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Tale 18 ストラティア(2)

 ある神によって創られた一つの世界。その神が自称する名前をそのままに冠したその世界が、ストラティアである。このことはライが冒険者になった日に知ったことだ。


 レイネールはその細部について話し出した。


 ストラティアは古来、ひと繋がりの大陸とそれを取り囲む海洋によって形成されていた。紛争はあれども、多種多様な種族が共生していた。


 ところが、ある時を境に彼らの日常は奪われる。巨大な大陸の大半は海抜の上昇により沈没してしまい、その結果として五つの大陸がストラティアを再構築した。


 レイネールは説明の際、持ち寄った世界地図を机に広げた。


 地図の東部に描かれる大陸が、人間の暮らすノムルアード大陸。それと同等の面積を持つ南の大陸が、エルフの暮らすフローレア大陸だ。そして西部にそびえる大陸面積一位の、亜人と獣人の暮らすヴェニアス大陸。北西に存在する、竜の暮らすオルダーブレア大陸だ。


 しかし彼女の説明に反し、地図に描かれていた大陸は四つだけ。存在しなければならない残りの一つが描かれていなかったのだ。


 それは魔族たちの暮らすドルアーク大陸だ。かつては地図の中心に円形に存在していた。


 魔族の世界侵攻は、創世の頃から起こっていた出来事だった。一時は大陸の分断により勢力が収まっていたが、彼らは他種族の安寧を脅かし続けた。


 そして魔族の侵攻をこれ以上は看過できない、と一人のエルフがその命と引き換えに()の大陸を別空間に隔離した。


 これは現代史にも語り継がれる偉業だ。その者は“エルフの大賢者”として、今も同族に崇められているそうだ。


 魔族たちが隔てられた空間を移動するのは想像以上に苦だった。大群をこちら側に送るとなれば、その規模に応じたゲートを開く必要があり、膨大な魔力を消費することになる。ゆえに世界を掌握し、楽土を作り上げるという目的を容易に遂行できなくなってしまった魔族たちは、現在は大陸ごとに幹部クラスの者とその従者を数名送り込むだけに留め、侵攻の機会を絶えず(うかが)っているのだ。


 それが、今の今まで、幸いにもライが魔王軍との関わりをほとんど持たなかった理由だ。


 そして(ひと)種は魔王軍という存在に切迫されてはおらず、彼らが攻めあぐねているというのが現状である。


「なるほど。俺たちのいるノムルアード大陸、その魔王軍幹部がナディルネアって奴で、その配下がマーシャルテってわけか……」


「はい。お話しいただいたことによれば、そのようになります」


「それで、奴らはどれだけ危険なんですか?」


「それが……彼らについては私も情報をほとんど持っていないのです」


 知識を深く広く持っているレイネールがそう返答するので、ライは(いぶか)しむ。


「レイネールさん、何か隠してますか?」


「いえ、決してそのようなことは……」


 レイネールが慌てて両手を振って否定するので、ライは彼女が黒だと確信した。


 しかし誰しも話したくないことがあることは当然。グリュトシルデ鉱山で彼女の過去を聞いた時、その内容は聞くに覚悟のいる内容だった。今回もそれだけの心の準備がいるに違いないと思ったので、ここでは追求しなかった。


「分かりました。じゃあ俺が情報収集がてら、ちょっくら行ってきます。奴らの潜伏地とかって分かりますか?」


「それについては心当たりがあります。ここの魔王軍は代々満月の塔という建物を拠点にしております」


「満月の塔?」


「満月の夜にのみ、その姿を現す塔です。満月の塔は時間と共に、その座標を大陸内で絶えず変化させます。そして姿の見える時でなければ、入ることも攻撃することも叶わない、特殊な術がかけられています」


「【視認阻害(ステルス)】の魔術とは別物なんですか?」


「はい。それが解明できれば、彼らも動きづらくはなるでしょうが……現状は何とも」


「なるほど。確か満月って……」


「今夜です」


「じゃあ今夜、下見に行きますよ」


「お願い致します。周期から考えるに、満月の塔は草原地帯を南西に進んだ湖の付近に現れるはずです」


 そうと決まれば、昼からの時間は武器防具の手入れなど、入念な準備をしようとライは気合いを入れる。


 しかし彼の意気込みは、突如放たれた一言によって打ち消された。


「私が行きます。だからあなたは手を出さないで下さい」


「ア、アルマ……? 何も一人で行こうとしてたわけじゃないさ。二人で行けばいいだろ?」


「あなたはこの件には関わらないで下さい。誰も……私一人で行きます」


 ライはアルマの対応に冷徹さを感じ、戸惑いを隠せない。それもそのはずで、話の最初から口を閉ざしていた彼女は、口を開いたかと思えばライのことを“あなた”と遠ざけているのだから。


「どうしたんだよ、急に。それに、はっきり言うけどアルマ一人じゃ多分……。俺たち仲間だろ?」


「あなたは仲間なんかじゃありません! 私、最初に言いましたよね? あなたがこの世界での生活に慣れるまではサポートするって。あなたはもう一人でも十分に暮らしていけるはずです。だからあなたは……誰も……仲間なんかじゃ……ありません。手を出さないで下さい!」


「ア、アルマ……」


 今までの人想いの彼女はどこに行ってしまったのか。その手のひら返しに、ライは衝撃を受けた。


 それ以上の言葉の出ない彼を他所(よそ)に、正面の椅子が乱雑に倒れる。同時に力強い足音が迫り、短い破裂音が――。


「ふざけるな! ライは……命を懸けてお前を助けてくれたんだぞ! それを今になって仲間じゃないなんて……!」


 リスティーは涙を浮かべながら、片頬の赤いアルマを上から強く睨む。


「リスティー、落ち着い……」


「落ち着いていられるか! うちらはこんなんでも仲間だと思ってたのに……それを……それをこんな風に……!」


 仲裁に入ろうとしたユエラだが、激昂するリスティーに気圧(けお)され、後退する。


「リスティー、もういいよ」


 ライが何とか二人の間に割って入ることで、宿内が静まり返ったが、試みたアルマの説得は不可能で、彼女は走って宿を出て行ってしまった。


 怒りも侮蔑の念も(まと)わない、寂寥感と後悔を背負う彼女を、ライは追いかけることができなかった。

2022/4/16 世界説明について補足しました。

2022/4/17 能力名称を変更:【ステルス】→【視認阻害(ステルス)

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