Tale 13 療養の七日間(六日目)
療養六日目。
アルマは昨日、宿に帰ってから体調を崩した。まだ外出できるほどの体力が回復していなかったのだ。
彼女は横たわりながら、ごめんなさい、と何度も謝っていたがライはそれに構っている時間はなかった。
なぜなら、ギルドから招集が掛かったからだ。
ライと同じ宿に宿泊するユエラとリスティーもギルドに集まっていた。彼女らもまた冒険者だ。
見れば他にも冒険者が多数集まっている。顔見知りの者同士で、既に幾つかの集団が完成していた。ざっくり数えて、その場に二十人は確認できた。
「一体こんなに集めて何すんだろうなー」
「皆で鍋パーティとか」
「それはユエの願望だろ」
いつもの調子の会話が、ライの隣で繰り広げられている。
「まあ普通に考えて、大規模なクエストだろうなー」
リスティーがそう言うと、ライは一つ思い当たる節があったが、それを言おうとする前に上の階から静かに女性が下りて来る。
「皆さん、本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」
一際注目を集めるほどに麗しいギルドマスターは、冒険者の皆々の間ではやはり有名らしい。彼らの他愛もない話は、彼女の話へと切り替わっていく。
自分たちの所属する団体の取りまとめ役だから、知名度があるのは当然ではあるのだが。
「本日は、皆さまにお願いがありましてお呼び致しました」
冒険者一同は静まり返り、声の主に視線を集める。
「急ではありますが、明日フォレストバインの大討伐を決行します。もちろん、参加は皆様の意思に委ねられますが、クエストが発行されます。報酬も用意していますので、奮ってご参加していただければと思います」
彼女が一通り話し終えると、集団から賑やかな声が飛び交う。
報酬金の程度を気に掛けているようだった。荒くれ稼業でもある冒険者という職に就いている者の中には、日々を生き抜くのにも必死な者もいる。無論、それがノーマルやブロンズと言った低ランクと揶揄される地位に就いているならばなおさらだ。
レイネールはその質問に対して包み隠さずに答える。
クエストを発行する側なのだから、可能な限りの情報の開示は義務だ。ましてや赤狼のクエストの件により、彼女が再び暗躍を企む可能性は低かった。
「報酬は一人当たり中銅貨五枚をお約束致します」
冒険者たちの声がさらに活気溢れるものに。彼女の提示する金額は、彼らにとって十分な生活が送れるほどのものなのだ。
それと同時に、ライは自分が受け取った小銀貨二枚強の金額の重みを改めて知った。
レイネールは沸き立つ冒険者たちの様子を窺いながら続ける。
「さらに、討伐対象の討伐数に応じて増額も検討しております」
再び場が沸き上がった。
あとは彼らが、手に入る金額と己の命を天秤にかけて決断するだけだ。レイネールの話によれば、森の主はグリュトシルデの冒険者たちの手には余るということだった。どれだけの集団で攻めかかろうと、個人の能力が低すぎれば命を落とすことは想像に難くない。
しかしギルドマスターの一押しの効果もあり、参加を辞退する者はいなかった。
もちろん、リスティーとユエラも積極性を示している。ライだってそうだ。
そんな止まない熱気の中に、一人の男が現れる。
「おい! その話、俺も参加させてもらっていいか?」
一同は声のする方、すなわち男が上って来た階段に目を向ける。
そこにいたのは筋肉逞しい、武具店の店主だった。
「フェイズ!」
「よお兄ちゃん!」
「どうしてここに?」
「俺がまだ冒険者なのは話したよな? たまには思いっきり体を動かそうと思ってな」
フェイズは先日ライに武器の手入れを頼まれた際、作業を進める中、自らの冒険者生活の過去を想起していた。彼の弓に込められた謎を発見することで、冒険者として大いに活動していた当時の未知への探求心を今一度味わいたくなったのだ。
そして彼は自分に見合ったクエストを探しに来たのだが、盛況な大討伐の話を偶然聞き、これに便乗しない手はないと思ったらしい。
フェイズの登場に、他の冒険者たちがざわついていた。レイネールの登場時のそれとは少し静かにも感じるが、彼の顔を知っている者は多いようだ。
「フェイズさん、もちろんでございます」
レイネールは感謝の念を込めたお辞儀をした後で、話を続ける。
「でしたら、丁度良いですね。今回のクエストの指揮はフェイズさんにお願い致します」
「お、俺!?」
彼女は、フェイズが冒険者経験が十分にあり、この場の者たちの統率に相応しいシルバーランクであるからだと説明する。
ランクだけで言えば集まった者の中ではライが頂点に立つが、彼はまだ新参者。古株のフェイズに任せた方が安心だと言うのはライも納得していた。それ以前に、ライは全体の指揮役をやりたいとは思っていないが。
その傍ら、フェイズは冒険者としてのまともな活動をここ数年は行っていないことを主張して、辞退を仄めかした。
しかし彼の主張に対し、今度は周りから彼を担ぐ声援が飛び交う。
フェイズの耳にはとても障っただろう。彼は声を荒げ、観念した。
「ああもう、分かったよ! やってやるよ!」
ますます冒険者の活気が溢れる。夕方以降の階下で酒を飲む彼らと同じくらい、いや、それ以上の勢いだ。
ライは彼らのようには乗れなかった。クエストに対してのやる気は十分にあるが、彼はそういう熱血系ではない。それはユエラも同じだ。彼女もまた、静かに佇んでいた。
話は以上のようで、一同は解散した。まだ間昼だが、ライは二人と別れて一人で宿に戻った。
そよ風吹く二階の一室を訪れた。
そこでつまらなそうに寝るアルマの横で、ギルドでの出来事を語る。
「皆で討伐クエストですか! ……私も行きたいです」
アルマは遠足を控える幼稚園児のように目を輝かせる。
「駄目だ。今みたいにまた倒れるかもしれないからな」
彼女は顔を膨らませてはいるものの、反論はしなかった。少しはしゃいで無理をした結果が今の状態なのは十分に理解していた。
「アルマの今の仕事は休むことだよ。分かったか?」
「はい……」
こうして明日、森の主の大討伐が敷かれることになる。
2022/2/28 全体を少し修正




