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Tale 15 真夜中の捜索(3)

 冷え込む外気に身を晒しながら、草原地帯を三人の冒険者が歩いていた。


 一人は黒光りする弓を担いだ、黒蛇の鱗のポーチを携行する青年。

 一人はいつもよりも目元がぱっちりしていない、杖を持った魔術師姿の少女。

 一人はふらついた足で何とか前方の二人を追いかける長身の少女。


 前方の二人は先を急ぎたいのだが、如何(いかん)せん後方の一人を置いていくわけにもいかない。今の彼女を一人にして、安心とは言い切れないからだ。


「やっぱり、リスティーは置いてきた方が良かったんじゃないのか?」


 ライは数十分前のことを後悔する。


 ユエラと宿泊部屋の入り口で話し込んでいる最中、リスティーがむくっと起き上がった。彼女の酔いは()めておらず、少々酒臭さを漂わせて二人に突っかかって来た。


 ライが待っていろとリスティーに言っても、彼女は断固としてそれを拒否した。だから仕方なく連れて来たのだが、やはり失敗だったと心中で嘆く彼であった。


「大丈夫。いざとなったら(おとり)として使う」


 冗談めかして言うユエラに、ライは苦笑いで返す。


「とにかく、出来るだけ急ごうか」


「うん」


 話し合い、意気込む二人だが、その後ろでは何度も咳込む音が聞こえる。


 その後で、何かが逆流し草地に垂れる音がじんわりと二人の耳に届く。その正体を想像したくもないが、


「おい、大丈夫か?」


 嘔吐し、地面に倒れ込みそうなリスティーをライは心配した。


 しかしその本人は顔を上げると、ニヤニヤと笑みを浮かべる。


「おぁ……ライ?」


 彼女の意識がはっきりとしておらず自覚症状が不十分だからこそ、ライは困っていた。


「飲みすぎなんだよ……まったく。明日からはお酒はほどほどにするんだな」


「あぁ!? お前はうちの母さんかぁ!?」


 リスティーが怒りに身を任せてライに突進する。


 彼は悲鳴を上げて、その迫る嘔吐したての彼女から逃げ回った。


「こ、こっち来んな! わ、悪かったから……許してくださぁい!?」


 結局ライは飛びつかれ、二人諸共、顔面から地面に倒れ込んだ。


 積極的なアプローチだが、これほどに嬉しくないと思ったことはなかった。


「ひ、ひいぃぃっ……!?」


 ライは護身のため、指先から咄嗟(とっさ)に青い雷閃を放つ。


 それは襲撃者の全身に伝達し、今度は彼女が驚愕と痛感の悲鳴を上げる。


 雷の裁きが収まると、彼女はその場に突っ伏した。


 ライが流した電流は微弱ではあったものの、恐怖心を煽り、被害者の髪の毛先は焦げていた。


「二人とも、大丈夫?」


 事の成り行きを静観していたユエラが歩み寄る。


「一応治しとく……。【応急治癒(キュア―)】」


 ライとリスティーの傷が塞がり、その跡も消える。


「ありがとう。……はぁ」


 ため息一つ吐いて、ライは両手で地面を押して立ち上がる。


 そして動かないリスティーを見下ろす。


「おい、大丈夫か?」


「うぅ……。うー……」


 長い唸りの後に、彼女はゆっくりと顔を上げる。


「あー……ライ? それに……ユエも。……ってゆーか、何でうちら、外に?」


 状況を把握できていないリスティーに、二人は額を押さえる。


「はぁ……酔っぱらって記憶がなかったのか」


「リスティー、ヤバすぎ……」


「な、何だよ、もう!」


「急いでるんだ。とりあえず立って」


 ライは経過する時間を気にかけ、森へと進みながら事情をリスティーに話した。


「んで、ライはリアナちゃんが急に姿を消すのは幽霊の仕業だと思ってるのか?」


「そうだよ」


「……はははっ! お前、そりゃいくら何でも無理があるだろ! せめてもっと理に適った考え方できなかったのかよ」


「リスティー、馬鹿にしすぎ。(あなが)ち間違ってないと思う」


「ま、まあ、その召喚主の姿を誰も見てないってことは、幽霊なのかもしれないな」


「実際は【視認阻害(ステルス)】なんかで潜伏して接触する機会を(うかが)っていただけなのかもしれないけどな。でも、そうだとすると、なぜ召喚主は一度も姿を現さなかったのかって疑問が残るけど」


