Tale 12 森の主大討伐(2)
ライとユエラの魔術により開かれた進路を、リスティーはただ突っ走る。
「いくぜ……! 【猛虎の剛拳】!」
身を捻りながら放たれた重い拳。リスティーの装備していた黒く厳つい、トゲトゲのついたグローブが巨大化し、虎が嚙みつくような勢いで森の主を襲う。
その攻撃の効き目は、最初の蹴りよりも絶大だった。
覆う葉を何枚も何枚も突き抜けていった。流石に腕の長さが関係しているので貫通とまではいかなかったが、それでも全長の四分の一くらいの長さの穴が空いた。
この強力な一撃に森の主は怯み奇声を上げ、蔓延る触手は地面に落ちた。
今の状態ではノーガード、もはやサンドバッグに近い。
リスティーは次に側部に蹴りを入れた。威力は低かったが、蔓さえなければ攻撃に集中できる。拳と足、両方を使いながらコンスタントに傷を与えていく。
そして高速連撃のフィニッシュに入る。
「オラァァッ!」
力いっぱいの回し蹴りが、傷をさらに抉る。
最初は無傷に近かった森の主に放たれたものだが、今は違う。
手負いの状態であり、さらには抵抗力が皆無だ。
そしてリスティーの調子も最高潮。森の主はその蹴りの勢いに吹っ飛ばされた。
その先には一本の木。大きな振動と共に激突した。
あの巨体が激突したのだ。木は折れかけ、舞う木の葉が森の主を雑に飾った。
「どうだ!?」
しかし、それでも彼の森の主を仕留めることはできなかった。
全体の隙間から垣間見える蔓が、三人を恨み威嚇するように動いていた。
グリュトシルデの冒険者だけで森の主を討伐するというのは、本当に至難の業のようだ。ライはそれをひしひしと感じていた。
同時に、森の主をほぼ一撃で倒したライの実力もまた並外れていることも事実だった。
しかしフォレストバインがどれだけ生命力を持っていようと、その動きの鈍さから瀕死に近いことは明らか。
「ユエラ、トドメだ!」
「うん。【輝く光刃】!」
杖の宝石が強い光に満たされる。
光の刃は今度は森の主本体に飛んでいき、まばらに見られる患部を抉るように、リスティーの作ったその窪みに刺さっていく。
小さな一撃が積もりに積もって、確実に森の主を追い込む。その動きがさらに鈍化していく。
つまりは無尽蔵な生命力、その根源となる治癒速度をユエラとリスティーの攻撃速度が上回ったのだ。
「これで終わり」
平坦なユエラの声と同時、通常よりも大きな光の刃が一つ現れた。
それは傷を広げた森の主の心臓部まで、いとも容易く刺さった。もう中核は厚い葉で守られていないのだから。
フォレストバインはその蔓全てを四方八方へと拡散させた。反撃の合図か?
いや、激痛ゆえの反射的な行動だったのだろう。蔓はすぐにだらしなく地面に落ちていった。
「倒した……のか?」
「多分……」
リスティーもユエラも現実を受け止めきれていない。格上を相手に勝利を収めたことを。
「おめでとう」
ライは二人を称賛した。
討伐経験者の祝福だ。その一言で、二人は勝利を掴み取ったことを実感できた。
「やったな、ユエ!」
リスティーがユエラに飛びつく。
「リスティー、はしゃぎすぎ」
ユエラは相棒を抑制するが、口角も頬も微かに上がっていて嬉しそうだった。
「ごめんごめん」
リスティーはユエラから離れ、そしてグローブを外す。
カッコいい装備の内側は普通の女の子の手だった。そんな彼女の手は所々傷つき、赤く腫れている場所もあった。グローブの厳つさから丈夫そうには見えていたが、やはり身を呈して攻防に徹していたのだからその代償を免れることはできないでいた。
彼女の傷を見たユエラは、すぐさま杖を掲げた。
宝石が再び光に満たされると、
「【応急治癒】」
杖先の輝きは、リスティーの傷付いた手に移る。その光は傷にしみ込むように溶けると、手は元通り綺麗になった。
「サンキュー」
(あの時、レイネールさんにかけてもらった魔術と一緒だ)
ライはグリュトシルデ鉱山での一戦を思い出す。メタルゴーレムに殴られて負った傷を治した魔術と同じだった。
「傷を治す魔術……だったっけ?」
「そう。ライ君もいる?」
ユエラが杖をライに向けて聞く。
「いや、大丈夫。必要になったら頼むよ」
「うん」
ユエラは杖を引っ込めた。
「……そう言えば、魔術を使う時にその杖の宝石が光るけど、何か意味があるのか?」
ライは森の主の残骸の後始末のさながら、先の先頭を脳内で振り返っていた。
「杖は武器の一つ。剣とか弓と同じ。でも他と決定的に違うのは、杖は術者の魔術発動の補助をすること」
「魔術発動の補助?」
「ライ君は結構すごい。自覚ないかもしれないけど……。ライ君みたいに何もないとこから魔術の結果を体現させるには、熟達した技術が必要。私が同じようにすると、大体失敗する」
「つまり魔力全般の操作や調整を、その杖が媒介としてやってくれている……ってことか?」
「うん。そういうこと」
「へぇ……」
二人で話を進めていると、リスティーが遮る。
「はいはい、その話はそこまでだ。それにしても、うちらが森の主を倒しちゃうなんてねぇ」
リスティーは魔術とは縁がないらしく、自分が話に参加できないのが歯痒いようだった。
そして話題を戻し、彼女は改めて感動している。
「ライ君のおかげ」
「そうだな。ライがいたからだ」
二人はライをにっこりしながら見つめる。
「俺は一発手伝っただけだ。ほとんど何もしてないさ」
少し恥ずかしかったのか、ライは視線を逸らして答えた。
「でも、攻撃のタイミングはライ君の指示だった」
「それはそうだけど……。慣れればすぐに分かるようになるよ」
三人は互いに笑った。
周囲では勝利を讃えるように、木々が騒めく。
「良い経験をしたな!」
「うん。それだけに、アルマ……残念」
「あいつは……仕方ないさ。今頃スヤのとこで文句言ってるだろうけど」
アルマはこの討伐戦には参加していないのだ。
時間は一週間前に遡る。
2022/2/14 全体を少し修正
2022/4/17 能力名称を変更:【タイガーフィスト】→【猛虎の剛拳】
【ホーリーエッジ】→【輝く光刃】 【キュア―】→【応急治癒】




