Tale 14 魔術師と勉強会(1)
晴天のグリュトシルデ。
何をするにも気持ちの良い一日の昼間だ。
その街のギルドにて、ライはカウンターの職員と会話していた。
「ライさんですね。昨日は討伐クエストへのご協力、ありがとうございました。こちらが今回の報酬金になります」
彼女は予め分割されていた硬貨の塊をカウンターに置く。
ライはそれを大雑把に数え上げる。
(中銅貨が八枚と、小銅貨が三十枚か)
当初の報酬金が中銅貨五枚だったことを考えると、五十パーセント以上の上乗せだ。他の冒険者たちも懐が潤い、喜んでいることだろう。
「ありがとうございます」
ライは硬貨を掴んで袋に入れる。重みが増すのが十分に彼の左腕に伝わった。重みの大半が小銅貨ではあるが。
そしてライは受付を去った。
次に彼が向かう場所は街の外ではなく、上の階だ。
硬貨の受け取り時、職員にレイネールとの面会を希望したところ、今の時間帯は部屋にいるらしく、直接訪ねてみてほしいとのことだった。
ライは待たせていたアルマを連れ、目的の扉を叩く。
すると、中から聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
「どちら様でしょうか?」
「ライです。少し聞きたいことがありまして」
「どうぞお入りください」
「失礼します」
ライは扉を開け、部屋を覗く。アルマも彼の後に続くが、二人とも部屋に入る前に足が止まった。
彼らの視界にはレイネールの他にもう一人、見知らぬ男性が座っていたのだ。
髪色はレイネールと同じ紫色。左目はその髪で覆われていて、レイネールが不思議な雰囲気を漂わせていたのに対して、その男は少々の怪しさを匂わせていた。
しかし彼の隠されていない片目からは優しさを感じ、彼のマイナスイメージは中和された。
格好は地面まで丈のあるローブ姿だ。精白な布地に紫色の線が入った、良質な物に見える。
「おや、お客様ですか……」
「この人は……レイネールさんの兄弟の方か何かですか?」
性差はあれども、色から姿までレイネールそっくりなのだ。ライでなくても、そう思う人は他にもいるだろう。
そんなライの言葉に、レイネールは少し驚く。
「いえ、違いますよ」
会話の間を縫うように、二人の注目する男性がソファーから立ち上がった。
「初めまして。私は魔術師協会のオスカー・リソルビュスと申します」
オスカーは軽く礼をする。その直り際に、ライは彼の紫の瞳に下方から覗かれると、僅かに警戒してしまう。声は柔らかだが、彼から放たれる視線にはすぐには慣れなかった。
だがレイネールと一緒にいた人物だ。少なくとも悪人ではないことは予想がつく。そう思うと、ライはこれまで通りの明るい調子で挨拶を交わすことが出来た。
「俺はライです。よろしくお願いします」
「私はアルマです」
二人は順々にオスカーと握手を交わす。
ライと手を交わした時、彼は不意に手に力が入り、その手を離さなかった。
「これは……驚きました」
ライとアルマは理解が追い付かない。
自分の手をまじまじと見るオスカーに、レイネールは少し笑う。
「やはりそう思いますよね」
状況が二対二に分かれる。だが、このままではハッキリしない。
「えっと、何がですか?」
この状況を招いたであろう本人が尋ねた。
「魔術に精通する者は、相手に触れるだけでその魔力や魔術の熟練度というものが分かるのです」
レイネールが答えると、オスカーも頷いた。
「時間のある時に、是非ゆっくりとお話をしたいです」
オスカーから期待の目を向けられるライだが、勘弁してほしかった。
ストラティアの生まれではないライには、魔力やその周辺のことについて語れるものは何一つない。無理にでもそうすればボロが出るだろう。
ライは自然と彼に苦笑いで返した。
「それでお二人は、どのような御用でいらっしゃったのですか?」
レイネールが話を本筋に戻す。
「実はこの前レイネールさんに言われた、魔術の伝達っていうのが気になって……。どうやったらできるのかなーって思って、それを聞きに来ました」
「それじゃあ今日の街の外に出掛けるって話は……」
「広い場所の方が良いだろ?」
出掛ける前、「ついてくれば分かるさ」とだけ言われたアルマの予想は的中した。
「なるほど……。でしたら丁度良いですね。オスカーさん、お二人にご指導していただけますか?」
「もちろんです」
(うえぇっ!? マジか……)
ライは全身がこわばる。
今日の残りの活動時間、オスカーといることが確定した。
「では早速行きましょうか」
なぜか誰よりもやる気のオスカーは、二人の間を割って階段を下りていった。
「ほら、ライ! 行きますよ」
ぽかんと口を開けているライは、正気に戻りつつアルマに手を引かれる。
「ふふっ。本当に仲の良いお二人ですね」
当人たちに聞こえないよう、レイネールは静かに言い、開けっ放しの扉を閉めた。
ライたちは勢いそのままに、ギルドの建物の外に出た。オスカーはすぐ隣にいる。
「さて、どうしましょうか?」
「平原に行こう。そこなら人目を気にすることもないだろうし」
合意の上、三人は歩き出す。
目的地までは数分かかる。無言の時間が経過するはずもなく、きっとオスカーに質問攻めにされる。そう思ったライであったが、上手く回避する自身が無い。
そんな時、彼の危機を察してか、アルマがオスカーに質問する。
「オスカーさん、レイネールさんと何を話していたんですか?」
(ナイス!)
