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Tale 13 療養の七日間(七日目)

 療養七日目。


 いよいよ森の主の大討伐クエストが決行される。


 参加冒険者たちは既定の時間に集合し、街を出発した。

 今はターゲットのいる森に向けて歩いている。


 草地を踏む音が四方八方から乱立する。それと同時に男女の話し声が飛び交う。


 目的地に着くまではモンスターとの遭遇はほぼあり得ない。街に近い場所であるし、徒党を組む彼らに挑む度胸のあるモンスターはこの近辺にはいないのだ。


 ライは先頭の方を歩いていた。今日一日、冒険者を牽引する男と共に。

 男二人の後ろを、女子二人も歩いていた。


「アルマが来れないのは、残念だったな」


 フェイズは納得いかない声を上げる。しかし体調を優先することに関しては、彼も理解している。


 冒険者は自身の体が資本だ。それがなくては何も出来ない。


 フェイズは折角の機会に、アルマに自分の活躍っぷりを見せたかったらしい。全く、まだ敵が見えてもいないのに、フェイズは自信満々、やる気満々なのだ。彼の様子に、ライはアルマの分まで期待が膨らんだ。


「先輩の雄姿を近くで見れるなんて、感激です!」


「本当に楽しみ……」


 背後のリスティーとユエラも、ライと同じようにフェイズに期待していた。


 彼女らはフェイズとの面識はない。二人はアルマと同じブロンズの冒険者であり、フェイズは冒険者歴でもランクでも先輩に当たる。


「へへっ。嬢ちゃんたちにそう言われると、頑張らないわけにはいかないな!」


 一層やる気の高まるフェイズはどこか恥ずかしそうだ。


 その調子が続いて、一行は森の入り口まで辿り着いた。


 リーダーを務めるフェイズは、早速芯のある声で全体に指示を出す。


「それじゃあ皆、少人数のチームを作ってくれ!」


 冒険者たちは言われた通りに、小集団を次々に作っていく。

 この工程は滞りなく済まされた。彼らはその職の性質上、他者との協力や環境への適応には慣れている。


 どのチームも隊列と武器種バランスを考えた構成になっている。

 近接系と遠隔系の冒険者がどちらも少なくとも二人以上は組み込まれていた。


 ライのチームも例外ではない。

 弓を使用するライ、魔術をメインウェポンとするユエラ、拳に黒の(いか)ついグローブをはめる、殴り攻撃重視のリスティー。そして自慢の筋肉を充分に生かせる大剣を担いだフェイズ。この四人で構成されている。


 特に、フェイズの大剣はピカピカだった。自分のために、自分の鍛冶技術で鋼を打ち、研磨剤で手入れしたのが良く分かる。今日に懸ける意気込みが伝わって来た。


「よし、行くぞ!」


 チーム数を把握し終えたフェイズが高らかに叫んだ後、


「「おー!」」


 冒険者たちは対抗するように声を張り上げた。




 森に入ってからしばらくは大きな戦闘はなかった。森の主の姿も見られなかった。


 しかしどの冒険者も警戒は緩めない。森の外にいた時とは雰囲気がまるで違った。

 そして、しばらく歩いたところでフェイズが提案する。


「ここからは分担しよう」


 全員が頷き、各々はすぐに行動に移った。


 今回、フェイズ以外にも冒険者稼業を休んでいる者が幾らか参加している。


 フェイズが昨日の集会の後、同僚たちに声をかけて回ったのだ。その者たちはシルバーやゴールドランクを有していた。


 ブランクがあるとはいえ、それと認められる実力があった者たちだ。その結果、全体的なレベルは一時的に向上し、当初ギルドメンバー全員で掛かっても倒せる森の主は数体というレイネールの懸念は解消された。


