Tale 14 魔術師と勉強会(2)
見晴らしの良い草原地帯。数分で広いスペースを見つけ、そこへと向かうが、既に先客がいた。
「いいぞユエ! もっとだ!」
「えい、えい」
温度差はあるが、やることはしっかりとやっている二人組。
ユエラが光の弾を撃ち放ち、それをリスティーが弾くという構図が、三人の目に映る。
ライは手を小さく振りながら、彼女たちに声をかける。これが関わりの浅い他人だったならば、ライたちは遠慮して他の場所を探していたことだろう。
「おーい!」
この場には少なくとも彼ら五人しかいない。リスティーたちは、彼の声の対象が自分たちであることをすぐに認識する。
「ライとアルマか! ん? 一緒にいるのは……」
長身のオスカー。それに、協会指定のローブを彼は着用している。魔術師系の冒険者の格好とも纏う雰囲気が違うので、目立つのは仕方がないことだ。
「魔術師協会のオスカー・リソルビュスと申します」
オスカーは一歩前に出て自己紹介をする。
「協会の人かー。うちはリスティー、よろしく!」
リスティーは適当に流すように、しかし礼節は忘れずに、元気に挨拶を返す。
一方、ユエラは目の輝きを変えていた。
「魔術師協会の……人!」
ユエラは一歩二歩と、オスカーに歩み寄る。
ライは彼女の様子に意外だと思ってしまった。何より、普段は何をするにしてもユルい感じのユエラだ。内に秘める情熱を顕わにするのは、食事の時くらいなのだ。
「おい、どういうことだ?」
ライは隣にいるアルマに小声で聞く。
彼女は不思議な顔をしたが、彼の視線の先を追うとすぐに察した。
「ユエラは魔術師協会に入りたかったんですよ」
「入りたかった?」
「選考で落とされたみたいなんです。詳しくは聞いていませんが、実力が足りなかったとか……」
本人がそれ以上のことを語りたがらなかったことは容易に想像がつく。
ライは視線をユエラ当人に戻す。魔術を嗜む者同士で会話は進んでいた。
「ユエラさんは光属性の魔術をお使いになるのですか」
「はい。やっぱり光属性魔術はキラキラしていて惹かれるものがありますから。あと、適性に恵まれて回復魔術も少し使えます」
「そうなのですか! そちらについてもぜひぜひお話しください」
回復魔術は大域的には光属性魔術に含まれるのだが、今は気にしなくて良いだろう。魔術のプロであるオスカーがそれを指摘せずに、話にのめり込んでいるのだから。
「えっとですね……」
今のユエラには周りが見えていないのか。それにしても、彼女から溢れているものは、オスカーへの尊敬の念だ。自分というものを存分にアピールしている。
魔術師協会の入会を目指しているという志は、その様子だけで一目瞭然だった。
対して、オスカーも勢い負けしていない。
二者のキャッチボールは放置しておけば日暮れまで続くだろう。
それでは今日の目的を達成できないので、ライは二人を止めた。
「オスカーさん、本題に入ろうか」
「これは失礼しました」
オスカーは一つ咳払いをする。
「そう言えば、ライたちは何でここに来たんだ?」
「魔術の伝達をしようと思ってね」
「おー、いいな!」
「私たちも混ぜてほしい」
ユエラとリスティーは、力をつけるため自主トレーニングをしていた。昨日の大討伐で疲れていたため、モンスターとの戦闘は控えて、この場所で目的を達成しようとしていたのだ。
「もちろん。いいですよね、オスカーさん?」
「はい。人は多い方が楽しいですしね」
こうして五人での勉強会が始まった。
オスカーを講師として正面に、他の四人は一列に並ぶ。
「では始めましょう」
「「お願いします!」」
「まず初めに、魔術とは何であるか。これは皆さんお分かりでしょうか?」
四人は一様に頷いた。
哲学的な答えを期待している訳ではなかろう。魔力を媒介に引き起こされる超常現象。そんな解釈で充分だ。
