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Tale 17 赤髪の調教師(2)

 ライとマーシャルテが激しい攻防を繰り広げる一方、アルマたちは逃がされた理由に(のっと)り、森の脱出を目指していた。


 だが彼らは淡々と歩いていた。決して急ぐ様子もなく、ただ静かに道を進んでいた。


 背後に殺気が忍んでいないからだ。ライが敵の足止めに努めているという信頼こそが、今の彼女らの心に落ち着きを与えていた。


 始めは大きく響いていた戦闘音も、段々と気にならないほどになっていく。


 そんな中、彼女らの耳に入って来るのは、夜行性のモンスターたちの鳴き声と眠りに落ちたリアナの寝息、そして自分たちの立てる足音だった。


 リスティーは抱きかかえるその子を、姫のように丁重に扱う。その姫の寝顔は彼女にも同じ柔らかな笑みを与え、それがリスティーを時に一瞥(いちべつ)するユエラにも伝染する。


 ただ、アルマは影響されなかった。というのも、彼女は並列して歩くリスティーとユエラの後方を歩いており、二人の安堵の様子は伝わっていなかったのだ。


 アルマは俯いていた。変化のない暗い草地を視界に入れ続け、独り憂鬱な気分だった。


 そうして前をろくに確認していなかったので、アルマは立ち止まったリスティーの大きな背中にぶつかる。


「いてっ……。す、すみません」


「はぁ……。しっかりしろよな」


 振り向いたリスティーの人差し指に、アルマは額を押される。その一瞬、目を瞑ってしまう。


「お前の気持ちも分からなくはないが、今はクエスト……仕事の最中だ」


 リスティーは抱きかかえるリアナに目をやる。


「これはお前が任されたクエストだ。お前が責任持って最後までやり遂げなくてどうする?」


「そう……ですよね。私、どうかしてました」


「お、いつものアルマに戻った」


 笑みを取り戻したアルマに、ユエラも安心する。


「ほら、行くぞ。日が昇る前に街に帰らなきゃな」


「はい!」


「私の腹時計だと、まだそんな時間じゃない……」


 ユエラは自分基準に、リスティーの時間感覚を否定した。


「何ですかそれ」


「ははっ、ユエの腹は正直だからなぁ」


 くすくすと笑いを立てて、女子たちは再度歩き始めた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 アルマたちの安全を願い、繰り広げられていた夜の森での戦闘。


 ライはポーチに用意してあったポーションをぐいっと一飲みすると、空き瓶を戻す。そうして、舞う土煙の収束を待っていた。


 収束と同時、マーシャルテに反撃の様子はなく、彼女はただ高笑いした。


「あはははっ! やられた……。完全にしてやられたわ!」


 マーシャルテは木の上のライを見上げる。


 彼女の肌の至る所に、爆発による火傷が見られた。赤く長い髪は所々が焦げていた。


「ところで聞きたいことがあるのだけれど、あなた、最近何か大きな獲物を狩ったりした?」


「急に何だよ。それに答えてどうなる?」


 この一戦とは関連性のない質問だろうが、相手は魔王軍幹部だ。答えるにしても、慎重になった方が良いとライは考えた。


「答えてくれないかしら? こちらにはもう戦う気はないわ」


 マーシャルテはそう言うと、残りの一本の短剣を後方に大きく放り投げた。それは草の茂る地面へと落下し真っ直ぐ突き刺さった。


「武器を隠し持ってる可能性があるんじゃないか?」


 ライは警戒緩めず、目下の彼女を睨む。


「持ってないわよ、ほら……」


 マーシャルテは装束を何枚か(めく)って、隠し武器がないことを証明するも、ライは目つきを変えない。


「もう……もう一枚捲らないと駄目かしら?」


 彼女は続けて服を捲ろうとする。その下からは彼女の褐色の肌が垣間見えた。


「そこまでしなくていい……いいって!」


 目のやり場に困りながら焦る様子を見て、マーシャルテは満足したのか、手を止める。


「答えるけど、そうだな……手ごわいモンスターなら三体くらい倒したかな。えっと、狼に、悪魔に、蛇……」


 ライは指を折りながら数える。


 するとマーシャルテは、またまた高笑いした。


「そう……そうなのね! あなたが私の可愛いペットを……」


「可愛い……ペット?」


「私に傷を与えたご褒美に教えてあげる。私はね、モンスターを調教する能力を持っているの」


「調教だと?」


「簡単に言うと、言うことを聞かせる力ね。それを利用してこの一帯の生態系を掌握するつもりだったのだけれど……あなた、やってくれたわね」


 恨みを孕んでいるわけではなく、いっそ清々しく話すマーシャルテに、ライはなぜ彼女がそのような態度を取っているのかが理解できなかった。


「頭を守る障壁もお前の仕業か?」


「ええ、調教はモンスターたちの脳に直接語りかけて行うのよ。そこを守ってあげるのは主人として当然の行いじゃなくて?」


 マーシャルテの行いは調教とは言うが、悪く言えば一種の洗脳なのではないかとライは思ってしまう。もし人間にもその力が及ぶのならば、さぞ怖ろしいと悪寒が走った。


「そうか。あれを破るのには少し苦労するが、まあ何枚張ってあっても大丈夫かな」


 ライが余裕そうに言うので、マーシャルテもやんわりと彼に対抗する。


「まあ駒は簡単に増やせるから良いのだけれどね。あなたに全てやられちゃうことを考えると、今後はむやみに行動は出来ないけれど」


「あんまり露骨に動き回ると、俺が潰しにかかるかもな」


「あら怖い」


 会話が段々と冗談めいた方向に向かっていく。


 実はマーシャルテに戦意がなくなったことで、ライは彼女との会話が少し楽しくなっているのだ。微笑みながら返事をしているのが、その証拠だ。


「それにしても、あなた、弓だけじゃなくて雷の魔術も達観しているのね。うちに欲しいわね」


「嬉しい勧誘だけど、その期待には(こた)えかねないよ」


「ふふっ、あら……ちょっと待って」


 マーシャルテは会話を遮り、首を傾げる。そして考え込み、答えに辿り着くと不敵に笑った。


「ああ……そういうことだったのね」


「何だ? まだ話したいことでもあるのか?」


「いいえ。悪いけど、私、そろそろ帰るわね」


「えっ……」


 次の瞬間、マーシャルテは木々の間を縫い、こう言い残し闇へと消えていった。


「あなたは生かさなければならない存在だったわ。(あや)めかけたこと、謹んで謝罪するわ」


 ライにとって意味不明な一言が耳に残留した。


「良い話友達になれそうだったのにな……」


 ライはマーシャルテとの別れを寂しく思いながら、地面に飛び降りる。

 そして彼女の落とした二本の短剣を回収して、帰還のため一人寂しく深夜の森を後にする。

2022/4/16 全体を少し修正。

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