表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/156

Tale 17 赤髪の調教師(1)

 魔王軍の悪魔マーシャルテは不敵に笑い、刃をライたちに向ける。


(魔王軍……。この世界にもいるのか)


 ゲームや作り話ではよく目にする存在なので、彼にとっては別段驚き戸惑うようなことではなかった。


 しかし実際に目にすると、心の持ちようは変わった。


 相対してライは弓を背中から取り出す。一方、アルマたちは完全に硬直していて、戦意すら喪失していた。


 リスティーとユエラはアルマを心配そうに見ている。一番恐れ(おのの)いているのは、アルマで間違いなかった。


 ライは誰かがこの一帯に潜伏しているのを知っていた。それが魔王軍の手先であることまでは分からなかったが、だからこそイデアたちがかくれんぼに興じている中、彼女が不穏な動きを見せないか、監視をしていたのだ。


「あなたたちにはお礼を言わなくちゃいけないわね」


 マーシャルテが不意にそんなことを言うので、一同「えっ?」と口にする。


「あの子、呼んだのはよかったんだけど、どうも言うことを聞いてくれなくてね。難儀していたのよ」


「あの子っていうのは、イデアのことか?」


「そうよ。私がこの召喚石で、無理矢理呼び出したの」


 マーシャルテは藍色に輝く石をライたちに掲げて見せる。


 なるほど。イデアの言っていた強制力は、この石が原因らしい。


「この召喚石はナディルネア様から頂いた物なんだけど……。これの力を試してみようと思って、召喚能力を持つ人間を呼んでみたんだけど、その結果出てきたのがあの子よ。でも……」


 マーシャルテは肩を落とし、呆れた口調で続ける。


「あのガキ、私の言うことを全く聞いてくれなかったのよね」


 一方的に呼び出されたのだから、そうなるだろう。本人はその当時不機嫌だった、とその口から聞いたばかりだ。


「でも帰したくても、この石の効力が切れるまでは、私にはどうしようもできなかった。おまけに一つの石で縛れる魂は一つだけ。完全に無駄にしてしまったわ」


 マーシャルテは足元に召喚石を落とす。そしてそれを足で踏んで粉々に砕く。


「でもどうして彼女を召喚しようと思った?」


 ライが質問を投げる。するとマーシャルテは律義に答え始めた。


「さっきも言ったでしょ? 私たちは召喚能力を持つ人間を探しているの」


「何の目的で?」


「律義に答えてあげる必要はないのだけれど……。あの厄介なガキを消してくれたから、一つくらいは教えてあげるわ。私たち魔族の楽土をつくるためよ」


「そうなのか……」


 そんな一言では理解できなかったライだが、召喚士が重要な位置にいることだけは分かった。


「さて、あなたたちの知りたいことは答えてあげたわ」


 マーシャルテが抑えていた殺気を漏らし始める。


「先に行け」


「え……?」


 アルマは短くライに反応した。


「先に街に帰れって言ってんだ! リアナちゃんを送り届けなくちゃいけないだろ?」


「で、ですが……」


「それに、戦う気のない奴は邪魔だ。ここは俺が引き受ける」


 ライの宣言を受け入れるが、自分の内で葛藤し始めるアルマ。その手をユエラが掴む。そして眠そうにしているリアナを、リスティーが抱きかかえる。


「ライ君、気を付けて」


「わ、私は……」


「ほら、何ボケっとしてんだ。行くぞ!」


 こうして無事に女子一行を逃がすことが出来た。いや、逃がすことを許されたと言った方が適切だろうか。


「良かったのか、簡単に逃がして?」


「ええ、問題ないわ。戦う気のない雑魚は後に回そうとも、始末するのは簡単だもの」


「随分と優しい悪魔なんだな」


「あらどうも。それで、あなたは私と戦う気なのかしら?」


 マーシャルテは期待に胸を膨らませて、鋭い目線をライに送る。


「俺もできれば無駄な戦いはしたくないんだが、逃がしてくれるのか?」


 マーシャルテはうんともすんとも言わず、夜闇に染まる空を眺める。


「私、今日はあのガキの様子見に来ただけなのよ。だから誰かと戦う予定なんてなかったのだけれど……」


 そこまで言った所で、ライの淡い期待を、マーシャルテは首を横に振って蹴った。


「あなたからはヤバい雰囲気が漂っている。生かしておけば、この計画の邪魔になりかねない。あぁ……ゾクゾクするわ」


 マーシャルテから湧き出る興奮の感情がその手のしなりに伝わる。


 妖艶な姿勢の彼女に見とれることなく、警戒し続けるライは、まずは距離を取ろうと後退しようとするが――。


(速いっ!)


