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Tale 20 仲間(1)

 レイネールが語るだけのことを語った後、場の全員を包むのはまたしても静寂。

 実際、ライは彼女の話の内容を何も知らなかった。だからその凄惨(せいさん)な過去に対してどう向き合えばよいのか、まだ分からない。


 思い返せば、昨夜森でマーシャルテと出会った時、アルマは震えていたのではないか、と自分の観察力の甘さを責める。重い過去を背負いながらも、自分の面倒を率先して見てくれた彼女の優しさを改めて知った。


 そして(きた)る毎日の異世界の新鮮さに目を奪われ、感情の高揚する自分がいたことも再自覚する。自分の笑顔の裏でアルマは一体何を思っていたのか、ライはそう思うと自分の軽薄さに腹が立った。


「俺、何も知らなかった、何も知ろうとしなかった。自分のこれからのことばかり考えて、アルマのことは大丈夫だって思い込んでた」


「ライ君が気にすることじゃない。少なくともアルマは余計な心配をかけたくなかったんだと思う」


 ユエラがライを優しい声色で慰める。


「そうだよ。お前が自分を責めるのは違う」


 リスティーもフォローしてくれるが、その後で閉じかけた口が開こうとする。しかし彼女はそれを抑える。


 歪な彼女の口元に、ライは気付いた。


「どうした? 何か言いたいことがあるのか?」


「話すには良い機会だから、どうしようか迷ってな」


 ライは困ったように悩むリスティーの手を取る。


「頼む、教えてくれ。俺はアルマのこと、もっと知りたい」


 彼の真っ直ぐな瞳を彼女は見つめる。決してブレず、力強い瞳だ。

 覗かれたリスティーは一息ついて話し出す。


「まああれだ……レイネールさんのみたいにそんなに重くない話だから、肩の力を抜いて聞けよ。今から話すのは、私とユエとアルマの馴れ初めの話だ」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 まだアルマが成人を迎える前、十二歳の頃。

 彼女は冒険者になるため、ノムルアード大陸最東端のグリュトシルデの街に来ていた。


 彼女は今冒険者ギルドの建物、その二階にいる。

 周囲には同じくらいの若さの男女が数名いた。それには理由があって、今日は成人前の冒険者希望の少年少女を、一斉に冒険者に登録しようという日なのだ。


 アルマは心配そうに一人佇む。自分の知らない土地で知らない人に囲まれ、魔王軍の襲撃によってぽっかりと空いた心の穴は埋まらない。


 そんな縮こまるアルマが目に付いたのだろう。彼女よりも十センチメートル背の高い少女が寄って来た。


「よっ! お前も冒険者希望か?」


 家族を失ったアルマには彼女の気さくさはありがたいのか、鬱陶しいのか、複雑な感情に支配されながらも弱々しく返答する。


「うん」


「そっか。うちはリスティー、よろしく!」


 リスティーはピンと伸ばした片手を額に寄せ、格好をつけて挨拶する。


「私はアルマ……です」


「おう、よろしくな! ところでアルマ、お前、組む奴いるのか?」


「組む奴?」


「ああ、冒険者するなら何人かでチームを組んだ方がいいだろ?」


「別に誰とも……」


 曖昧な返答を遮り、リスティーはアルマの肩を叩いた。


「そうか。なら、私と組め!」


「……」


 急な強制案に、アルマは否定も肯定もしない。別に彼女は誰かと仲間内で冒険者をやりたがっていたわけではなく、冒険者になりたいと思っていただけなのだ。ただ一声かけられ勝手に進んでいく話に、戸惑っていた。


