Tale 10 白竜戦(5)
大空間の空気が一層張り詰める。
そして呼応するかの如く、白竜の周囲に多数の黄色い魔方陣が出現する。
数秒もしないうちに、そこから光弾が襲い掛かった。
ライとレイネールは各自得意とする魔術障壁でそれらを防ぐ。
雷閃が轟き、土壁が無残に崩壊する。
白竜と人間の魔力保有量は桁違いだ。それは白竜が【絶対守護】によるペナルティを受けた今でも明白だった。
「俺があいつの攻撃を止めます」
「分かりました! 気を付けてください」
光弾の発射間隔の間隙を突いて、ライは走り出した。
その後、彼を狙うように光弾は集中的に飛ぶ。
それらを一つずつ見極めて躱していく。
反応が一瞬でも遅れれば被弾し、地面を転がってしまうだろう。
ミス一つ許されない状況は、ライにとって心負担が大きかった。
「【蒼雷の雲衣】」
ライは自身に雷を纏わせる。
被弾の保険になればと思い発動させた。全身が僅かにビリビリするが、今の精神的負担に比べればマシだった。
一方でレイネールは、ライが雷の衣に覆われるのを確認してサポートに徹することに。
「【応急治癒】」
ライとの距離は次第に離れていくため効果量は心許ないが、雷で焼ける彼の身体の傷を同時に癒していく。
(レイネールさん、ありがとう)
ライは彼女の思いやりの温かさを実感した。
そして自慢の走力で走り続け、二人を見下ろしながら攻撃する白竜に急接近することが出来た。
しかし下方向から矢を放っても最初のように振り払われてしまう。
雷を纏っているため、その矢は雷属性が付与され強力になっているが、光弾と相殺して終わってしまう。
したがって他の策を取る必要があった。
より白竜との距離を詰め、鱗も甲殻も貫くほどの強射撃を放ちたい。そう思うライだが、その願いを否定するかの如く、白竜が旋回し始めた。
彼との距離は離れ、反対にレイネールとの距離が縮んでいく。
光弾がレイネールを執拗に襲うようになった。彼女は壁を張り応戦するが、攻撃量が尋常ではない。何枚もの障壁はあっけなく飛散していく。
ライもそこに加勢したいが、如何せん距離が離れすぎている。【蒼雷壁】を展開して防御に応戦するのは不可能。できることと言えば、矢で一つずつ対処することだけだった。
それゆえに、彼女はその弾を防ぎ切ることが出来なかった。
ローブに光が弾ける様に当たる。その生地が虫に食われるように消滅し、肌が露出していく。
その後も容赦なく彼女は攻撃され続け、遂に肌を一発の光が掠めた。
その瞬間、レイネールの顔が歪んだ。たったの一撃でも激痛が走ったのだろう。
同時に、彼女のバングルの装飾が輝いた。
輝きが目に入ると、レイネールはハッとした表情になり、あろうことか防御行動を中断した。
ポーションを飲んで生命力の減少に備え、自身に【抵抗増幅化】を掛けて精神力を向上させる。
ライの目には、その身を差し出すようにしか見えない彼女の姿が映っていた。
彼はレイネールの考えを読めていなかったし、彼女の持つ装備品の意味を理解していなかったからだ。
彼女を助けようと、その方へ走ろうとする。
しかし、
「白竜を追いかけてください! 私は……大丈夫ですから!」
攻撃を受け続けるレイネールの顔はなぜか笑っていた。
感覚が麻痺しているのか、精神が崩壊しているのか、ライには今の彼女はやはり奇行を執っているようにしか見えなかった。
「大丈夫」という言葉には疑心が残ったが、彼女の言う通りに動いた。
疾走しながらライは思考を巡らせる。
(今の白竜は、大きな一撃を撃ち込まないと止まらないだろうな。俺の雷魔術じゃ、悔しいけど力及ばずだ。この力を……使うか?)