 マーシャルテは一瞬で彼との距離を詰めた。


 ライは弓を盾にして、素早く見舞われる刃を防ぐ。

 しかしマーシャルテの攻撃の勢い、つまるところ彼女の体重がかけられる先へと、彼は流されるように飛ばされる。


(それだけじゃない、重い……!)


 宙を舞う最中、彼女を見失わないようにと元の場所を見る。


 しかし彼女は既にいなかった。


「こんなものかしら?」


 耳元でそう囁かれた。


 知覚した時には遅かった。神速の一振りはその背中を裂き、鮮血がマーシャルテの顔に飛び散る。


「ぐあっ……!」


 ライは傷の痛みに喘ぐが、躊躇する暇なく、手に隠し持っていた鎖状の雷を後方に振る。


 だが、稲妻が空にひしめくだけに終わった。マーシャルテは跳躍すると、後方へ反り返って簡単に回避する。


「ふっ、安っぽい攻撃ね」


 彼女は着地と同時、長い足を横に蹴り、ライの腹を抉るようにへこませた。


 真っ直ぐ大木に背中を打ち付けるライ。直前に作られた深い傷も相まって、彼を(うめ)かせる。


「何か、思っていたよりも手ごたえないわね。私の勘が鈍ったかしら……」


 余裕の表情を浮かべ、マーシャルテはライに近づく。


「まあここまで傷を負わせちゃったんだもの。苦しませ続けるのは酷ね。すぐにあの世に送ってあげるわ」


 彼女は短剣をライの心臓部へと迷いなく振り下ろす。


「……かかったな」


 ライが薄笑いを浮かべた次の瞬間、その身体が雷に包まれる。【蒼雷の雲衣(サンダーヴェール)】を発動させたのだ。


 彼の計ったタイミングは完璧だった。


 油断を誘うことができたマーシャルテの短剣の金属部から、雷電は彼女へと逆流していく。


 痺れを感じ、すぐさま右手の短剣を地面に捨てる。それがなければ、電流はその身へ流れないからだ。


 ライは落ちた短剣を茂みへと蹴り飛ばした。そして痛みを忘れて飛び上がり、頭上の枝を掴む。その反動で続けて枝に乗り上がる。


 反撃開始だ。


 ライは次々に矢を投下する。


 マーシャルテはそれらをかわすために、益々遠ざからざるを得ない。仕留め損ねた自分に対して軽く舌打ちをして走り出す。


 ライは彼女との距離を離さないように木から木へと飛び移る。そして攻撃し続けることが、今の彼には必要だ。


 地面に突き刺さる矢が、森中を蒼く染め上げる。


「驚いたわ。こんなにも多彩に雷を使いこなすなんて。さっきの発言は撤回するわ」


「誉めてる場合か? この状況、どう打開する?」


「本当に困ったわ。やっぱり慢心するものじゃないわね」


 マーシャルテは逃げ回りながら反省の弁を述べた。ライに誘導されているとも知らずに。


 次の瞬間、マーシャルテの足元が爆発を起こした。大爆音とともに、土煙が周囲の視界を奪った。


 仕掛けた張本人も火力の調整ミスをしたようで、届き渡る土埃に咳払いをした。

2022/4/16 前話の説明の追加に伴い、会話が自然な流れになるよう修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者の他の作品

↓ ↓ ↓

◇(ホラー)かくれんぼの途中に起きた奇怪な出来事が、高校生たちを襲う
『タマシイ喰イ』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