「なんだ、嫌なのか?」


「いえ、そういうわけじゃないです」


 リスティーが不満な表情で覗いてくるので、アルマは即座に否定する。心の治療も兼ねてこのグリュトシルデの街に来たのに、人から反感を買ってしまっては逆効果だ。


「分かりました。リスティーさんと組みます」


「よーし、改めてよろしくなアルマ。あと、リスティーって呼んでくれていいから」


 この街に来てできた友達がこんな我の強そうな少女で良かったのか、アルマはそう思うが、抗えない運命のようなものを感じ諦めた。


 そうこうして本人に悟られないようにアルマが小さく落胆していると、階上からギルドマスターのレイネールが下りて来る。


「皆さん、本日はお集まりくださりありがとうございます。早速ですが、本題に……」


 レイネールは隣に立つギルド職員から、用意された白いカードの束を受け取る。


「ここにいるみなさんは冒険者を希望されている、ということでよろしいですね?」


 彼女の質問に異論を唱える者は誰もいない。


「これから、冒険者としての身分を示す、冒険者カードをお配りします」


 レイネールは掲げて見せていたカードの束を再度ギルド職員に預け、その配布を頼む。


 その作業中、彼女は説明を続ける。


「本来、冒険者という職は成人を迎えた方にのみ就くことが許されます。しかしみなさんは未成年のはずです。冒険者にはランクがあり、成人を迎えた方は最低でもノーマルと公式に定められています。このままではみなさんは年齢の制限に掛かることになり、ノーマルにすらなれません。そこで便宜上設けられたのがプレップというランクになります」


 場の一同は、これからの自分たちの扱いに文句は言わず、静かにギルドの長の話を聞いている。


 それもそのはずで、ここにいる少年少女たちは全員がプレップの冒険者になる意思を持って集まったのだから。


「プレップの基本的な扱いはノーマルと同じです。ただ、プレップである間は昇級は認められません。つまり、みなさんが成人するまでに冒険者としての勝手を覚えてもらおうという狙いの元に生まれたのが、このプレップというランクになります」


 そこまで説明を終えた所で、全員の手元にカードが行き渡った。


 このカードには、所属とランクのみが記載されており、あとは各々で名前を書いておくだけで良い状態だ。


 カードの白という色は何も手が加えられていない状態であるが、同時にプレップやノーマルの身分を色覚的に示す役割を持っている。


 その後もレイネールの説明や注意は続き、トラブルなく事が進んで一同は解放されることとなる。


「やっと終わったなー。アルマ、早速行こうぜ!」


「う、うん」


 二人はクエストの貼られている掲示板に向かう。今日はプレップの冒険者が多数誕生したこともあり、彼ら用に調整されたノーマルランクの中でも危険度の低いクエストが多めに貼り出されていた。


「結構種類あるなー。アルマは何かやりたいのあるか?」


「えーっと、これ……とか」


 アルマは偶然自分の手の届きそうな場所に貼ってあった一枚を優しく取る。

 リスティーはそれを覗いて内容を読み上げる。


「何々……。ビスケットシープの毛刈り……って採取クエストかー。うちはもっとガッツリしたのでもいいんだけどなー」


 軽くシャドウをしてリスティーはやる気を見せる。しかし彼女とは対照的にアルマは怯えた目になる。


 魔王軍の襲撃によって、悪魔のみならずモンスター全般にトラウマを抱えているアルマは、可能であれば自分の怖いと感じるものは避けたいと思っていた。


 それゆえに彼女が選んだのが、温厚な羊と接するクエストだ。


「な、何だよ……泣きそうな目するなよ。冒険者になりたいんじゃないのか?」


 アルマは“冒険者になりたい”という肯定を示すため、頷く。


 プレップも立派な冒険者であると言えば目標は達成されているが、リスティーの言う“冒険者になりたい”とは、“冒険者として生活していく”という意味合いだ。それはもちろんアルマも同じであり、先ほど集まった他の少年少女たちも同じように考えているだろう。


「分かった。最初だしな。それでいこう!」


 リスティーに納得してもらい、二人は受注の手続きを済ませるため、早速カウンターへ紙を持っていこうとするが――。


 その道中で、階段からベージュの髪を持つ少女が息を切らしながら現れた。

2022/4/17 全体を少し修正。

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