Tale 10 白竜戦(3)
ライが狙われる一方、レイネールは白竜からノーマークだった。
先程の初動では、レイネールの方が強力な一撃を放っていた。
それなのに白竜が彼女への警戒を緩めたということは、単純にライの方が危険を孕んでいると思われている証拠だ。
確かに、ライはまだ通常射撃以外の攻撃手段を公開していない。
未知であることが危険に直結するのであれば、彼を警戒優先対象にするのも最もだ。
ならばその隙を有効活用しない手はない。彼女は彼女で白竜の懐を目指していた。
(私は眼中にないということですか。……悔しいですが、そういうことなのでしょう。今はライさんのサポートに徹する。彼が攻撃できるだけの時間を稼ぐ。それが今、私がやるべきことです)
「【水魔の螺旋】」
レイネールは静かに水の魔力紐を生成する。それを何重にも編み込むように重ねていき、自身の背後に回して隠した。
(ライさんは……)
竜巻を躱しながら白竜に接近している彼に、攻撃する余裕はなかった。
レイネールには分かっていた。白竜がこのままライに接近を許して、自分の攻撃範囲に入ったところでその尻尾で圧し潰すことを。
そして、その攻撃に彼が耐えられないことも理解していた。
だからこそ、この竜巻を今すぐに止めなくてはならなかった。
(もう少し……。もう少しで……)
白竜の真下はもうすぐだ。
そこまで行って初めて、レイネールの作戦は功を奏すかもしれないのだ。
しかし、流石に白竜も彼女の接近を看過することができなかったようだ。
視界に彼女が入っているのかは定かではない。だが、白竜は気配で対象の位置を概ね把握することができていた。
ライへの攻撃の手は緩めずそのままに、彼女も攻撃対象に入れ始める。
(まずいっ……)
レイネールの足元と周囲の地面に光の円が出現する。その直後、そこから光の柱が真っすぐ現れた。
それを、彼女は目を光らせて躱す。
白竜の口内から放たれる光線に酷似した色合いに殺気。
その一撃を食らう訳にはいかなかった。もし光の柱に消滅の効果が含まれていれば、彼女の生命はそこまでなのだから。
光の柱の出現間隔はその予兆から約一秒。柱は当然、レイネールの進路を妨害するように出現する。
時に光の柱が発生する予兆の場所に彼女は走って行く。
彼女がそこを通過し終えた直後、光は放たれる。レイネールはそうして軽やかに、確実に攻撃を食らわない最短のルートを選択していく。
白竜の攻撃を搔い潜った彼女は、遂にその翼下に辿り着いた。
(ライさんは……。今ならまだ間に合う!)
ライはまだ竜巻と戦っていた。白竜との距離は詰められているが、まだ彼女の懸念する事が起こる段階ではなかった。
時を見計らい、レイネールは行動を開始した。
手に隠し持っていた、太い水の糸を白竜に飛ばす。
光の柱を回避する最中も、魔力紐は彼女の意思で強化されていた。
時間と魔力が多分に込められた糸が、巨大な飛行生物に襲い掛かる。
「ん?」
魔力糸は白竜の右翼に巻き付いた。
その全身を縛り付けることは彼女にとって骨の折れる行為だ。
それを叶えるには、より長い魔力糸が必要だ。そして白竜に抗われないようにするため、強い魔力を込めて編み込む時間も今以上に必要だ。
今の彼女には、片翼を縛り付けることが精一杯だった。
「【拘束】か……? 悪いが私には効かぬ攻撃だ」
白竜は毅然とした態度を崩さず、自身を縛る糸の消滅を待つ。
「……」
しかし待ち望むことは起こらなかった。
「なに?」
白竜は思考を巡らせ、一つの答えに辿り着く。
同時にレイネールの口角が上がった。
「そう。これはバインド攻撃ではありません。拘束への耐性は、【拘束】という魔術によって生じた結果にのみ反応する能力。私の水の糸を操る【水魔の螺旋】による拘束はあくまで攻撃している状態にすぎません」
レイネールは水の糸を引っ張り、右翼を地上へと寄せる。つられて白竜の全身がその方へ傾いていく。
白竜は縛られた右翼を動かそうとするが、見た目以上に強靭になっている魔力糸を容易く千切ることは出来なかった。
一方、左翼は魔力糸の影響下にはないが、片方だけ動かしても噛み合いが悪いようで白竜は抵抗できなかった。
白竜の攻撃は止まざるを得なかった。
つまり竜巻も止んでいた。
「ライさん!」
ライはただ回避に徹していたわけではない。彼もレイネールと同様に、弓を引いたまま走り、矢に魔力を注ぎ続けていた。
「食らえっ!」
今日一番の超高電圧の一撃を放つ。
その矢は一本ではない。軌道上で何十本にもなって、白竜の右翼目掛けて飛んで行く。
同時に【百万の放射矢】を母体の矢に発動させていたのだ。
白竜はその矢を押し返すことはできなかった。太く丈夫な魔法の水糸がさらに強く右翼を縛り付けていたからだ。
レイネールは今もその糸に、魔力を注ぎ続けている。
魔力を注ぐという行為は、ストラティアにおいて有意義な魔術強化手段である。
「くっ……。侮ったか」
猛省する白竜に矢は容赦なく刺さる。
雷撃の威力。太く青い水糸。それらが相乗して、右翼を焼いていく。
矢は翼を貫通して、青電は全身へ伝達する。
初めて傷を受けた白竜はやがて撃墜させられた。……というよりは引き摺り下ろされた。今は両足が地についた状態。
右翼の水糸は電撃の影響もあって焼き切れていた。ゆえに拘束力も無いに等しかったが、白竜がすぐに飛翔することはなかった。
2022/1/16 全体を少し修正
2022/4/17 能力名称を変更:【アクアスパイラル】→【水魔の螺旋】
【バインド】→【拘束】 【スプレッドアロー】→【百万の放射矢】




