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Tale 2 召喚先の世界(3)

「おねーちゃん!」


 リアは襲撃してきた少女の方へ走っていき、その細身の腰に抱きついた。


「リアナちゃん! 大丈夫? けがはない?」


 女は剣を持っていない方の手で、少女リアナの頭を優しく撫でた。


「うん! 大丈夫だよ」


「良かった」


 リアナの返答に、少女はほっとする。

 そして彼女はライに殺意を向けてきた。


「さて、あなたの処遇をどうするかですけど……。まあ大目に見てあげます」


「……?」


 よく分からないが、許されたらしい。彼女のそんな言葉に、ライも胸を撫で下ろした。


 しかし実際には、安心できなかったのだ。


「このまま連行して、街の兵士から尋問後、投獄と言ったところでしょうか……。投獄後は生かされるのか殺されるのかは分かりませんが、今私が手を下すのはやめておきましょう。詳しい事情も聞き出せませんしね」


「はぁ!?」


 ライは事態が急展開すぎて、ついていけない。なぜ自分が逮捕されなくちゃいけないのか、全く分からなかった。


 しかしリアナとの会話を思い出せば、話がこの流れになってもおかしくはなかった。


 リアナが謎の声によって森に呼ばれる件。その声の主がライなのではないかと少女は疑っているのだ。つまりは、リアナを誘拐しようとした犯人が目の前にいるから捕まえてしまおうという流れではないかと、ライは思考が行き着いた。


 実際、ライはリアナと一緒にいたわけだし、さらにこの辺りでは見ない顔のため一層怪しく見えたことにより、少女はそう決めつけているようだった。


「さあ、大人しくしてください! 抵抗しなければ、ここで命を取ったりはしません」


「俺が何をしたって言うんだ!?」


「そんなの決まっています。少女誘拐ですよ」


 ライの予想は的中していた。そして彼女の誤解を解くことこそが、ライの身の安全の保障に繋がると理解した。


「俺はやってない」


「犯人はそうやって言い逃れするものです。それに私がこの目で現場を見たのですから現行犯です」


 そう言われると否定できなかった。

 しかし誘拐に関与していないことも事実だ。


 彼女の誤解を解くには、リアナの証言が必要不可欠だ。

 そう思ったライは、助けを求めようとした。


「ええ!? 寝てる!?」


 女の腰に抱きつき、顔をうずめていたリアナは立ったまま眠っていた。いや、正確には、


「リアナちゃんには寝てもらいました。あなたが虚偽の証言をこの子に求めることは想定済みです」


 リアナは眠らされていた。


「くそっ……」


 ライは渋々弓を構えた。こうなった以上、頼れるものは自身だけだったからだ。

 戦闘態勢に入ったのを確認して、少女はため息をついた。


「大人しくしていれば私の印象も損ねなかったのですが……。仕方ありません。【拘束(バインド)】」


 少女がそう言うと同時、ライは弓を地面に落としてしまった。

 突如空間に現れた紐のようなものが、ライの両腕と胴をまとめて縛り付けたのだ。


「こ、これは……【拘束(バインド)】!?」


 ライは驚いた様子で少女の方を見る。彼女は表情を変えず、しかもリアナを抱えたままこちらに近づいてくる。


「ええ、そうです。あなたを拘束させてもらいました。さあ、このまま街に行きますよ」


 少女はライを縛り付ける紐の一端を手に取り、引こうとする。

 しかしその前に、この丈夫そうな魔法の紐は消えてしまった。


「なっ……!?」


 少女は弾けるように消えた魔法の紐を目の当たりにして驚いた。


「悪いな。俺に【拘束(バインド)】は効かない」


「き、効かないって……それじゃあ街まで連れて行けません!」


 少女は手段に困り、慌てふためいている。

 しかしすぐに密接していた距離をとっさに開けて、自分とリアナの安全を確保した。


 クロス・ファンタジーでのスキルが適用される。それが関係しているのだ。


 ライはクロス・ファンタジーでは、対人戦に備えて様々なスキルを習得していた。もちろん、拘束(バインド)状態への耐性もその一つだ。拘束されて、敵にタコ殴りにされるなんて醜態はとても晒せなかった。


 今驚いている少女の様子を見るに、この世界のレベルが低いのか、はたまた彼女のレベルが低いだけなのか。それは明らかではないが、ライは少女の方が格下だとこの一瞬で断言できた。


「どうする? 俺を殺してでも連れて行くか?」


 ライは落とした弓を拾いながら余裕そうに言う。

 実際、今は弓についた土汚れを払い落す余裕だってあった。


 少女は返答に困っていた。形成が逆転したようなものだ。


「そうなるのも覚悟の上……と言いたいですが、今はこの子がいます」


 少女は可愛い寝顔のリアナに目を向ける。


「仕方ありません……」


 少女はリアナの顔に手を近づける。その手から温かい光が発される。すると、ぐっすりだったリアナはゆっくりと目を覚ました。


「あれ……おねえちゃん……?」


 少女は抱きかかえていたリアナを優しく地面に下ろす。

 リアナは目を擦っているが、少女はその肩をがっしりと掴んだ。


「さあ、リアナちゃん。あっちの方向に走って行って! 森を出られるわ。赤いリボンで木に印をつけてあるから、迷わないはずよ」


「ええっと……」


「リアナちゃん! 速く走って!」


 少女はリアナを逃がそうとしていた。万事を想定してマーキングまでしているとは、用意周到だ。


 そして何か言いたげなリアナは戸惑いながらも、その小さな体で走り出した。

 ということは、少女が次にとる行動は一つだ。


「これであなたとの戦いに専念できます」


「マジかよ……」


 ライは面倒くさそうに少女を見る。

 一方の少女はやる気満々に剣を持っている。


(まあいいか。ちょっと傷を負わせれば退()いてくれるだろう。っていうか、俺もこの森出たいんだけど……)


 ライが余所見(よそみ)をした一瞬を、少女は見逃さなかった。彼が正面に向き直った時、女は既に走って来ていた。


「一対一の場で余所見なんて……! ふざけないでください!」


 少女は自分が舐められていると思い、感情が昂っていた。その様子は彼女の動作にも表れていて、少しオーバーに剣を振りかぶったことがその証拠だ。


 ライは少女の迫ってくる様をただ見ていた。正直、クロス・ファンタジーでの対人戦の相手の方が良い動きをしていたから、このくらいをどうにかすることくらい容易かったからだ。


 少女はどんどん距離を詰めて来る。


 無策なのか、一直線に走って来る。


 しかしそんな彼女の姿は次の瞬間、ライの視界から消えた。

2022/4/16 能力名称を変更:【バインド】→【拘束(バインド)

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