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Tale 16 声の正体(4)

 広場に辿り着くと、イデアはリスティーの頭上から降りた。


 二人の視界の真ん中には、不自然な幽霊の塊があった。


 ため息一つ吐いてリスティーがその方向へ歩いていくので、イデアも気になって後を追いかける。


 近づけば、何が起こっているのかすぐに理解した。


「おーい、そこで何してんだよ」


 幽霊たちの集まる中心。そこに、うつ伏せに身を丸めるユエラがいた。


 頭隠して尻隠さずといった状況でもなかった。幽霊たちがどれだけ集まろうが、彼らは透けている。その先の景色が見えてしまうのだ。


 要は周囲の注目を引くだけで、返って自分の居場所を教えているようなものだ。


 ユエラはタイミングを見計らってこの広場に戻ってきたのだろう。彼女は灯台下暗しの作戦を執ったつもりだが、今回は利用したものが悪かった。


「あ、やっと来た」


「丸見えだぞ」


「お姉ちゃん、見っけ!」


「えっ、そんなところに!?」


 同じ空間にいたはずのアルマは、なぜか彼女に気付いていなかった。


「負けちゃった……はは」


 ユエラは最も長く隠れていた。ようやく解放されて大きく息を吐く。


「ってことは、これであなたの勝ちですね。満足ですか?」


「うーん……。まあ楽しかったからいいか。うん、そろそろ帰るよ」


 一同は安堵の笑みを浮かべた。


「って言っても私、何かに縛られて自分から成仏できないんだよね……。君の魔術でどうにかしてほしいな」


「分かった」


 視線を送られたユエラは杖を構える。その時、頭上の木の葉が音を立て揺れ落ちた。


「ちょっと待った」


 姿を消していたライだ。


「イデア、君は俺を……いや、俺たちの召喚主か?」


「私が……お兄さんの?」


 あどけない眼がライを覗く。


「ないない! 私はただ遊びたかっただけなの。お兄さんじゃ、遊び相手にはならないなー」


「そう……なのか」


 期待していた回答とは異なり、落胆してしまう。


「じゃああと一つだけ。君はどうしてこんなことをした?」


「それは……そこにいるリアナちゃんを誘い出したことを言ってるのかな?」


「それもそうだし、なぜ君がこんな森の中にいたのかもだ」


「分かった。遊んでくれたお礼に、一つずつ答えるよ。まず私がここに引き寄せられた理由だけど……全然分からない」


「分からない?」


「なんか抗いようのない力って言うの? そんなのが突然働いて、引っ張られたの。あっちの世界で楽しくしてたって言うのに、気付いたらこんな味気ない場所にいた」


 “あっちの世界”というのがどこか気になるが、大方死後の世界のような場所だろう。


「んで、むしゃくしゃして力が暴発して、あっちの世界からいっぱい人を呼んじゃったみたい」


「リアナちゃんについてはどうなんですか?」


 この事件で一番苦労したであろうアルマが食いついて尋ねる。


「いやー、呼んだはいいけど、この人たち、全然遊んでくれないからさ」


「同年代の子を対象に、この世界に対して力を使った、ということですか?」


「そんな感じ。でも、この子しかいつも来なかったのは何でだろう?」


「似ている所が多かったとか、距離的に近くにいたとか、そう言ったことが関係しているんじゃないですか?」


「……そうかも」


 イデアはクスッと笑いを立て、


「じゃ、そろそろ行こうかなー」


 視線をユエラに送る。


 彼女は頷くと、杖に光を満たした。


 一か所に集まった幽霊たちの足元に白い魔法陣が展開される。彼らはその光に照らされ、


「みんな、遊んでくれてありがとう」


「楽しかったよ! また遊んでね!」


 イデアの素性を理解できていないリアナの、嬉しそうな声。それを聞くと、イデアは寂しい表情を浮かべた。


「準備できた……【魂の浄化(ソウルパージ)】!」


 魔法陣から光の泡が零れ出る。幽霊たちはそれに包まれ、次第に虚空へと消えていく。


「ありがとう……」


 最後にイデアが消える際、その言葉だけが残った。


「行っちゃったな」


「寂しそうにしない、リスティー。あの子たちは……いるべき場所に帰っただけ」


「そうだな。……そうだよな」


「さあ、帰りましょう!」


 アルマはリアナの手を引くが、


「いや、帰るのはまだだ」


 なぜか警戒しているライ。


 そして周囲の木々に言葉を投げた。


「そこに隠れている奴、出て来いよ!」


 鋭い視線を振りまくと、甲高く不敵な声が響き渡る。


「な、何ですか!?」


 幽霊よりも恐怖心を煽るこの状況に、アルマは震える。


 そしてその声の主が降り立ち、暗がりからその姿を見せる。


 人種に限りなく近しい容姿の長身の女性だ。赤い髪と薄く何重にも織られた装具をなびかせ、尾ていから生える一本の細い尻尾を揺らしながら彼女は歩いてくる。矜持に溢れた雰囲気を纏い、腰には二本の短剣を備えている。


 今、彼女は二本の武器を取り出し、一方の刃を舐めた。


 その時、金属に反射した光に照らされる顔を見て、冒険者たちは驚き戸惑った。


「「あ、悪魔……!」」


 低位の悪魔なんかではなく、ずっと上位に君臨する彼女からは、(もてあそ)ぼうという余裕すら感じる。


「そう。私は人型悪魔種(ヒューマデビル)の中でも長くを生きていた悪魔。そして魔王軍幹部ナディルネア様に仕える、マーシャルテよ」


「「魔王軍……!?」」


 予想外の存在の出現に、誰もそれ以上の言葉は出なかった。

2022/4/16 イデアの諸行為の理由を補足。一部の名称を和名表記に変更し、ルビを振りました。

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