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Tale 16 声の正体(2)

 注目される幽霊少女は頬を赤くする。


 実体がないのに普通の人間のように反応がそこに現れるのだから、ユエラとリスティーは益々彼女を覗き込む。


「あの、あんまりじろじろと……見ないで下さい」


 次第に声量の小さくなる彼女。もともと穏健なようなので分かりづらかったが、至近距離の三人にはそのように聞こえた。


 その後も幽霊少女は拒否反応を示すが、好奇心に支配されているリスティーは、彼女を三百六十度から観察し続けた。


「うへー、やっぱり幽霊だな! ……いてっ」


「その辺にしておけ」


 リスティーの頭をライは軽く叩き、幽霊少女から引き離す。


「ごめんね。大丈夫?」


 ユエラが優しく語りかけた。その時、彼女の手から淡い光が発される。


 一同はそこに注目した。


 そして幽霊少女が顔色を変えてユエラに訴える。その光の正体とは――。


「あの……お願いがあるんです」


「ん……何?」


「あの子を……助けて下さい!」


「分かった」


 ユエラは即答した。しかし彼女の相棒はしかめっ面だ。


 そこでライが自分の考えを話した。


「この事件を引き起こした張本人を浄化してほしいってことだろ?」


 幽霊少女は首を縦に振る。


「あぁ……。ってことはライの予想は当たってたってことか!」


 リスティーの中で点と点がようやく線になったようで、すっきりした表情を見せる。


 ライは少女失踪事件の原因の可能性が幽霊にあると踏んでいた時から、それを浄化すれば良いと考えていた。だが、彼はあいにく幽霊を浄化させる類の魔術を使えない。


 そこでユエラを頼ったわけだ。無論、彼女が期待する魔術を行使できるかどうか、ライには不明だったので直接部屋を訪ねて確認したのだが。


 そして彼女が浄化の魔術を扱えることを確認できたので、ここまで同行してもらった。リスティーまでついて来たのは計算外だったが、もう酔いは醒めているので彼女の存在がマイナスに作用することはないだろう。


「それで、まず君は……」


「私は幼くして命を失った、ただの幽霊の一人にすぎません。イデアという女の子が、自分の欲望を満たすために召喚行為を行っているんです」


「召喚……」


 予想はしていたが、いざ召喚行為が関連していることを告げられると、ライは考えてしまう。


 自分がストラティアに来るきっかけとなったのも、そこにあるはずだ。自分の召喚主がそのイデアという子なのかと思うと、召喚した理由を聞きださねば、と責務が彼を覚醒させる。


「その場所に案内してくれるか?」


「はい」


 そう言うと、幽霊少女は手を一回叩く。生のある人間が彼女に触れることは叶わないが、幽霊自身で完結する接触は可能らしい。その拍手は周囲に木霊(こだま)した。


 その後で、ライたちの周囲から幽霊少女と同じ光が現れる。


「これは……!?」


「みんな、イデアによって召喚された者たちです」


 その群れの中に、実体のある者は一人もいなかった。


(なるほど……。これだけ幽霊が潜んでいれば、そりゃあモンスターたちも動こうにも動けないか)


 ライが昼とは異なる森林の事情を察したところで、幽霊たちは一斉に動き出す。


「行きましょう。彼女を放置すると、被害が拡大するかもしれません」






 そうしてライたちは百鬼夜行にも似た様相で、アルマたちに合流したのだ。


「そうだったのですか。それで、そのイデアって子は……?」


 アルマはリアナに視線を送る。リアナの“まだ”という言い分からして、彼女は今もイデアと遊んでいる最中に違いないのだ。


「えっとね……今はかくれんぼをしてるの。私が捜す役だよ!」


 リアナがそう言うと、幽霊一行は息を合わせて超常的な力を発動した。


 周辺の木々に草木に、その全てが不自然に揺れて騒めく。今まで時折微風が吹くだけだったのに、突風が襲ったかのようだ。


 しかし実際には、風は吹いていなかった。


 幽霊たちの発する特殊な音波が原因だった。


 その音はライたち生きている人間にも聞こえたが、彼らには実害を及ぼさなかった。


 同じ幽霊にのみ、大きな影響が出るのだ。


 それを証明するかのように、幽霊たちの意思は潜む最後の幽霊一人を引き摺り出した。


「あぁー! もう、うっるさーい!」


 その子はリアナと同体格の人間の女の子だった。濃い青の髪を星の飾りで彩っているが、霊体ということあってその色は限りなく薄青だ。


「あー! イデアちゃん、見っけ!」


 リアナは突然空に現れたイデアを指すが、彼女は頬を膨らませて不満を露わにする。


「ずるいよー……。まあいっか。それよりも……」


 イデアは視線の先を自分を呼び出した幽霊一行に合わせて、その方を指す。


「君たち、私に何の用? もしかして、君たちも混ぜてほしいの? だったらそう言って……」


「イデアちゃん、もう帰ろうよ?」


 幽霊一行の代表である少女がイデアに手を伸ばすが。


 ――パン、と破裂音に近い、手を弾く音が響く。


「私はここで満足いくまで遊んでたいの! 邪魔はさせない……」


 イデアは瞳を光らせ、他の幽霊たちを強く睨む。子供のわがままにすぎないが、逆らえば彼女の奥底に眠る力でどうにかさせられてしまいそうに感じ、彼らは怯む。


 数歩後退する幽霊たちを尻目に、ライは前に出た。


「イデアって言ったか? お前を満足させればいいのか?」


「あー、うん」


「だったら遊べば良いんだ」


 ライはアルマたちと幽霊たちに笑みを向けた。


「わ、私たちが?」


「子供の相手は得意だろ?」


「まあ否定はしませんが……」


 アルマ以外にも否定する者はいない。


「俺はその辺を見回っとくから、安心して」


 ライは最後にそれだけ残し、明かりも持たず暗闇へ溶けていった。


 取り残された大多数は困惑のもと、互いに目を合わせる。


「本当に……遊ぶんですか?」


「やるしかないよな」


「まあ、ちょっとだけなら……」


 同僚二人がやる気を見せたので、アルマは息を吐いて気持ちを落ち着ける。


「分かりました。それで、何をしましょうか?」


 アルマはイデアに注文を聞く。


「かくれんぼの続き! でも、今度は私が捜す番。あ……簡単に見つかるような場所に隠れてゲームを早く終わらせるのはナシだからね!」


 イデアを満足させることが事件の解決の要素になるのだから、応えられる要求には全て応える方が良い。それを理解している一同は、一斉に身を潜めるに相応しい場所を探し始める。


 それからきっちり三分が経った。


「よぉーし! 見つけに行くぞー!」


 イデアは期待のもと、透ける体を宙に舞わせて捜索を開始した。

2022/4/16 全体を少し修正。

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