Tale 16 声の正体(1)
光石のガラスに当たり、コツンと鳴る。
短い草が踏まれ、クシャと鳴る。
それだけならば静寂が際立つだけで、なんてことはない。
不安な表情の強まるアルマをそのようにさせたらしめるのは、深夜という時間帯、その薄暗さ、そして四方から耳に入る獣の遠吠えだ。さらには、森林に入ってリアナがずっと見つかっていないという事実が、彼女の不安を煽っていた。
「どこ……行っちゃったんでしょうか……リアナちゃん」
弱々しくも決して立ち止まらないアルマだが、視界が明滅する。
「寿命が……。もう少し持つと思ってたのですが……最悪です」
アルマは夜の冒険者活動など滅多にしない。洞窟に赴いたことも少ない。それゆえ、彼女のカンテラの出番は少なく、見計らいを誤ったようだ。
光石の放つ輝きが失われれば、炎魔術も光魔術も使えないアルマにとって、視界を確保する術はなくなってしまう。
だから歩くペースを上げて、リアナの捜索に努めた。
それからしばらくが経ち、彼女はめでたくリアナを発見することが出来た。
「リアナちゃん!」
「おねーちゃんだ!」
パジャマ姿のリアナは、普段と変わらず無邪気にアルマに寄って来る。
「大丈夫? 怪我は……?」
アルマはその小さな体を触って、彼女の安全を確かめる。
「うーん……大丈夫だよ」
「良かった……。こんな所にいたら危ないよ。さあ、帰ろう?」
事情は街に戻ってから。まずは危険の潜むこの森から出ること。アルマはこの事件に関与する際、常にこれらの事項を最優先にしていた。
しかし差し伸べられた手は取られなかった。
「嫌! 私、まだ遊んでいたい!」
「えっ……?」
リアナのこの反応は初めてだった。想定外の返しに困惑するアルマ。
「今は夜だよ? 遊ぶならお姉ちゃんが今度相手になるから……だから……」
「嫌なの! 私はイデアちゃんと遊んでたいの!」
「イ、イデア……?」
(一体誰のことだろう?)
アルマは、リアナに関する情報はできる限り収集していた。
彼女の脳内検索にヒットしないということは、これより踏み入る地は未知に等しいということだ。アルマは一層周囲に注意を払い始める。
「だ、駄目です! 今は帰ることが最優先です!」
互いの意思が拮抗し、二人は睨み合う。
姉としての立ち振る舞いと、妹のわがままな態度。この光景はそれを彷彿とさせる。
いがみ合う二人の周囲は彼女らの声でうるさい。
そのせいで、アルマは背後からの音に気が付けなかった。
「今はその子の言いなりになっても良いんじゃないか?」
アルマはそう言われてから咄嗟に振り返る。
そこにいたのは捜索隊の後続、ライたちだった。
「ラ、ライ! それに二人も……」
光球が一つ、アルマの視界を明瞭にする。
そして彼女は前方の異変に気付く。ライたちの背後に人ではない存在がいることに。
「えええぇっ……!? ゆ、ゆ、幽霊!?」
透けた体を持ち、宙に浮いている者もいれば、人魂のようなものまで群がっていた。
「あ、あの、周りに幽霊が……」
アルマは指摘するが、それは当然三人も理解している。
「これはどういうことでしょうか?」
三人の反応から、幽霊たちの存在を危険ではないことを悟り、アルマは落ち着きを取り戻しつつある。
「話せば長くなる……ってわけでもないし、まあいいか」
ライは歩きつかれた身体を近くの木に寄せ、語り出す。
それは、ライたちがアルマのいる方角を目指して進む最中のこと。
「そーろそろ戦闘の一つや二つ、あってもいいんじゃないかねぇ」
リスティーが不満そうに腕を振り回す。
「リスティー、戦闘狂にならない。そういうのは今度付き合ってあげるから」
「でも、この森ってこんなにモンスターがいないものだっけ?」
モンスターの活動音はしっかりと聞こえるのだ。しかし縄張りに侵入していないからなのか、モンスターたちと鉢合わせることは一度もなかった。
「そう言えばおかしい。私たち、前に一度だけ夜の森の見回りのクエストを受けたけど、こんなに静かじゃなかった」
そんな議論を交わす中、前方にこの森では不自然に輝く光が入ってくる。
「なんか、光ってねーか?」
「確かに……」
「そうだな」
疑問に思うリスティーとユエラとは対照的に、ライはただ頷く。
歩みを進めて確認できたそれは、霊体から発されるものだったのだ。
ライは進む先に待つ幽霊たちの存在を知っていた。というのも、【捜索網羅の目】の効力によって彼の視界に映し出されていたからだ。
「これって、幽霊か!?」
「おお……!」
女子二人共々、幽霊を怖れず、それどころか感動している。
「やあっ!」
リスティーは自慢の拳をその透ける体にぶつけてみる。
すると拳は霊体を貫通した。もちろん衝撃の感覚もない。空を切るだけだ。正真正銘の幽霊を相手にしていることが分かった。
「あ、あんまり乱暴しないでもらえると助かります……」
リスティーが拳を突き付けた相手、弱々しい女子の幽霊から返事が聞こえると、
「「しゃ、喋った……!」」
三人は目を丸くして彼女に注目した。
2022/4/16 全体を少し修正。




