Tale 13 療養の七日間(五日目-1)
療養五日目。
何度見た天井だろうか。ライは次第にストラティアの世界に適応していくのを感じた。
ここ数日、ほぼ寝たきりのアルマに合わせ、食事の際は彼女の宿泊部屋で仲良く卓を囲んでいたのだが、その変則行事も昨日で終わりだった。
今朝は一階で賑やかな朝食を楽しんでいる。
「良かったなー、動けるようになって」
「リスティー、食べながら喋らない」
食事が一日の最大の楽しみでもあるユエラが釘を刺す。彼女が食べ物を入れて意識的に言葉を発した様子を、ライは見たことがなかった。当たり前のことであるが、しっかり躾けられたのだろう。
「んーんー。……悪い悪い」
リスティーは飲料で口内の物を流し込み、話の続きをする。
「ほら、ライだってこんなに嬉しそうじゃないか」
熟睡したおかげで、ライは昨日消費しただけの魔力を回復することが出来ていた。そのためリスティーの言う通り、顔色も好色だ。
「まあな。だってさ……」
ライは隣の席を一瞥する。彼の嬉しい感情の正体は決して自分の回復だけではない。
そこには彼よりも笑顔なアルマがゆっくりと食事をとっていた。いつもより遅いペースなのは、彼女がまだ本調子ではないからだ。
「そうだなー。私たちも一安心だ」
ライたちの正面の二人も、アルマの様子に微笑む。
「それで、二人は今日どうするの?」
早くも自分の分を食べ終えたユエラが聞いた。
今日、ライは散歩がてら街の外に出る予定だった。街の外と言っても、入り口からすぐの草原地帯で寝転がるだけだ。そこならば、自然と触れ合いながらもモンスターと出会う恐れはないからだ。
当然アルマは置いて行く。彼女はまだ長期の行動に耐えうるだけの体力は回復していないはずなのだ。少なくともあと一日はこの宿で過ごしてもらいたいと考えていた。
しかし当の本人は目を光らせて、彼の計画を覆す。
「外に出たいと思ってます」
「いや、もうちょっと大人しくしてた方が……」
「嫌です! 私、もう四日間もベッドの中だったんですよ。そろそろ、こう体をバーンと動かしたりですねー……」
アルマは急に立ち上がり、腕を振り回す。
そんな彼女を止めようとするライだが、その前に彼女はふらついてしまった。
完全に倒れる前にライはその身体を支えた。そして椅子に座らせた。
「無理は禁物。今日は大人しくしててくれ」
「うぅ……」
アルマは慣れない上目遣いで突破口を見出そうとしていた。
彼女の不満は最もだが、安静にした方が良いというのも一案だ。要は活動と休息、どちらを優先するかということだ。
自分がアルマの立場だったら、とライは考える。すると彼女と同じように我がままを言うかもしれないという結論に辿り着いた。彼女の姿が、風邪を引いていた時の治りかけの自分と重なったのだ。
「分かったよ。じゃあ食べ終わったら出かける支度をしといてくれ」
「はい!」
そうして食事後、ライとアルマはスヤスヤ亭を出発した。
二人は少しゆっくりなペースで街中を歩いている。
アルマにとっては感じることの久しい街の活気だ。はしゃいではライに制止されるのを繰り返した。
「それで、どこに行くんですか? もしかして、クエスト!?」
何だかやる気のアルマだが、クエストを受けるのはライも避けたかった。
「そんなわけないだろ。またお前が倒れたら、今度は助けてやれないかもしれない」
今のライには白竜ほどの強大な相手と戦える余裕はない。言うなれば、自分のお守りだけで精一杯なのだ。
「そ、そうですか……」
掠れ掠れに、小さい声でアルマは言う。
「今日は街からは出ないぞ。ほら……この前言ってた、俺の鞄、探してくれるんだろ?」
「ああ……その話ですか。分かりました。お供しましょう!」
そのかばんをどこで探すかの目星は既に付けていた。
ライが先導し、目的地に着くとアルマはその外観に惹かれた。
「こんなお店があったのですね……。それにしても、よくこんな場所知ってましたね」
「まあ、色々あってな」
この店をあの無骨な武具屋店主が利用しているという情報をアルマに伝えれば、彼女が笑わないはずがない。彼のメンツを保つためにも、今は黙っておこう、とライは心に留めた。
アルマと行動を共にするのは、狼討伐のクエスト以来だ。
彼女はガラス張りの洒落た雰囲気に、昨日の隣の彼と同じように気を取られていた。
その彼女を目にもくれず、ライは小さいベルを鳴らす。
「いらっしゃーい」
女性の声が聞こえると、アルマも慌てて彼の後に続く。
「あれっ? 昨日ぶりだねー」
「また来たよ、シルキー」
「そっちの子は、初めましてかな?」
「初めまして。アルマと言います」
「アルマちゃん……アルマちゃん……」
シルキーはアルマの名前をゆっくり復唱する。
来客の記憶を探っているように見えたが、シルキーが持つ疑念をアルマは否定するので、顔を上げた。
「ああごめんね、何回も名前呼んじゃって。これからよろしくね!」
「こちらこそ!」
「それで、今日はどんな用で来たの? もしかして、何か買いそびれでもあった?」
シルキーは昨日の件について言っているようだった。
今日は他人の頼まれ事のためではなく、自分のための買い物に来たのだ。買いそびれと言うよりも、気に入るものを発掘するための来訪と言う方が適切だ。
「違う違う。今日は俺の冒険鞄ってやつを探しに来たんだ」
“冒険鞄”の言葉を少し溜め気味に格好つけて言って見せた。
するとシルキーは鋭く目を光らせて、彼の演技に乗っかる。
「ほぉー。お客さん、あの商品に目を付けたのですかな?」
シルキーはニヤニヤして、店の一角の陳列に視線を向けた。
2022/2/28 全体を少し修正




