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Tale 13 療養の七日間(四日目-2)

 ライとアイリーは意表を突かれた表情で互いをまじまじと見る。


「えっと、じゃあ行こうか……」


「……はい」


 二人はギルドに向けて歩き出した。


 陽光を浴びながら無言でいると、なぜだか余計に暑い。こんな時に気の利いた話題でも振ることが出来れば、とライは感じた。しかしそれが思いついていれば、この気まずさは発生していない。


 結局会話なくしてギルドに辿り着いた。人目を気にせず二階に上がる。


 受付は()いていて、待たされることなく用事を果たすことが出来た。

 ギルド職員は依頼書を確認するなり、ギルドの受領印を押してライに一件を任せてくれた。


 そして二人は再度出発したわけだが、その向かうべき場所は街に隣接するあの鉱山だった。

 ギルドから借りた空っぽのリアカーを引いて、街の裏口を目指す。


 辿り着いた先には、やはりあの褐色の鎧を着こむ大男がいた。ライは何とも反応しなかったが、アイリーにとっては怖い人物に見えただろう。彼女はライの衣服を掴みながら、その後ろへ隠れた。


 ライがクエストに行く旨を伝えると、番人はあっさりと通してくれた。あの時の(かたく)なな態度と威圧感は一体どこへといったのか。


 そして砂利道を通り、登山に臨む。正直立派な見た目とは言えない借り物が足元の悪い道に揺られる度、それを引くライは破損を心配した。杞憂に終わったが。


 前回の長い長い旅路を経験して、ライにもいくらか耐性がついていた。とはいえ、病み上がりの身体には少し堪える長さだ。


「少し休んでいいかな?」


「は、はい……!」


 見ると、アイリーも息を切らしている。傾斜がほぼなくなった場での休息案でもあり、適切だったようだ。


「少し聞いてもいいかな?」


「な、なんでしょうか?」


 息を整えながら、ライは尋ねる。


「ピストリムって二人でやってるんだよね?」


「はい」


「姉妹二人で仲良くやってるのは凄いと思うよ。でも、両親とかが心配するんじゃないかなって」


 ライは思ったことを口にしただけだったが、アイリーの表情は突如暗くなる。


「お父さんもお母さんも……死んじゃいました」


「えっ……?」


「私たち、生まれはグリュトシルデじゃないんです。ここから少し離れた場所にある小さな村で生まれ育ちました」


「その村に何かあった……とか?」


 ライは恐る恐る聞く。


「はい。村は焼かれてしまったんです。私とお姉ちゃんはその時偶然、街まで買い物に来ていたので大丈夫だったんですけど、帰った時にはもう……」


 アイリーは今にも泣きだしそうだった。


「ご、ごめん! 嫌なこと思い出させちゃって」


「いえ……大丈夫です」


 なぜこうも他人の重々しい過去を聞き出してしまうのか、本意ではないにしてもライは自分の口が憎かった。


 ライは今のことは忘れることにした。何もなかったかのように、声を張った。


「さあ、行こうか」


 そしてペース配分に気を配りながら、鉱山の入り口まで辿り着いた。


 二人は早速内部に足を踏み入れたが、ライは前回の訪問で第一層の目に見える場所には鉱床がないことを知っている。


 だから第二層に下りることを提案した。


 アイリーはただただ頷いた。彼女は探索の勝手が分かっていないようだった。


 備わっている照明を頼りに、二層への道を行く。ルートさえ覚えていれば、ストレスは何も感じなかった。


 問題なく二層に下りられたが、しばらくして、物音が聞こえ始めた。


「何の音でしょうか?」


「分からない。だけど、俺たち以外にも何かがいることは確かだな」


 二人は立ち止まっている。リアカーの車輪も動いていない。それなのに音が反響して()まないということは、何らかの生命体が活動していることに他ならなかった。


「俺の後ろに隠れて」


 ライは手ぶりと合わせて、小声で指示を出す。


「はい」


 二人は警戒しつつ坑道を進むが、


「きゃあっ!?」


 ライの背後で突然悲鳴が聞こえた。


 振り向くと、一体のゴブリンと、人質になっているアイリーが映った。


「ゴブリン、一体どこから……」


 まさか二人の背後から物音一つ立てずに接近したというのだろうか。低級の魔物相手に、ライがそこまでの遅れを取るとは言い難い。


 ならば、奴はどこから出現したのか。


 答えは頭上だった。


 そこに小さな穴が空いていた。丁度眼前のゴブリンが一匹通れるくらいの大きさだ。


 そして今、アイリーの首に小ぶりなナイフが突き立てられた。


(迂闊だった……!)


 鉱山の深層部を攻略したという慢心と、自身の魔力不足による消しきれぬ気怠さが、重なりに重なった結果だった。


 時折聞こえた物音に警戒していたというのに、この惨状だ。


「おい、アイリーを放せ」


 無用な殺生は避けるのがライのポリシーだ。


 交渉してみるが、知性低き魔物相手にそれは通用しないようだ。ゴブリンは悪い笑みを浮かべて自身の悪行を継続する。


「ラ、ライさん……!」


 またもやアイリーは泣き出しそうだった。


「ちっ……。放さなかったら、痛い目に遭うぞ」


 彼は今、弓を持ち合わせていない。彼がとれる攻撃行動は、己の魔術だけだった。


 右手に雷球を発生させ、ゴブリンにぶつけようと手をかざす。


 するとゴブリンは血相を変えて逃げていった。力の差が分かるくらいの脳味噌は持ち合わせてくれていて良かったと、ライは安心した。


 アイリーはその場に崩れ落ちた。


「大丈夫?」


 彼女はただ頷く。

 そして右手で顔を覆う。


 泣いているのを悟られないようにしているのだろうが、ライには透けていた。アイリーがモンスターとは無縁な雑貨屋経営だけをやっているのであれば、先の一瞬は恐怖しかなかっただろう。


 そうだとすれば、わざわざ妹を同行させた姉シルキーの意図が読めないとも思っていた。


 ゴブリンが現れると分かった以上、立ち止まっているわけにはいかない。かと言って依頼を放棄するわけにもいかない。ライは先に進むことを提案した。


 ライが守ってくれると信じていたアイリーは同意して、しばらく進めば広大な空間に出た。

 前回の訪問時には訪れなかった場所だった。


 そこは蛍がいるような発光を繰り返す神秘的な空間。光石が採掘できる場所だったのだ。


「早めに見つかって良かった……。よし、さっさと集めちゃおうか。アイリー、手伝ってくれるか?」


「はい!」


 二人はギルドから拝借したピッケルを取り出すと、作業を開始した。


 品物を傷つけないように、その周囲を丁寧に掘っていく。二人ともこの作業は初めてのようで、要領を掴むのには時間を要したが、それでもこの場には二人いるのだ。単独の作業と比較して、効率は二倍。汗をかき始める頃には、リアカーの積み荷の約七割は光石で満たされた。


「これだけあれば十分だろう」


「ちょっと掘りすぎな気もしますけどね……」


 二人は笑い合って、道を引き返そうとする。

 しかし重いリアカーの車輪は進まなかった。ライが手を放したからだ。


「またか……」


 二人の行く手を阻むように、ゴブリンの集団が佇んでいた。

 その中には、先ほどの脅迫ゴブリンも見受けられる。どうやら、一対一では勝てないと踏んで、仲間たちに助力を求めに退いたようだった。


「アイリー、下がってて」


 ライは少女アイリーを退かせて息を整えた。

2022/2/22 グリュトシルデ鉱山の構造変更に合わせ、一部記述を辻褄の合うように修正。その他、軽微な修正。

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