Tale 13 療養の七日間(四日目-4)
薄暗い武具店の中、二人の男が面会中だ。
ライは譲り受けた光石を全て机上に広げた。
「おお、これだよ! ありがとな兄ちゃん」
「礼はいいからさ、早く取り付けようぜ」
フェイズが脚立を持ち運び、暗い灯りの下に行く。光石を入れておく簡素な造りのガラスのをやりづらそうに回転させると、繊細なガラスの擦れる甲高い音が響いた。
「……よし、取れた。光石を一個くれ」
店の中央を照らす、一番重要な光源箇所だ。複数あるうち、最も光の強いものを選んでフェイズに渡した。
店主はそれを受け取ると、役目を終えた石と取り換え、再びガラスをはめた。
そうして修復された灯りは、不具合なく煌いている。
「雰囲気良くなったんじゃないか」
「そうだな!」
ライが初めて武具店を訪れた時。当時よりも店内は明るかった。あの時から光源は弱っていたのだろう。
「折角だからさ、他の所も飾らないか?」
「いい案だ!」
二人はその後、手分けして店内が均等な明るさになるように照明を追加した。
入り口の扉付近、壁付近に数個、そして店主の手元を狂わせないようにカウンターにも設置した。
ほぼ全ての光石を使い切ることになったが、今雑貨屋ピストリムには比にならないほどのそれが置いてある。武具店の光源が消えても、しばらく困ることはないだろう。
「さて、これで光石の件は落着だ」
フェイズは店の奥に行き、大きな武器を持って来た。
「本題の兄ちゃんの弓のメンテナンスだが、ちゃんと終わったぜ」
ライは相棒を受け取る。
その一瞬で気付いた。弓についていた傷や汚れが除去されていることはもちろんのこと、手触りの良さが向上していて、光沢も増していることに。武器だけでなく、その使用者のことも第一に考えた手入れが成されていた。
「ありがとう。とてもいいよ」
「そう言ってくれると頑張った甲斐があったってもんだ! いつでも受け付けるから、必要な時はまた言ってくれよ」
「ああ」
「俺としても、貴重な体験をさせてもらった」
フェイズは目を瞑る。点検中のことを思い出しているようだ。
「俺が得意とするのは主に金属の加工なんだ。武器の素材には、言わずもがな種類がある。木材、金属、モンスターの皮、植物繊維、あとは宝石細工とかもだな」
「それで、俺の弓はどれなんだ?」
黒い光沢を放つ弓。塗料によるものではなさそうなので、これは金属の性質によるものだと考えられる。
しかしそうだとすれば、弓の名前に反することになる。名は千年大樹の魔弓。大樹と言うからには、木材を切り出して作られているはずだ。
「驚くことに、元々は木材だったみてぇだ。だが、今の組成は金属。こりゃあ一体どういうことなんだか……」
フェイズの経験則には存在しない代物のようだ。
「分からないのか?」
「……可能性があるとすれば、“換理魔術”だな」
「なんだそれは?」
「言葉の通り、物の理を書き換える魔術だ。もっと簡単に言えば、何でもありの魔術になるが、その性質上仕組みはさっぱり分からんし、使い手がいるのかも不明だ」
(つまり、この弓は千年大樹の性質を残しながらも金属の構造を持つということか)
そう思うと、ライは自身の手に握る魔弓に興味が湧いてきた。
千年大樹は、クロス・ファンタジーのプレイヤーの間で世界樹とも呼ばれていた規格外の巨大植物だ。千年という名称の由来は、千年に一度その枝に何千何万もの花をつけることにあるらしい。
ライは実際にその瞬間に立ち会えたわけではなかった。クロス・ファンタジーは発売されてから一年も経っていなかったゲームだが、その一周年記念として近々花が咲くとゲーム運営から告知がされていた。
しかしその瞬間を迎える前に、ストラティアに来てしまったのだ。心待ちにしていた光景を拝めないのは、今になっても名残惜しかった。
千年大樹はまた、大量の魔力を吸収することが出来るらしい。生命活動に必要なものでもあるし、その余剰分が蓄えに蓄えられた結果、満開を迎えることが出来るのだとか。
それだけ大量の魔力が蓄えられている大樹の一端が使用されている弓だ。その能力としては、先日の白竜戦で用いた【属性解放】を始め、他にも魔力強化や魔法スキル強化に関する幾つかがゲーム内で与えられていた。
二人はしばらく千年大樹の魔弓について語り合った。
ライはゲーム内でのその扱いを思い出しながら語り、フェイズがそれに対して質疑するやり取りが繰り返されたが、互いに有意義な時間となった。
「んじゃ、俺はそろそろ帰るよ。メンテナンスの費用はいくらだ?」
重くなりかけていた尻を持ち上げると、ライは勢いよく伸びをする。
ライはジャラジャラと音の鳴る袋を取り出して、そこから適当に掴み出す。そしてカウンターにそれを広げた。
するとフェイズは失望交じりのため息をついた。
「おいおい兄ちゃん、金銭感覚ってもんはねぇのか?」
「足りなかったか?」
その心配はなかった。フェイズが怒っているのは、どうやら手元に映る小銀貨についてらしい。
「モノには適正価格ってもんがある。それを遥かに超えるような金で取引をするのは、相手に失礼ってもんだ」
「それは申し訳ないことをした」
ライは硬貨の種類は把握していたものの、物価はまだよく知っていなかった。いや、知ろうと思えばあの時、アルマかレイネールにでも聞けば可能だっただろう。
悔いていても仕方がないので、ライはこの失敗を胸に刻むことにした。
「いい機会だから教えといてやろう。日常生活で使う大半の買い物は小銅貨で足りる。まとめて払いたい時は中銅貨を使いな」
「うんうん」
「それから、銀貨や金貨は基本的には使わない。まあ贅沢品を手に入れるにはそれらが必要になるときもあるけどよ……。何が言いたいかって言うと……あれだ! モノには使い時があるってことだ」
「勉強になったよ」
「じゃあ早速支払いだな。まずは銀貨を仕舞いな」
ライは言われるがままに手元の銀貨を袋に戻した。
「うちは装備の点検を物に関わらず、一つ小銅貨二十枚でやってる。覚えておいてくれ」
「分かった。じゃあ、これで丁度だな」
店主が差し出された金額を計上した後、二人は合意の証として拳を突き合わせる。
「確かに受け取ったぜ! 気をつけて帰れよ」
ライは微笑を浮かべ店主に軽く手を振って武具店を出て、そして宿に直帰した。
宿に足を踏み入れると、スイッチが切れたようにそれまでの彼の軽快な表情と足取りは消えた。重い足で二階への階段を上ると、肉体にも精神にも堪えるものがあったライは爆睡してしまった。
2022/2/28 全体を少し修正
2022/4/17 能力名称を変更:【属性解放】→【属性解放】




