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Tale 20 仲間(2)

 アルマは先ほどの集会にはこんな子はいなかったと思い、先輩の冒険者かと疑う。だが元よりその可能性は低いと彼女は思っていた。何せその背丈はアルマより低いし、急いでいたのは集会に間に合わせるためだろう。


 その考えは的中した。プレップたちの初陣を見届けようとその場に留まっていたレイネールのもとに、ベージュ髪の少女が息を整えながら歩いていく。


「あの……冒険者に……なりたいんですけど」


「はい。では……」


 レイネールは既に全体に向けて行った説明を、目の前の少女一人に向けて簡潔に行う。


 そして少女は近くの作業台に向かい、カードに名前を書くためペンを走らせる。


 彼女は続けて掲示板に向かった。自分よりも高い位置にあるクエストの貼り紙を、遠い目で眺めていた。


「あいつ……。よぅし……!」


 笑みを浮かべて何かを(たくら)むリスティーは再び掲示板へと走っていく。


「よお、お前、どのクエスト受けたいんだ?」


(本当にお人好しな人ですね……)


 アルマは今広がる光景に、先ほどの自分を投影した。


 少女はリスティーを警戒する目で見上げる。


「特に決まってない」


「そっか。なら、うちらと一緒に行かないか?」


 リスティーは少女の警戒心など気にもせず、一方的に肩を組み始める。肉付きの良い肩に、少女の柔らかな頬が押し当てられる。


「むぅ……近い」


「なあ、どうだどうだ?」


 ここまで来れば鬱陶しいまでの勧誘に、リスティーを突き放す対応も普通と思われる。しかし少女は小柄さを利用して、スッと下方向に頭を抜けさせることで自ら解放された。


「分かった。行くから……過度なスキンシップは厳禁」


「おお! うちはリスティー、よろしくな!」


「今注意したばかり……」


 二度も三度も身を寄せ付けて来るリスティーに、変わらぬ温度の声で接する少女は、続けてアルマのもとへと案内される。


(綺麗な目……。でも、何だろう……?)


