない一人の少女を、彼女の動悸が収まるまで受け止めていた。






 暮れ頃になり、二人はスヤスヤ亭へと戻った。


「ただいま」


 扉のすぐそばには、リスティーたち三人が変わらぬ配置で座っていた。


 ライは彼女たちのもとへと歩みを寄せるが、アルマは違った。彼女は躊躇(ためら)っていた。一瞬でも喧騒な口喧嘩を繰り広げたのだから、そうなっても仕方はない。


 いつまでたっても扉に半身を隠すように立つアルマをそのままにはしておけない。ライは彼女の見えている片手を掴み、中に引き入れた。


「ええっと……あの……」


 視線を浴び、言葉に詰まるアルマ。謝罪を強要されているわけではないが、この場の雰囲気が彼女にそう思わせていることで、口に出したいその一言が中々出てこない。


 時間が経過するほど、気まずさの色は強まっていく。


 アルマは口内に溜まる唾液を一気に飲み込んで、ようやく頭を下げ、口を開いた。


「ごめんなさい! 私、自分の感情に支配されて、みんなに酷い嘘をぶつけてしまいました。本当にごめんなさい。もし許してもらえるなら、私にできることなら何でもします!」


 聴衆である四人からは何も返ってこない。だからアルマは恐る恐る頭を上げて、前方を視界に入れる。


 鋭く感じていた彼らの目つきは柔らかだった。一人一人と目を合わせ、アルマは安堵した。


「私もさ、悪かったよ。辛いのはお前なのに、怒鳴っちゃって……」


「うん、リスティーが悪い」


「ユエ、さっき『どっちも悪くない』って言ってなかったか?」


「そうだった?」


 わざとなのか本当なのか、という普段の二人を見ることで、アルマは笑みを零した。


「二人とも、ありがとうございます」


「それで、さっき『何でもする』って言ったよなあ?」


 リスティーは何かを企むようにニヤニヤしながら、一歩二歩とアルマに近づく。


 それに対し、アルマは少しずつ後退していく。


「た、確かに言いましたけど……あくまで常識の範囲内で、ですよ!?」


 そう言ってもなおも詰め寄るリスティーは、どこか愉悦に浸っているように見えた。そんな彼女の首を、ライが掴んで引き離す。


「ふざけるのはそこまでだ。アルマ、さっきも言ったけど、魔王軍との戦い、俺にも協力させてくれ。それが俺からの頼みだ」


「うちらも協力させてくれ」


「うん」


「みんな……力を貸してください!」


 四人の結束は、魔王軍討伐という目標を掲げることで強化された。


 そんな彼らを微笑ましく見ていたレイネールは提言する。


「私からもお願いします。と言うのも、非常に申し訳ないのですが、魔王軍は非常に脅威な存在のため、今すぐにと安易にクエストを発行できないのです。ですので報酬の用意はしかねるのですが……」


「大丈夫です。私はお金のために魔王軍を倒したいわけではありません」


「そう言ってもらえると助かります。ですが約束してください。身に危険を感じたら、すぐに撤退を。少なくとも、王都から騎士団が派遣されるはずです。彼らに事情を話せば、快く共闘を受け入れてもらえるでしょう」


「分かりました。じゃあみんな、行こう!」


 ライの合図で四人は順に手を重ね、宿亭に気合いの入った声を響かせる。


 目的地の満月の塔までは、今から歩けばちょうど月の出の刻には間に合うらしい。焦らずとも、四人は塔が現れると予測される湖へと出発した。

2022/4/17 全体を少し修正。台詞を一部追加しました。

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