「彼女とは、新作の魔道具について意見交換をしていたのです」
(魔道具って、あれのことか)
ライは自分が冒険者登録した時に使われた様々なアイテムのことを思い出す。その最中、会話は続く。
「新作ですか。何か注目を引く物でもあるのですか?」
アルマもその辺の事情には疎いらしい。
魔道具という物は、稼ぎの少ない平民が容易く入手できる代物ではないのかもしれない。
「既存の物ではなく、新しく作り出す計画を立てていたのです」
「魔道具の製作ですか!?」
魔道具の試作。それはこの世界では高尚な行為だ。少なくとも魔術を熟知していなければならないからだ。
その発言だけで、オスカーの力量は二人の予想を軽く超える。
「まだ、どんな物を作るかを決める、その段階ですけどね」
丁度今日がその計画のスタートだったらしい。
「それって魔術師協会の仕事……のようなものなのですか?」
「そうですね。職務の一つと言って差し支えないでしょう」
アルマは感心の声を上げながら、彼の言う一言一句を脳内に仕舞う。
「お二方は魔術師協会がどのような場所かご存じですか?」
オスカーの問いに、二人は首を横に振る。彼らの想像に及ぶ範囲は、その組織の名称によるものだけ、すなわち魔術をどうこうするという漠然としたイメージだけが思い浮かんだ。
「ならば、折角なので少しお話ししましょう」
魔術師協会は、王国を中心に広がる組織。その歴史は冒険者ギルドと同程度に長く、その礎になった組織のことを含めればギルドよりも古くからある。
協会は王都に本部を持ち、王国側の大きな街にはそれぞれの支部が設立されている。オスカーはグリュトシルデ支部の構成員なのだ。
さらにその構成員にも階級がある。段階は三つで、低い方から緑、紫、赤色と呼ばれる。誰がどの階級なのかは、制服でもあるローブのデザインで一目見て分かるようになっている。
魔術師協会の掲げる目標は、果てなき魔術の探求と体系の管理。構成員たちのすべきこともそれに紐づくものばかりだ。
新しい魔術を研究するも良し、己の魔術の研鑽に励むも良しだ。一方で、人々に魔術の使い方や利便性、危険性を説くことも彼らに課せられた義務である。
「このような感じです。如何ですか?」
オスカーはつかえることなく流暢に説明した。
「勉強熱心なんだなあ」
ライはオスカー含め、構成員たちに感心する。何となく放った一言だったが、オスカーの胸にはそれが深く刺さった。
「興味を持って貰えて嬉しいです」
この瞬間、ライはカルト集団の邪気に似たものを感じたが、あくまでオスカーは敬服の強い男であり魔術オタクな一面があるだけにすぎないだろう。
言葉を交わすことで、ライは彼と少し打ち解け合うことが出来た気がした。
その頃、三人は街の正門へと着く。そこから門を潜って平原に出て、活動に適した場所を探すことにした。
2022/4/13 不要な記述を削除、その他にも少し修正




