Tale 14 魔術師と勉強会(5)
ライは一つ思い出した。アルマが投げナイフを使っていたことを。
彼女と初めて会った時、差し向けられたナイフは正確性に長けていた。それはスヤスヤ亭の壁に刺さった時も、レッドウルフを仕留めようとした時もだ。
ライは、アルマには投げナイフの扱いについて才能があると感じていた。
「投げナイフなら、教えられるかもしれない」
投げナイフはその名の通り投擲武器だ。距離を取って使うという点では、矢と共通している。
「本当ですか?」
「ああ。俺と同じ方法を取ってみるのはどうだ?」
「同じ方法?」
アルマが疑問を呈する中、ライは矢筒から一本矢を取る。そしてそれに雷を纏わせる。
適当に放たれた矢は放物線を描き、草地へと刺さった。
「でも私、雷は使えません……」
先の試みで、アルマもリスティーも雷魔術を扱えないのは明白だ。ライの教え方が悪かっただけかもしれないが。
「あるだろ? アルマが使える魔術が」
気持ちが上下するアルマに対して、ライは自身気に言う。
「そうか……!」
そしてアルマよりも先にリスティーが察するが、その直後に無事アルマも答えに行き着く。
「もしかして……【拘束】ですか?」
「うん」
矢に魔術の効果を付与できることは、既にライが何度も実証済みだ。
この理屈が他の武器種にも当てはまるのならば、攻撃方法のバリエーションは武器と魔術の数だけ、つまり無数に存在することになる。
アルマの【拘束】の射程は短い。この短所を投げナイフでカバーすることができれば、十分に彼女の力として確立させることが出来るだろう、とライは考えた。
「でも、そんなことが出来るでしょうか……」
「やってみなきゃわからないだろ? とりあえず、試してみようぜ」
アルマはポーチの側面に引っ掛けられている、小さなナイフを一本取る。
そしてライが見守る中、ナイフに【拘束】を発動する。
すると、ナイフの周囲を特殊な縄が囲み始め、やがてそれを締め上げた。
今、彼女の目には、刃に食い込んでいるはずの縄が全く切れる気配のしない、異様な光景が映っている。
「あちゃー。こりゃ失敗だな」
リスティーが他人事のように軽く言い放った。
だが、アルマの手元にあるその結果は、誰がどう見ても失敗と言えるものだ。ナイフを縄で縛りあげて一体どうするのか。
落ち込むアルマを見て、ライはフォローする。
「まあ一回目だ。失敗するのは当たり前だよ」
「はい……」
「ナイフに術をかけようとしないで、その中に魔力を集中させてみたらどうだ?」
「やってみます」
ナイフにかかっている拘束が解けてすぐ、ライの言う通りにしてみる。
(ナイフの中、ナイフの中……)
薄い金属の刃の内部を想像し、そこに向かってもう一度術式をかけようと試みる。
アルマの表情は次第に険しくなる。同時に唸り声を上げ始め、見守る二人も不安になる。
しかし手元のナイフには変化が見られた。内部が発色しているのだ。小さい刀身なので、ライはそれにすぐ気付いた。
「いいぞ! もう少しだ!」
ライは声援を送る。しかしそれが返ってアルマの集中を阻害してしまった。
ナイフに順調に浸透していた彼女の魔力は、一瞬でどこかへ弾け飛んでしまった。
「うわあぁっ!?」
聞き覚えのある悲鳴。
リスティーはぐるぐる巻きにされていた。アルマが普段よりも力んで【バインド】を使用していたので、その効果も絶大だった。
「うぉい、アルマ! どーしてくれんだよ! うっ、息が……」
「ご、ご、ごめんなさい! どうしよう……!」
慌てふためくアルマ。
「ちょっと貸して」
ライはアルマの手からナイフを取った。
【拘束】による効果は、耐性を有していなければ防げない。解除を時間経過に任せないのであれば、外部から力を加えることは必須だ。
ライは小さな刀身に雷を纏わせ、それを太い縄に押し当てる。
すると縄は焼かれ、スッと刃が通った。これがただのナイフだったら、こうはいかなかっただろう。今、リスティーを解放することが出来たのは、縄の魔力を雷の魔力が上回ったからだ。
アルマのやりたいことを簡単にやってのけるライ。
それゆえに力の差をますます感じるアルマ。
「やっぱり私には出来ないのでしょうか?」
「そんなことないさ。さっきはあと少しだったよ。俺が邪魔しちゃったみたいで、悪いな」
「いえ……もう一度やってみます」
励まされ、やる気を取り戻したアルマは同じ手順を踏んで、ナイフに魔力をかける。
今度は物音一つ立たない状況で、ナイフに十分な魔力が送られる。
彼女も脱力した状態にあり、成功の見込みは大きかった。
十秒後、アルマはナイフに内包されるその反応を読み取り、作業を止める。
「で、出来ました……!」
ライはナイフに目を向けると頷いた。
「じゃあ、それをどこかに投げてみよう。えっと……」
そうは言うが、周囲は一帯草地だ。狙える木々があれば良いが、それすらもない。
ライは弓を構え、上空目掛けて魔力の矢を放つ。
「【雷鳥飛矢】!」
放たれた光の矢は、上昇の過程で鳥へと変形していく。
「うわっ!? 何ですか、あれ?」
「もしかして召喚されたモンスターか!?」
女子二人は飛行中の雷纏う鳥に驚いている。
「矢を鳥の形に変形させる魔術……って言ったらいいのかな。偵察とか、上空からの攻撃に使うんだ」
「へぇー……!」
「まあとにかく、あの鳥を狙って」
「は、はい!」
手に握るナイフが小刻みに震える。深呼吸して、自分のタイミングで投げた。
四十五度ほどの角度で、刃は仮想の鳥へと向かう。
そして見事に刺さった。アルマは投げナイフの腕に関しては、ライが見込んだ通り、幾らかの才があると言ってよかった。
羽を広げ大らかに飛んでいた鳥の胴体に刃が刺さり、その直後、ナイフの刀身から光る縄が出現した。
鳥は羽ごと巻き取られ、垂直に落下する。はじめは抵抗していた鳥だが、やがて霧散していき、締め付けていた縄も消えた。
「これが、私の力……!」
「おめでとう。よく頑張ったな」
ライはアルマの頭を撫でる。
アルマは頬を赤くして、彼を見上げた。
「ありがとうございます!」
「良かったな!」
リスティーもアルマを讃える。
こうして二人は自分の新しい能力に気付くことが出来た。
2022/4/14 全体を少し修正。
2022/4/17 能力名称を変更:【バインド】→【拘束】