ライは片手に持つ弓に恐る恐る目を向ける。
彼には控えていた手段があった。
黒光りするこの弓の名称は【千年大樹の魔弓】。クロス・ファンタジーでユニーク装備と呼ばれる唯一無二の性能を誇る一級品だ。
【千年大樹の魔弓】の特徴は三つあるが、今そのうちの一つ“自身の使う属性の強化”にライは注目していた。
クロス・ファンタジーでは、プレイヤーの攻撃に火や雷、風、土などの属性が付随するものが存在する。そのうち選んだ一つの属性を一定時間強化することのできる【|属性解放《リリース・エレメント】がこの魔弓が備え持つ特殊効果だ。
クロス・ファンタジーのスキルがこの世界でも発動することから、【|属性解放《リリース・エレメント】も恐らく発動する。どのくらいの効果量があるのかは不明だが、これに賭けるしかないとライは自分に言い聞かせた。
ライが奥の手を躊躇っていた原因は、その力の反動にある。クロス・ファンタジーでは【|属性解放《リリース・エレメント】は使用者のMPというスキル発動に必要な数値を大きく消費する。
ストラティアでの理で言い換えれば、自身の魔力を大幅に使ってしまうのだ。
もし強化状態の攻撃さえも白竜に阻まれてしまうのであれば、ライが圧倒的不利を強いられるのは目に見えている。だからこそ慎重な判断を要されるため、最後の手段としてこのスキルを残しておいたのだ。
(やるか……)
ライは大きく息を吸う。
「【|属性解放《リリース・エレメント】! 遍く雷を我に集約せよ!」
千年大樹の魔弓が輝く。そこからライの体へと魔力の奔流のような光が流れ込む。
その光は黄色味を帯びていた。ライが強化したい属性が雷だからだろう。
つまり【|属性解放《リリース・エレメント】が機能していると言っても良かった。
同時にストラティアにおいての属性という概念の存在証明もなされた。
「私の奥の手を使わせたこと、実に評価する。だが、それだけで満足している訳ではあるまいな?」
遠方から聞こえる白竜の冷徹な声。
「ふっ……俺はそんなに傲慢じゃあない! 食らえっ!」
強化された力を試すため、ライは雷の魔力矢を放つ。
それは光弾と衝突するが、雷閃を発してそれを貫通した。
そして直進し、白竜の身体に刺さる。
バチバチと音が立つ。
魔力の矢は硬いはずの外殻をどんどん侵食していく。
(こ、これは……!?)
驚きを隠せない白竜。
まさか自身の豊富な耐性を有する身体を容易く傷付けられるとは思わなかっただろう。
そして、その動揺は攻撃にも影響していた。
光の弾の勢いは心なしか落ち着き、その狙いも不正確になった。
(いける……! これならいける!)
ライは自身の攻撃に手応えを感じた。
そして、それはレイネールも同じだった。
彼女はわざと光の魔術弾をその身で受け続けていた。
装着するバングルの特殊効果【魔力吸収】で自身が道中消費した魔力を蓄えるために。
とは言うものの、魔力は個人毎に固有のもの。他者の魔力が自身に適応するかは分からない。
馴染まなければ体調不良の原因になってしまう。適合率が極端に低ければ、返って命を失う可能性もあるのが現実だ。
ゆえに白竜の魔力を吸収しても、それが確実に彼女の力となるとは言えなかったのだが、彼女には作戦の成功の確信があった。
レイネールは過去に一度、グリュトシルデ鉱山を訪れている。そして奇怪な白竜の術の被害にも遭っている。その際に彼女は、白竜の魔力が自身に少しは馴染むことを悟った。だからこそ、その術の悪影響が小さかったとも言えよう。
今、彼女の腕輪は白き竜と同じ色の輝きの魔力で満ちている。
この魔力を全て眼前の持ち主に送り返そうとしていた。
「【溢れる豪水】!」
レイネールが得意とする水属性魔術の象徴、大きな青の魔法陣が一つ出現する。
しかし、これまでとは規模の異なる水流が射出された。白竜の魔力が想像を絶する濃度なのだ。
猛る水流は白竜に激突し、一瞬で大空間の壁まで到達した。
白竜は言葉も出せず、打ちひしがれる。流石にその身と同格の攻撃を食らえば無事ではない。現状抵抗できていない様がその証拠だ。
(レイネールさん、凄いです!)
一時的に身を呈していた彼女に、ライは敬服した。白竜が身動きを封じられている隙に、白竜と距離を詰める。
大空間の端に白竜が押しやられたせいで、必要な移動距離は増えてしまったが、レイネールが彼を支援する。
「乗ってください!」
この空間に足場となるものがあっただろうか。
いや、元々そんな物は存在していない。
ならば彼女は何を指してそう言ったのか?
それが今、ライの付近に現れた。
(それって乗れるのか!)
ライの進行方向に【大障壁】が展開された。
疑っている時間はない。
軽く跳躍して、そこに乗った。
すると彼女の言うことは真実だったようで、ライは薄い障壁に体重を支えられていた。
彼の視界に次々と同じ障壁が展開される。
こうしてライはあたかも空中を飛ぶかの如く、白竜の元へと急いだ。
(これで……終わりだ!)
丁度水流が収まった頃、ライは白竜の頭上に現れ、
(白竜!)
雷の力を秘めた彼の右腕から、おぞましく並々ならない雷撃を発した。
2022/1/17 全体を少し修正
2022/4/17 能力名称を変更:【キュア―】→【応急治癒】
【マインドガード】→【抵抗増幅化】 【属性解放】→【属性解放】
【魔力吸収】→【魔力吸収】
能力を変更:【エクスストリーム】→【溢れる豪水】




