Tale 14 魔術師と勉強会(7)
なおも拘束中のミノタウロスはどうすることもできない。手足をまとめて縛り付けられているからだ。
その的状態の牛に対し、攻撃は加速する。
「オラオラァッ!」
「やあっ!」
リスティーの拳とアルマの剣が音を鳴らす。そしてその後方から光の魔術が敵を切り裂く。
(【輝く光剣】! 教わった通り、ちゃんとできた!)
ユエラは自身の【輝く光刃】の威力についても悩みを吐露していた。彼女は先日の森の主に対しての牽制を納得していなかったのだ。
それに対し、オスカーは上位の魔術の習得を提案した。ライたちがてんやわんやとしている中、彼の指導は功を奏し、ユエラは自分の悩みを解決することが出来た。
このミノタウロスはあくまで模造。しかし傷が付けば本物と同様に出血するし、生命力も減少するし、痛みも感じる。その筋肉は次第に肥大していき、遂に拘束は解かれる。
「ミノタウロスが【逆上】しました!」
アルマが重々しい声で言うと、リスティーは己の危険を察知し、後ろに跳ぶ。もちろんアルマも同じように距離を取った。
ミノタウロスのこの能力が発動してしまうと、肉の質は極端に落ち、食用にはならない。したがって美味な肉を入手するには【逆上】させないように気を付けなければならないが、今の彼女たちには関係ない。
三人は一層気を引き締めて、牛の討伐を目指す。
(この状態のミノタウロスには私の【拘束】はきっと効かない。だったら……)
「私が攻撃を受け止めます。リスティーは隙を突いて攻撃してください!」
「大丈夫か?」
リスティーは心配するも、アルマは敵をまっすぐ捕らえて微笑んで返す。
「はい!」
「分かった!」
二人は前進する。アルマが先に斬り込んでいく。
ミノタウロスは彼女に対して斧を振り下ろす。アルマは剣を合わせてそれを食い止めようとする。
「お、重い……!」
【逆上】の発動下ではあるものの、その効果は彼女の予想を大きく上回っていた。両手で耐え凌ぐアルマだが、斜め上からの腕力に容易く押し返されていく。
次の瞬間、アルマの身体を光が包み込む。
(アルマ、大丈夫)
ユエラが安心させるように、【成長の励光】を唱える。そのおかげでアルマはミノタウロスと均衡を保つまでに持ち直す。
「ありがとうございます……!」
そしてリスティーが声を上げながら突進する。ミノタウロスは強化されたアルマの対応で手一杯だ。となれば、リスティーの拳はあっさり通ってしまうだろう。
「決めるぜっ! 【猛虎の剛拳】!」
溜めに溜めた渾身の拳がミノタウロスの側腹部に向かう。
「えっ?」
「なにっ!?」
前衛二人が驚愕した理由。それは、ミノタウロスが斧を振り下ろすのを中断したかと思えば、迫る拳に対応するわけでもなかったからだ。厳つい拳が肉体に刺さり傷を負わせたのだが、安心はできなかった。
ミノタウロスは負荷を受ける直前、斧を斜め前方に投げた。それは円を描いて唯一つの標的に向かっていく。
「ユエラ!」
「ユエ!」
斧の速度は速く、この二人には対処策がない。
二人の視線の先。ユエラは静かに立っていて、迫る斧を躱そうとはしない。代わりに手に持つ杖の宝石が輝く。
「【輝く光剣】!」
複数の聖なる光の短剣が斧に向かって突き刺さる。刃先が斧を受け止め、やがて音を上げてひびが入り粉砕されたのは、ミノタウロスの斧の方だった。
そして光の短剣は勢い失わずに旋回し、筋肉質な牛を貫通した。
ミノタウロスはその場で悶えたが、すぐに形状を失い溶けるように消えてしまった。
その光景を見届けた少女三人と、傍観していたライとオスカー。五人は同時にこの模擬戦においての勝利を確信した。
「やったー!」
「うちら、ミノタウロスを倒したんだよな!?」
アルマとリスティーはハイタッチをして喜び合う。
ユエラも彼女たちのもとへと小走りで駆けて行き、戦勝の雰囲気に混じる。
「私たち、強くなった……気がする」
「そうだな! っていうかユエ、よくあの短時間で新しい魔術をものにしたな! 実用レベルじゃんか!」
リスティーは相棒の成長を褒め称える。
実に、ユエラは二つの魔術を扱えるようになっていた。紛れもなく、彼女の努力の賜物だ。
「うん、頑張った。……ありがとうございました」
ユエラは歩いて向かってくるオスカーに深々と礼をした。
「いえいえ。皆さん、よく頑張りましたね。非常に良かったと思います」
オスカーはユエラを見た後、他の二人にも視線を送りそう言った。
「俺も同感だよ。お疲れ様」
ライも三人の成長を実感していた。
そうして勝利の余韻に浸っていると、日が暮れ始める。
五人は街へ戻ることにし、ギルドまで到着した。
「これから俺たち、打ち上げをしようと思ってるんですけど、オスカーさんもどうですか?」
先日の大討伐クエストの際にはアルマがいなかったために控えていた打ち上げ会を、今から行う予定だった。
「お誘いは嬉しいですが、遠慮させていただきます。まだやるべきことがありますので」
「もしかして、無理させちゃいましたか?」
アルマは申し訳なさそうに言う。
「いいえ。今日皆さんと過ごした時間はとても有意義でした。面白いものも見られましたしね」
オスカーはライを向くが、彼はすぐに視線を逸らす。
(俺の魔術かよ! 目を付けられないようにほどほどにしとこ……)
「では、私は失礼します」
オスカーは姿勢よく歩いて、街の中心部の方へと歩き、やがて姿も見えなくなってしまった。
「それじゃあ、打ち上げ始めるか!」
達成感に溢れた笑みを浮かべるライ。
酒場の扉が押し開かれ、意気揚々と四人はそこに足を踏み入れた。
2021/8/31 一部技名を変更しました。(物語に大きな変更はありません)
2022/4/14 全体を少し修正。
2022/4/17 能力名称を変更:【ホーリーグラディウス】→【輝く光剣】
【ホーリーエッジ】→【輝く光刃】 【バインド】→【拘束】
【ルミナスグロウ】→【成長の励光】 【タイガーフィスト】→【猛虎の剛拳】