「俺たちも行こうか」


 ライの言葉に合わせ、彼のチームも森の主探しに移った。


 フェイズはまずは他のチームの様子を見て回ると言い、チームを抜けた。彼の一日リーダーとしての自覚は(すさ)まじく、ライは見習いたいと思った。


 フェイズがこのような戦力を一時的に欠く行動に出れるのは、ライの強さを知っており、信頼を置いているからだ。


 フェイズがチームを抜ける際、肩を叩かれたライは、チームメイトの女子二人を守るという責務に目覚めた。


 探索中、耳を澄ませば遠方から冒険者たちの掛け声や魔術による爆散音が聞こえた。早速討伐に取り掛かるチームが現れたようだ。


 五分もしないうちに、ライたちも同じ状況になった。


 最初ライは、リスティーとユエラの二人に戦わせるという奇行に出た。彼女らを捨て駒に使うとか、(おとり)に使うとか、そういう魂胆(こんたん)ではない。単純に、初めてクエストを一緒にこなす二人の実力を知りたかっただけなのだ。


 そしてフェイズのいない中、彼らは大きな事故なく一戦の勝利を収めることができた。

 勝利の余韻に(ひた)る三人であったが、直後フェイズが合流した。


「兄ちゃんたち! 調子はどうだ?」


 フェイズの野太い声が響く。


「丁度一体()った所だ」


「あぁ!? もう終わっちまったのか……」


「不満か?」


「俺の出番がねぇじゃねぇか!」


 フェイズの中で葛藤が巻き起こる。


「……よし! 次行くぞ、次!」


 ライたちは意気揚々に先頭を切るフェイズについて行く。


 そして森の奥まで入り込んだ。周辺は湿度が高く、各々が着用する蒸れた衣服に嫌悪感を覚えている。彼らのいる地こそが、森の主の本来の()()兼活動場所であった。


「さーって……森の主はどこだ!?」


 フェイズがそう言って間もなく、地響きが発生した。四人は森に入って以来、最大のものに感じた。


 その震源を探り、お目当ての物はすぐ見つかった。


 何よりも目に付くのだ。視界から()らそうとしても、その付属物が執拗に彼らの目に割って入る。


 数十分前に相手したそれとは何倍もの体格差があるのだ。眼前の森の主は、地を這いながらその進路の木々を巨体で倒壊させていく。


「お、おい! これは流石に……ヤバいんじゃないか?」


「うちの拳が通るのか……?」


「私、帰りたい」


 三人は一様に拒否反応を示した。

 しかしただ一人、変わらない気概の男は大剣を構えていた。


「おお! 遂に見つけた!」


 四人の中では最年長者のはずだが、今に限っては少年のように感じさせるその声が、残り三人の耳にこびり付く。


 これほどの巨体を放置していては、後に被害が出るのは予想がつく。

 そう思ったフェイズ以外の三人は苦笑いの末、武器を構えた。


 一足先にフェイズが突進し始めた。


 彼に合わせて蔓が差し向けられる。蔓もその本体に比例するように巨大だ。それに締め付けられるどころか、弾かれるだけでも致命傷になりかねない強靭さを持ち合わせていた。


「邪魔だな。【即斬撃(アーリースラスト)】!」


 フェイズは今日初めて大剣を振るう。

 目にも見えぬ速さで振られたそれは、空に軌跡だけを残した。

 その後、鋭い音が響き、接近中の蔓は全て地面へと転がり落ちた。


「凄い」


 ユエラは感心している。彼女とは攻撃手段がまるで違うフェイズであるが、うざったらしい蔓を容易く切ったのだ。彼女にはそれだけ感じ入るものがあった。


「中々やるな」


 彼の実力に、ライも感嘆していた。


 しかし例の如く、蔓はその数に際限が無いに近い。


 ライはフェイズの異変に気付いた。彼の腕は相手の次弾に対応できなかったのだ。お得意の雷の矢を一本放つと蔓は飛散した。


 これまでにライが相手した森の主よりも強そうに感じていたが、彼基準ではそれほど討伐に苦戦するものではないと確信した。同時にフェイズに花を持たせようと、再びサポート役に回ることを決める。