 向き合った二人。アルマは少女の瞳の純粋無垢さに惹かれていたが、同時にその奥には悲しいような曇りがあるようにも感じられた。


「私はアルマです。よろしくお願いします」


「私はユエラ。よろしく」


 丁寧な挨拶と不愛想な挨拶が交わされる。


 こうして出会いを果たした女子三人は、当初のクエストを受けるためにカウンターに向かう。


 ギルド職員から丁寧に優しく享受されることにより、出発の手続きは難なく済まされた。


 三人はギルドを後にし、まっすぐと目的地の草原地帯へと向かう。


「そう言えば、ユエラって何で集まりに遅れたんだ? 時間は最初から分かってただろ?」


「寝坊した」


「ワクワクして寝られなかった……とか?」


「ベッドが気持ち良かった。それだけ」


 ユエラにとっては冒険者としての活動よりも、安眠が優先されるらしい。彼女の正直な返答に、二人はかなりのマイペースな子なのかもしれないと、苦笑いした。


 街を出ると、リスティーは大きく伸びをして気合を入れた。


 三人とも広がる景色に目新しさはなかった。全員グリュトシルデの出身ではなく、この街に辿り着くために一度はこの草原を通過したからだ。


 彼女らは見晴らしの良いこの場所で、ターゲットを見つけようと目を凝らす。


「あれは何でしょうか?」


 明らかに羊の姿をしていない動物を指してアルマは言う。


 赤い毛皮と瞳を持つ四足歩行のモンスターが三匹ほどの集まりで、草地の外れを踏み荒らしている。


「あれって、レッドウルフじゃねーか? うちらにはまだ早いんじゃないか」


 当時アルマの冒険者周りの知識はほとんどないと言ってもよかった。リスティーとユエラはある程度の常識は備えているようで、アルマにあれこれと教えてくれた。


「あっちに人がいるし……安易には襲ってこないと思う」


 赤狼の行く手を阻むように、その付近に数名の冒険者が構えていた。プレップではないだろう使い古された装備と、逞しさが少女三人の目に頼もしく映る。


 プレップの冒険者たちが迷わないように、危険に遭わないように、グリュトシルデの先輩冒険者たちが監視として周辺の至る場所に配備されていたのだ。


 その彼らに間接的に誘導されながらも、じきに彼女らはモフモフの羊を発見する。


「もっふもふだなー! はははっ……!」


 三人の中で一番はしゃいでいたのはリスティーだった。両手で羊の毛の温かさを堪能し、頬を擦り寄せる。戦闘系のクエストを受けたいと最初は言っていたのに、今ではこの有様だ。


 羊と(たわむ)れるのも一興だが、物事には優先順位がある。衝動のままに動くリスティーを抑制し、早速毛刈りに取り掛かった。


 ギルドから借り受けた専用の(はさみ)を慎重に取り扱う。三人とも毛刈りの経験はなかったので、羊を傷つけないようにその反応を(うかが)いながら最初は短く毛を刈っていった。


 毛を刈ったら、それを零れ落ちない程度の粗さの目の木編みの籠に入れていく。


 作業が慣れてしまえば、三人の人数による効率の良さから籠はすぐに白いモフモフで満たされた。


「よっしゃー! 終わったぁー」


 単純作業から解放されたリスティーは、ぐんと伸びをする。


 他の二人は大きな行動には出なかったものの、毛刈りにやりがいを感じていたようで、汗を額に、笑みを浮かべていた。


「ギルドに持ち帰りますか?」


「私、ちょっと休憩したい」


 ユエラは脱力すると、そのまま前方に倒れていく。その先には毛刈りに協力してくれた一匹の羊がいた。


 三人は羊たちが寒い思いをしないように、ある程度の毛量を残すようにしていた。ユエラは今、残った白い天然素材の枕に顔を埋めたのだ。


「んー、気持ちいい……」


 アルマはユエラに出会って初めて、彼女の顔が安心に包まれるのを確認した。


「あんまり体重をかけると、羊に負担が……」


「大丈夫」


 実際、ビスケットシープは嫌がる素振りも逃げる素振りも見せない。流石は気性の粗さで最温厚に分類されるだけの器量を持つモンスターだ。


「アルマも一度やってみるといい」


「仕事がまだ残ってるのに、そんなことは……」


「硬いことはナシだ。ほら!」


 躊躇するアルマの背をリスティーが叩いて押した。


「うわっ……ふ、不可抗力なんです! ごめんな……」


 アルマの謝罪は接触する羊毛に遮られる。それと同時、彼女は羊が体を貸してくれていることに気付いた。


「あ、あったかい……」


「そうだろ? うちもちょっと休んでいくかー」


「静かに」


 リスティーのハツラツな声がユエラに制止される。どういうことかとリスティーがユエラの視線の先を見ると、そこには眠りに落ちたアルマが映った。


「寝ちゃったか……。まあ、こういうのも悪くないな」


 リスティーは三頭目の羊に身を(ゆだ)ねながら、静かに言う。しかし次の瞬間、彼女はそれまでとは異なるアルマの放つ雰囲気に感付く。


「アルマ、もしかして泣いてるのか?」


 本人は寝ているので答えは返ってこない。しかし確かに彼女の頬には、薄く涙が伝っていた。


「ほんとだ……。何かあったのかも」


 冒険者はその職業柄、両親に活動を反対されることも珍しくはない。二人はその時、アルマの涙の理由をそれに起因するものと予想したが、真実を彼女に直接聞き出すことはしなかった。


 今日、初めて共に活動をしたのだ。他人の心の内に入り込むには、長い付き合いが必要不可欠と思ってのことだ。


 アルマの目が覚めても、二人は何も見ていないふりをした。彼女が抱える問題に直面した時は、迷いなく手を差し伸べることを心に誓って。

2022/4/17 全体を少し修正。

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