Tale 13 療養の七日間(四日目-1)
療養四日目。
ライは再び一人で街へ繰り出した。
手元の地図を頼りに歩き進むが、目指す雑貨屋は結構目立つ場所にあった。ゆえに、途中迷うことはなかった。
外観はお洒落なガラス張りの建物で、店内の様子がそこから窺える。窓ガラス付近には棚が備え付けられていて、そこに小物が並べられていた。
若年の女子たちが通いそうなこの店をあの武具屋の店主が利用していると考えると、ライの中での彼のイメージが崩れそうになったが、そんなことは頭の隅に追いやった。
考えると同時、口をぽかんと開けてライが物珍しそうにそこを覗いていたのが、店内の人物に見つかってしまったようだ。目が合うと、ハッとした。
気まずさを薄々感じながらも、ライはその店の扉を開く。
高く優しい音色の鈴が迎えてくれた。
「いらっしゃいませー」
先ほど目が合った少女も笑顔で来客を歓迎した。
後方で結われた淡い緑色の髪。着用している店の制服には、可愛い刺繡が入っている。その白い衣装に身を包んだ彼女からは清潔さを感じる。
「こんにちは」
ライは軽く挨拶する。
「お客様は……初めての方ですよね?」
流石は店員。客の顔を覚えることにおいて、右に出る者はいない。
彼女の問いに、ライは首を縦に振った。
「そうだよ」
「そうですよね! ……良かったぁー」
先の感想は撤回した方が良さそうか。どうやら記憶力に絶対の自信があるわけではないようだ。
胸を撫で下ろす店員を見て、ライは抱いていた印象が少し変わった。外見ではアルマと同じくらいの年齢と判別できるが、喋り方のせいでこの雑貨屋店員の方が幼く感じられた。
「あっ……ごめんなさい。……改めまして、雑貨屋ピストリムへようこそ!」
「洒落た店だね」
「ありがとうございます。お姉ちゃんもきっと喜びます」
「お姉ちゃん?」
「はい。このお店は私とお姉ちゃんの二人でやってるんです」
ライは店内を見渡す。個人経営の小規模な店だ。もう一人店員がいれば気付くものだが、それに該当する者はいなかった。
「見た所、君一人だけど」
「交代制なんです。この時間は私がお店番をすることになってるんです。今、お姉ちゃんは奥にいます」
彼女が指す方。店の奥、恐らくは住居スペースに繋がっている場所があった。
そして今、その方から物音がした。噂をすれば、その人が姿を現した。
「アイリ―ちゃん、なんか楽しそうに話してるじゃん」
「お、お姉ちゃん!?」
ライの眼前には同じ髪色と瞳を持つ二人の女性が並んでいる。双子でもなければ、ヘアスタイルや身長も異なるので見分けはついた。
「私はシルキー・ピストリム。雑貨屋ピストリムの店長だよ。んで、こっちが……」
「ア、アイリ―・ピストリムです。よろしくお願いします!」
二人が名乗ったので、自分も名乗らないわけにはいかない。ライは彼女らに続く。
「俺はライです」
互いの顔と名前を覚えた後、ライは用件を伝えた。
「光石が欲しくて来たんだぁ。ちょっと待ってね」
シルキーは店の奥に再び引っ込む。しばらくして、大きな箱を一つ抱えて持って来た。
顔が見えないほどの大箱。さぞかし重量があるのだろうと思い、ライは彼女を手伝おうとする。
「あー、大丈夫」
シルキーは苦痛な声一つ発さずに、その箱を下ろした。
アイリ―とライはその中を覗いた。
「「ん?」」
彼らの目に映ったのは、何もない無の空間だった。
「えっと、これはどういう……」
「いやー……在庫切れです、お客様」
参った様子で両手をこすり合わせるピストリムの主。
シルキーが言うには、街の照明の類は全て光石で賄っているとのこと。つまり需要がかなりあるらしい。だからグリュトシルデの街のどの雑貨屋も光石を取り扱っているのだが、ピストリムは丁度在庫を切らしたようだった。
いや、話を掘り下げると、在庫を切らしたのはどうやら二週間ほど前の事らしい。光石が欲しいなら、他の雑貨屋を当たればいいと高をくくって、補充を怠っていたのだ。つまりは店長シルキーの怠慢が招いた結果だ。
「俺は他の店に行くしかないのか?」
シルキーは唸る。きっとこの二週間、苦渋の選択の末、客をあしらってきたのだろう。しかし、それを後何度繰り返すつもりなのか。
彼女の決断を後押ししたのは妹だった。
「お姉ちゃん、そろそろ仕入れた方がいいと思うよ」
アイリ―は姉の裾を引っ張る。
「そうだよねー。うん、そうだよねー……」
まだ唸るシルキー。
「……よし! アイリーちゃんの意見に賛成だよ!」
シルキーはそう言って、笑顔でライを見つめる。
(な、なんだ……?)
次の瞬間、ライは肩を掴まれる。
「ということで、君の出番だ。ライ君って、冒険者でしょ?」
「そうだけど……」
「ちょっと待ってて」
シルキーは一枚の紙を取り出すと、素早い手つきでペンを動かす。
最後にハンコを押すと、その紙をライに握らせた。
「それ、ギルドに持って行って」
「えっと……光石の採集?」
ライは療養するこの数日間、ただ寝ていたわけではない。この世界の文字の読み書きを幾らか練習していた。その末、依頼書の内容を読める程度には習熟が進んでいた。
「受付に渡せば手続きはやってくれるからさ。あとは……アイリーちゃん、ついてってあげて」
「えっ?」
「店番は私がやっとくからさ。……さあ!」
シルキーのペースに乗せられ、ライとアイリーは店の外に追い出されてしまった。
まさか他人の頼み事から別の人の頼み事に派生するとは、思ってもみなかったライであった。
2022/2/22 全体を少し修正。誤字を修正。




