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Tale 3 冒険者ギルドへ(1)

 少女は無残な姿に変わり果てたフォレストバインを見る。そこからは、もう何の脅威も感じられなかった。


「驚きました……。まさかフォレストバインを討伐してしまうほどの弓の使い手だったとは。いや、正確には最後の一撃は魔術……だったのでは」


 少女は戦闘を振り返っては感心していた。


「しかしこれほどの強者ならば、私なんかが飛びかかっても返り討ちでしたね」


 少女は微かに笑っている。もうライへの敵意はないのか、剣も鞘に収まっていた。


「別に殺しなんてしなかったさ。それよりも、大丈夫か?」


 安心したライが少女に手を差し伸べると、彼女はその手を取って立ち上がった。そして自分の乱れた服装を整える。


 やはりもう警戒されていないらしく、ライは再び安堵する。


「ええ。助かりました。それと……」


 その後に言葉がなかなか出てこない。


 ライが不思議そうに少女の顔を覗き込もうとした瞬間。彼女は勢いよく深々と頭を下げた。


「ごめんなさい!」


「うわぁっ!?」


 突然大声を出されて、ライは驚いた。


「命を救ってもらうなんて、誘拐犯がそんなことするはずがありません。あなたを悪人と間違えてしまったことも、命を救われたことも、お詫びも感謝もしてもしきれません!」


「頭を上げてくれ!」


 早口で詫びる少女を、ライは制止する。

 すると彼女も我に返ったようで、顔を少し赤くした。


「あっ……すみません。名前を言ってませんでしたね。私はアルマ・ローレットと言います」


「俺はライだ」


「ライさんですか。どうしてこんなところにいたのですか? ……この辺では見たことないですね。他所の街の人ですか?」


 他所の街と言われても、アルマのいる街のことも分からない。

 ライはこの世界のこと全てが分からないのだ。


「えっと……まずは俺の相談に乗ってほしいんだけど」


 とにかく今は情報が必要なのだ。

 自分の置かれた状況の把握、身の安全の確保など、やるべきことは山積み。

 手繰り寄せられる縄は何でも引き寄せたい一心だった。


「それは構いません。お礼はするつもりなので、私の力になれることならなんでもします」


「ありがとう」


「とりあえず、歩きながら話しましょうか。もうすぐ日没です。この森は夜になると危険なので」


「分かった」


 その時、遠方から足音が聞こえて来た。

 音のする方へ目を向けると、一心不乱に走ってくるリアナの姿が映った。


「リアナちゃん!? どうしてここに……?」


 逃がしたはずのリアナが目の前にいるのだから、驚くのも無理はない。


「えっとね。遠くで大きい音がしたから、おねーちゃんたち大丈夫かなって……」


 もじもじとした仕草で話すリアナ。

 小さい子に心配されるなんてまだまだだと二人は互いに笑った。


「あははっ!大丈夫ですよ。ライさんのおかげで何とかなりました」


「そーなんだ。あとね、別にその人、悪い人じゃないよ」


 リアナがそう言うと、アルマはその小さな頭を撫でた。


「うん。そうだね。お姉ちゃんの勘違いだったみたい」


 ライは自分への嫌疑が晴れて嬉しかったが、正直リアナの証言がもっと早く聞けていたらどんなに救われたかとも思っていた。


「さあ、帰りましょうか!」




 出発してからしばらく経ち、リアナは眠っていた。今度は人為的に眠らされていたわけではなく、疲労によって自然とだ。


 アルマはそんな彼女を抱きかかえながら歩いていた。


「リアナちゃんも寝てしまったようなので、話の続きをしましょうか。えっと、まずは私から質問してもいいでしょうか?」


「ああ、いいぞ」


「それでは……。ライさんってどこから来たのですか?」


「えっと……」


 いきなり答え辛い所を突かれてしまい、ライは返答に困っていた。それを察してアルマは、


「つまり出身地です。正確な地方や街の名前ではなく、北の方とか南の方とか方角的なことでもいいです」


と補足を挟んでくれるが、それでもライは答えることができなかった。


「もしかして、この世界の人ではない……とか?」


 その一言に、ライはアルマの顔を見た。


 自分から言って信じてもらえるか分からなかったこと。それを相手の方から言ってもらえることは、今ライにとって一番ありがたいことだった。


「ああ。信じてもらえないことかもしれないけど、そうなんだ。俺は気付いたら、この森で倒れていた」


「あっ、本当にそうなんですか?」


 アルマは少し訝しんだ。


「あれ……冗談で言ったつもりなの?」


 発言を本気にしていたライの戸惑いを見るに、アルマは彼の言っていることが本当だと思い始める。


「冗談のつもり……でしたが、別の世界から何か生物が現れるというのは否定できないことだと、私は聞いたことがあります」


「そ、そうなのか! 信じて貰えるなら嬉しいんだけど……」


「もちろん信じます。素性を隠したいがために自分が別の世界から来たなんて大層な嘘、普通はつきません。それに……」


「それに?」


「あなたほどの腕を持つ人がぽっと出て現れるのは、やはりそう言うことなんだと思います。それで、別の世界から来たと言うことですが、召喚士と呼ばれる存在に別世界から生命体を呼び寄せるという行為が可能らしいです」


「そうなのか」


「私はそんなの見たことありませんけどね」


 もしアルマの言う通り、自分が召喚士によって異世界に連れてこられたのだとするならば、まずはその召喚士に会うべきなのかとライは考える。


 しかし広さも分からない異世界で、いるかも分からない召喚士を探し出すなんてことはライには途方もなく感じた。


 とりあえず、そのことは頭の片隅に置くことにした。

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