「良いサポートだ。助かった!」


 フェイズは振り返りながら、片手の親指を立てる。


 どうやら【即斬撃(アーリースラスト)】には使用後の硬直があるようだ。言うなれば、素早い斬撃を可能にする、時間の前借りに近かった。


 揺れの続く地面に足を取られることなく、鍛え抜かれた体幹を上手く使いながら駆け抜けるフェイズ。倒すべき相手に刃が届く所まで辿り着いた。


「はあっ!」


 大剣が一度振られる。それはフォレストバインの胴体に深い傷を付けた。


 だが、傷を負った対象が(うめ)くことはなかった。それほどのダメージにはならなかったのだろう。


 それだけ精神力が高いのだ。森の主が固有に持つ、生命力の自然回復能力も併せて、討伐は困難を極めることが推測された。


 時間を掛けるほどその可能性は高まる。ゆえに四人は、瞬間火力で押し切る作戦を()ることに決めた。


 ライが指揮を執り、戦いは彼らに優位が向くように継続した。

 四人それぞれの持ち味を生かす中、魔術や斬撃の余波を身に感じ、ライは自分のかつてを思い出す。


(こうやってみんなで戦うの……レイドやギルド対抗戦を思い出すなあ)


 行方の分からぬ仲間たちの顔を思い浮かべるライ。仲間捜しという目標の進捗がないだけに、彼らを気掛かりに思うのは毎日のことだ。


「おい、ライ!」


 リスティーが、ぼーっとしていたライに注意を喚起した。


 正面を向くと、すぐそばまで蔓が飛んできていた。


「うわあっ!」


「大丈夫か!」


「うん、悪かった」


(今は目の前の戦いに集中だ)


 ライは気を入れ直し、戦いに臨んだ。


 肝を冷やした場面と言えば先のライの(うつつ)を抜かしていた時だけで、事故なく一戦は終わり、四人は初戦を凌駕する達成感に包まれていた。


 息を整えるライと女子二人だったが、フェイズは休む暇なく隠し持っていた大きな袋を開けて、討伐したその跡を(まさぐ)り始める。


「何してんだ、フェイズ?」


「使えそうなもんを頂いていくんだよ」


「大丈夫なのか?」

 

 モンスター討伐に関するクエストは討伐対象の死骸をどうするかはそのクエスト次第だ。今回はどういう取り決めだったかと、ライは思い出していた。


「ちゃんと今のギルマスには許可を取ってある。規則違反にはならねぇよ」


 今回の大討伐に関して息抜き程度と昨日は言っていたフェイズだが、今の彼の目はそれとは違う。

 彼の商魂の(たくま)しさに、ライは呆れるほどに感心していた。


 そして森の入り口まで彼らは戻った。他のチームも欠けることなく集合し、全員で街に帰還した。

 その道中、一行は完全に打ち上げムードだった。彼らのこの後の行動は確定だろう。


「本当にいいのか?」


「ああ。宿でアルマが待ってるからな」


 しかし、ライはフェイズからの打ち上げの勧誘を断った。それはリスティーとユエラも同様だった。


 今回のクエストの報酬金は、森の主の討伐死骸をギルド職員が確認し処理する工程があるので、後日の支払いになるらしい。彼らは得た現物を持たずして疲労の溜まった足を運び、スヤスヤ亭に戻った。


 アルマの部屋を訪れると、ライは土産話を始めた。


「本当につまんなかったですよ!」


 アルマは不満たらたらだった。スヤが相手をしてくれていたそうだが、彼女はアルマを部屋の外に出すことを許さなかった。それがおおよその原因だろう。


 そしてベッドの上は飽きたようで、今は椅子に体育座りでいた。


「私もそろそろ元の生活に戻りたいです!」


「そうだな……。元気そうだし、明日は街の外に出るか!」


「やったぁー!」


 アルマは舞い上がった。その反動で椅子は倒れ、彼女は頭を床に打ち付けたが、無邪気に笑っていた。

2022/2/28 全体を少し修正。レベルに関する記述を削除しました。

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