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Tale 2 召喚先の世界(4)

「えっ?」


 少女の拍子抜けした小さな声。


 反転した視界の景色。


 少女は蔓のような物で、足を(すく)われていた。そして蔓は少女の足に絡み付き、彼女を宙に吊っていた。


「こ、こいつは一体!?」


 ライも想定外の事態に驚いた。


 どこからともなく現れた長い長い蔓に目が行く。その先を辿っていくと、巨大な植物モンスターがいるのが分かった。


 キャベツのような見た目の丸々とした巨大な葉の集合体が本体だろう。その葉の隙間隙間からにょろにょろと伸ばす触手のような蔓。


 ライはこの魔物に面識はないようで、自分も蔓に絡まれないよう、その魔物の動向を警戒していた。


「このモンスターは……フォレストバイン!? 何でこんな所に……」


 逆さまになっていた少女は何とか魔物を確認しようと、身体を捻っていた。


「くっ……。目の前に誘拐犯がいるというのに、フォレストバインに拘束されるなんて……。最悪です」


 自分の拘束が効かず、反対に自分が捕まってしまうとは、こんな皮肉なことがあろうか。少女は自分の不幸を嘆いていた。


 少女は突然襲われたので、不覚にも剣を落としていた。つまり彼女にはこの巨大モンスターを、それどころか自分を絡める蔓さえもどうすることもできないのだ。


 ライはそんな少女の様子を見ていたが、はっきり言って誘拐犯と(ののし)られて気分はあまり良くない。しかし助ければ彼女の考えも改まるだろうと考えたライは弓をフォレストバインに向けた。


(相手がどれくらい強いか分からないけど、やるしかないか……)


 フォレストバインに向かって、ライはまず適当に矢を数本撃ってみる。大雑把に放たれた矢は、フォレストバインの巨体に突き刺さった。


 怯んだフォレストバインは蔓の拘束を緩めた。


 それに伴い、少女も解放された。


「うわっ……!」


 乱雑に投げ出された少女は、大きな尻もちをついた。


「いったぁー」


 少女は尻をさすっている。


 そんなことを気にもせず、ライはこの一瞬の隙で回収した剣を彼女に差し出した。


「どうすれば倒せる?」


「……一時休戦です。フォレストバインは生命力を絶えず回復する能力を有していて討伐は困難です。その巨体から無数の蔓を出して攻撃してくるのも厄介です。その蔓を切断して力の差を分からせることができれば撃退は可能かと」


「分かった。あいつの動きは俺が止める。蔓の方は任せた」


「はい」


 少女は短く返事をすると、前方へフォレストバインの方へ走り出した。向かってくる蔓に捕まらないように、ジグザグに進路を変えながら走る。


(基本的な動きは心得てるみたいだ)


 後方で弓を構えるライは安心した。先ほどと同じように矢を胴体へ乱射する。


 矢が命中する度、フォレストバインが怯む。それと連動して、蔓の動きも鈍くなる。


 少女はその蔓を一撃でスパスパと斬っていく。


 だが、蔓は斬っても斬っても減らない。再度その場で生成されているのかというくらい、蔓の総量に変化が見られなかった。


「あとどれくらいで撃退できそうだ?」


 ライは少女に聞こえるように声を大きくして話しかける。


「分からない……。私も実際に撃退したことはないから……」


「面倒だな……」


 ライは今度は小声で呟く。


 とりあえずはこの作業を繰り返すしかなさそうだ。そう思い、ライが矢筒に手をかけた瞬間、表情が急迫した。


(しまった! 矢がない!)


 全く予想もしなかった事態にライの攻撃の手は止まってしまった。


 クロス・ファンタジーはゲームだった。つまり全てがシステムによって管理されていた。矢は装備さえしておけば、数量無限に何回も放つことができた。


 だが、今の状況は全く別だ。恐らくゲームの世界ではない、いわば現実と言っても違いないこの世界では、矢は消費されるもので有限だった。それを今になって気付かされたライ。


 一方、後方からの頼もしい矢の嵐が止んだことで、少女を取り巻く状況も悪化し始めていた。


「ちょっと! どうしたのですか!?」


 後ろを振り返った僅かな隙で、少女は再び拘束された。今度は何重にもぐるぐる巻きにされていた。


「うっ……」


 傷をいくらか受けているフォレストバインの怒りからか、少女を強く締め付けている。


 その重圧に何とか耐えている少女だが、その顔は苦痛に歪んでいる。


 それを見たライは時間がないことを察し、手段を選んでいられないと決めて行動に出た。


 ライは普段と同じように弓を準備する。しかしその右手に矢はない。


 次の瞬間、その右手に光り輝く矢の形をしたものが現れた。それを同じように弓にセットし、矢を引き始める。

 その動作と呼応するように、矢は輝きを増していく。正確には、帯電しているように見えた。


 ライは自分の魔力から新しい矢を生成し、さらには雷を発生させたのだ。


 矢の帯電が最高潮になった頃合いに、ライは手を離した。


 矢はその軌道の周辺にバチバチと雷を撒き散らしながら、巨大なフォレストバインに向かっていく。


 フォレストバインはその雷の矢を払うべく蔓をけしかけるが、それらは強力な雷に全て打ち砕かれた。


 そして矢はフォレストバインの胴体、肉厚な葉の壁を容易く突き抜けていく。


 時間かからず、矢はその中心部に到達した。細い一本の矢だが、雷の魔力で増幅された矢だ。それは矢の全長からは考えられない程に大きな穴を開け、対象を貫通した。


 雷の轟音。


 フォレストバインの奇声。


 それらが森中に響き、同時に消える。


 やがて全ての蔓は地面にだらしなく落ち、少女は再び解放された。

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