「では、その伝達方法についてお教えします。そうですね……。ユエラさん、あなたはご自身の魔術をどのようにして習得しましたか?」
「本を読んで、練習を繰り返しました」
オスカーはうんうんと頷く。
「そうでしょう。大抵の場合はユエラさんがとった方法で魔術を習得することが出来ます」
経験を積んだ結果として、望んだものの習得が叶う。魔術に限らず、当てはまる例は無数にあるだろう。
「それで、伝達はどうすれば良いのですか?」
アルマが先が気になる様子で聞く。
「はい。まずは教える側と教えられる側の二人が必要です。魔術には構造があり、教える側は当然それを熟知しているはずです。そうでなければ伝達は務まりません。ですので本を読み、独学で習得するよりも遥かに効率が良いのは確かです」
オスカーがそこまで述べると、場が静寂に包まれる。
「えっと、これだけ?」
リスティーが期待を裏切られた声を発した。
オスカーの言ったことはごく普通のことで、何ら特別性は含まれていなかった。
「はい。そうですが……」
(えーっ!? ファンタジー世界だから、何かこう一瞬で覚えちゃいました、みたいなのかと思ってたんだけど……)
ひとしきり続く静寂。それをオスカーが破る。
「皆さん、もっと特別な方法を期待されていたようで……。まあ、あるにはあるのですが」
四人の目の色が変わる。それに対する興味を示しているのは間違いないが、強くなりたいという願望も大きく混ざっていた。
オスカーは四人にせがまれる。最初は中々口を割らなかった彼だが、対抗勢力が衰えなかったので折れてしまった。
「機密事項ではないですし……まあいいか。魔術の伝達には、ちょっとした裏技があります」
「裏技!」
ユエラが強く反応する。
「魔術古紙と記憶転移装置を使います」
一同の聞いたことのない単語が二つ発され、理解の及ばない様子でいるので、オスカーはまずそれらの説明から行う。
「魔術古紙は魔道具の一種で、記憶構造を持ちます。魔術を放つと、その仕組みを記憶してくれます。記憶転移装置は魔術古紙の情報を読み取り、接続された物に対してその内容を流す魔道具です」
ライはオスカーの説明から、おおよその伝達手順を推測する。
まずは教える側が、教える魔術を魔術古紙に放つ。するとその魔術が独自に持つ構造が、魔術古紙に記憶される。
そして教えられる側が記憶転移装置を介して自身の記憶に、その魔術の組成を叩き込む。
確かにこの手順ならば、時間をかけずに好きな魔術を習得できる。
ライはこの推測を皆の前で発言した。
「その通りです。ですが……」
オスカーが言おうとしたこと。それもライが代弁する。
「それは誰にでも当てはまることではない、ですよね?」
この方法が主流になっていれば、冒険者たちは誰もが強い力をつけ、グリュトシルデが人員不足や戦力不足に陥っているはずがない。冒険者職に人気がないというのであれば話は別だが、酒場は毎日彼らで賑わっている。
「この方法は教える側の魔術の習得難易度に対して、教えられる側の人間が同程度の実力を持っていないと、成立しえない手法なのです。魔術古紙は、伝達する魔術の構造をそのまま読み取ります。高度で複雑であるほど、記憶を受け取る側にも、それを理解できるだけの潜在能力が要求されるのです」
アルマ、リスティー、ユエラの三人は同時に肩を落とす。
楽して強くなれる道理はこの世界には存在しないということだ。オスカーの提案する裏技というのは、どちらかと言えば、時間短縮のために用いられる手法に近い。
各々が努力しなければならないことを悟ったところで、オスカーはこの話を終える。
「この話はここまでにしましょう。では実際に、皆さんでやってみましょうか」
彼の提案を否定する者はいなかった。
2022/4/14 不要な記述を削除、そのほか説明不足と感じた箇所に補足しました。




