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Tale 10 白竜戦(6)

 白竜の瞳に大きく映る蒼い輝き。白竜は一歩も退かなかった。


「ここまでだな……。【魔力打ち消し(ディスペル)】」


 白竜がそう言うと、


「……っ!?」


 矢を離す寸前のライは、攻撃態勢を解除した。いや、させられた。


 自身からみなぎる魔力が雲散し、雷が全て収まり魔力の矢も消滅たことに、彼は目を見開いた。


 レイネールとライは頭上を見上げる。

 白き竜の傷が次第に癒えていくのを確認した。


 自分たちの努力が一瞬で水の泡となる。再び見ても心に訴えるものがあった。


 風圧が大きくならないよう、翼は静かに羽ばたき、傷の完治した白竜はゆっくりと降り立つ。


「……いいだろう。認めてやろう」


「ほんとか!?」


 努力が報われた瞬間だった。二人の顔は明るくなる。


「だが、その前に……」


 二人の視界が急に真っ白になった。

 正確には、白竜の住処一帯が白い光に包まれていた。


 その光が収まると、修復された空間が目に入った。


 光の魔術弾に破壊された箇所は全て元通り。岩盤の崩れも一切なく、あの狂気の光線から生まれた奈落も塞がれていた。まるで戦ったのが夢だったかのように。


 それはあくまで見た目上の話だ。実際、ライもレイネールも疲労していた。二人は改めて、自分たちは白竜に立ち向かっていたことを認識した。


「これで落ち着いて話ができる。まず人間よ、お前の名前を聞こう」


 その視線はライに向いていた。


「俺はライだ」


「弓使いのライ。いや、魔術師でもあるがゆえ、弓術師と言った方が良いか……。覚えておこう」


「竜に名を聞かれるということは、その竜が自分と対等もしくはそれに近しい存在と認めた証です」


 人間種を常に下に見る竜が、そのうちの一人の名前を聞くのだ。それはこの世界では非常に前例の少ないことなのだ。


「そうなんだ……」


 実感がわかないが、白竜に認められた。ライはその事実を頭に叩き込む。


「感心している女よ。お前の名前も聞かせよ」


「わ、私ですか……!?」


「当然だ。此度の勝負の結末はお前たち二人で引き寄せたものだ。それに、お前はこの地に二度も足を踏み入れるほどの度胸ある人間だ。その点に関しては弓術師ライよりも肝が据わっている、見る価値があると私は思うぞ」


「ありがとうございます。私はレイネールと申します」


「レイネール……か」


 何かを考え込む白竜。しかし何事もなかったかのように話を続ける。


「では、お前たちの願いを聞こう」


「それじゃあ、浄化結晶のこと……頼めるか?」


「承知した」


 白竜はそう言うと、目を閉じ、集中し始めた。


 白竜の腹部。もちろん外皮が透けている訳ではないからはっきりとは見えないが、その内部で眩い光が発生しているように感じた。


 そして数秒すると、白竜は目を開ける。


「受け取るがいい」


 その直後、ライの眼前に白く輝く鉱物のような物が現れた。


 ライは右手で握るようにそれを取ると確認する。


 大きさは僅か五センチほど。白竜の全長とは比べ物にならない程小さかったが、ライの拳には丁度収まる奇なる結晶だった。神秘が凝縮されているように感じた。


「これが浄化結晶……!」


「ライさん、帰りましょう!」


 目的の品を手に入れた。しかしそれだけでは意味がない。浄化結晶をアルマに使わなければ、彼女は助からない。


 二人は早急に街に戻ることにした。


「そうだな」


 二人が白竜の間から去ろうとした時、その主が彼らを止めた。


「待て」


「何だ?」


 ライが喋るが、白竜の目線はその隣に向いていた。


「レイネールよ、お前の願いをまだ聞いていない」


 白竜は話が分かればとても良い奴だった。

 浄化結晶の生成を二人分の願いとして処理するのではなく、きちんと個別のものとして認識していた。


「私は……結構です」


「何故だ? かつてお前がこの地を訪れた理由。それを今果たせば良いのではないか?」


「それは……もう意味がないのです」


 レイネールは俯いていた。

 彼女の寂しげな言葉が何を意味するか。ライも白竜も嫌でも察しがついた。


「……ならば、お前の願いは保留だ。私の力が必要になった際、再びここを訪ねて来ると良い」


「ありがとうございます」


「じゃあ、俺たちは急ぐから……」


 そう言って再び背中を向ける二人。

 しかし、その足はまたもや止められた。


「待て」


「まだ何かあるのか?」


 これ以上の時間の浪費は避けたかった。

 ライとしては白竜との雑談ならまた後日、ここに再び潜って来ても良いという気持ちだった。


「その結晶で助けたい奴がいるのだろう? ならば急ぐ必要がある。送ってやろう」


 二人の足元に白い魔方陣が展開され、身体が光に包まれる。体が浮遊する感覚に襲われた。


「白竜、ありがとう」


 二人は白竜に頭を下げる。


「気にするな。いずれここで再会することになろう」


 そうしてその空間には白竜ただ一体。二人のいた場所を見つめ、静かに佇んでいた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 二人は気付くと、鉱山の(ふもと)に立っていた。

 とっくに日は暮れていた。


「戻ってきた……のか?」


「はい。早く帰りましょう!」


 日が沈んだ空に浮かぶ灰色の雲が二人の不安を一層煽る。


 ライは浄化結晶を強く握った。


 もう体力を温存する意味はない。


 グリュトシルデの街へ、帰りを待つ人のもとへ、生ぬるい夜風を感じながら二人は走って行った。

2022/1/17 全体を少し修正。魔術名を変更【魔力打消し】→【ディスペル】

2022/4/17 能力名称を変更:【ディスペル】→【魔力打ち消し(ディスペル)

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