「とにかく、今からそれは分かる。……着いた」


 議論を三人で交わす中、気付けば森林地帯が眼前にあった。


 三人は用心しながら森に侵入する。


 冒険者以外は決して用のない場所だ。光源はどこにも見当たらない。強いて言えば木々の隙間から差す月光だけだが、心もとなかった。


 こんな時に役に立つのは光属性魔術だ。


 三人の視界を確保するのは【光の照球(ライトスフィア)】の光球。そこに虫が(たか)り、羽音を立てている。しかし鉱山探索の時と異なり、その数は一つだけ。術者であるユエラは、光を長時間維持するためにはこれ以上の数を展開することはできない。


 ユエラは魔力制御補助の杖に魔力を供給するのに集中している。


 周辺の主な探索はライとリスティーに任された。


 静けさが織りなす森林内に、時折獣の鳴く声が響き渡る。時間帯からして夜行性のモンスターだろう。


 三人は警戒を緩めずに、深くに進んで行く。


「アルマ、いないな」


 ライが呟いた。


 森林地帯は広大だ。この場での人捜しは本来、困難な作業なのだ。


「早く見つけたいな。最悪、すれ違いに気付かないなんてことになったら、笑えないからな」


 ライとユエラは頷き、リスティーに賛同する。


「ライ君、何か良い方法とか、ないの?」


「あっ……」


 ライはそう言われて思い出した。人捜しにうってつけの能力を自身が使えることを。


(【捜索網羅の目(サーチング・アイ)】)


 捜す対象が彼と関わりの薄い人物だったならば、【捜索網羅の目(サーチング・アイ)】の効力は期待できなかったかもしれない。事前情報があればあるほど、この探知能力の見返りは大きいからだ。


 しかし今回の対象は、少なくとも一週間行動を共にしたアルマだ。ライの五感には、強い反応が返ってきた。


 彼の真っ暗な視界に、今三人がいるのと同じような木々の林立する景色が映り出す。


 その中心に少女が一人歩いている。彼女もまだ、人捜しの目的を果たせていないようだ。


 腰には鞘に収まった剣を身に着け、輝きの弱いカンテラを片手に持っている。


 遠目で見れば、彼女は平然と歩いているように見えるが、今彼女は一人だ。奥底の感情を無理に隠す必要はないのだ。額を流れる少しの汗と硬直した不安の表情は、本心から来るものに違いない。


 ライは次に、捜す対象をリアナに変更する。


 すると同じ方向から反応があった。


 それゆえ、ライは捜し人二人が出会うのは時間の問題だと確信し、安心する。


 欲しい情報を収集したところで、ライは目を開けた。


「どうだ? 何か分かったか?」


「ああ、大体はね。……こっちだよ」


 食い気味に聞くリスティーを前に、ライは冷静に返答した。


 そしてこれまでとペース変わらずに歩く。暗闇のもと走っては、返ってはぐれることになりかねない。そして魔力維持に集中するユエラを阻害してはならないからだ。


 三人はこれまで直進していた進路を変更し、ライを先頭にアルマのいる場所を目指した。

2022/4/15 全体を少し修正。

2022/4/17 能力名称を変更:【キュア―】→【応急治癒(キュア―)

【ステルス】→【視認阻害(ステルス)】 【ライトスフィア】→【光の照球(ライトスフィア)

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