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Tale 10 白竜戦(1)

 まるで遺跡の最奥のような空間。

 なぜか巨大な石柱が何本も円形にそびえていて、その中心には大きな円い模様が描かれていた。

 魔法陣ではないが、それに通ずる不思議さがあった。


 そんな至る所が白と灰色だらけの最深部。

 空間は巨大でありながらも、色覚的には味気無さを感じさせていた。


 眼前の白竜を除いて。


「あいつが白竜……!」


「はい。……気を付けてください!」


 ライはレイネールよりも速い速度で広大な空間を進み、白竜に近づく。


 そうして白竜まで五メートルと行った所まで彼は辿り着いた。


 ライは白竜を見上げた。


 自分よりもずっと大きな体を持っている白竜。人間をアリのように潰しそうな巨大な足に、この場の全てを吹き飛ばしそうな翼。おまけに長太い尻尾まで付いている。


 そして、それを覆うは堅い甲殻と厚い鱗。

 まさに最終ボスの貫禄だった。


 ライは固唾を呑む。


 その気になれば、白竜は眼前の人間を簡単に(ほふ)ることができる。そんなことはこの空間に足を踏み入れた時点で本能に訴えていた。


 慎重に接しなければいけない、間違っても挑発してはならないと理解していた。


「よく来たな……人間」


「……!?」


 厳かな声が響いた。

 声の主は疑うまでもなかった。


「言葉を話すことに驚いているようだな、少年よ」


「白竜……」


 開眼した白竜。その視線は力強く、対峙しているだけで圧倒された。


 レイネールから白竜が言語を発することが可能なことは把握していたが、実際その厳かな声が大空間に反響すると、驚きを隠せなかった。


「まずは礼を言う」


 敬意を示された二人だが、突然のことで何のことか分からなかった。


「あの巨大な蛇のことだ。私が気を許した隙にあのような(やから)が……。私としても迂闊(うかつ)だった……。その礼として、通路の術は解いてやった。感謝するが良い」


「そうだったのか、ありがとう」


 実際、あのまま白竜の術の影響下にあったら、二人は間違いなく死んでいた。


 そんな命の恩人でもあり、殺しにかかってきた当人ともいえる白竜を前にしていると、複雑な気分だ。


「でも、なぜ自分で対処しなかった?」


「どういう意味だ?」


「白竜。お前がその気になれば、自力であの大蛇を始末できたはずだ」


 鉱山深層に自身の術を張り巡らすことのできる竜だ。


 あの術は人間にしか効果がない物だった。それは人間という生物が竜よりも脆弱なものであるからか、あるいは竜と同じモンスターには効果が薄いか全くないのか、いや両方と言えよう。


 そんな超越的な能力を持つ白竜の成せる技が、その奇怪な術一つであるはずがない。

 他にも取れる手段があったのではないか。


「確かにその通りだ。だが、私があの大蛇を攻撃してしまえばその反動でここ一帯は崩れてしまう。それは私としても避けたい」


「だから俺たちに対処させたのか」


「その通りだ。お前たちの存在には、大穴を下りてきている時から気付いていた。だからお前たちを試したのだ」


「試した?」


「ああ。あの大蛇を倒せないようでは私とは絶対に釣り合わない。私の術に耐えながら大蛇と戦ったこと。誉めてやろう」


 挑戦的な言葉に、悠々な態度で見下ろす白竜。

 その瞳は絶対的強者の鋭さで、修羅場を数々乗り越えた面構えだ。


 ここで怯んでしまっては、自分がその程度の男だと思わせてしまう。

 それを危惧して、ライは対抗心を燃やす。


「随分と上から目線なんだな」


「事実、ドラゴンは人間よりも強い。それが私のような長命な竜ならばなおさらだ」


「それは自信家だな」


 お互いは、しばらく無言で睨み合った。


「……それで、お前たちはこの場所まで何をしに来た? 見た所、盗人というわけではなさそうだが……。それに、その女……」


 白竜はレイネールを見つめた。

 

 彼女は白竜が話し出してから一言も喋っていなかった。


(レイネールさん……。もしかしてビビってるのか?)


 レイネールは過去に、ライと同じように対峙したのだろう。それも一人で。

 しかし彼女の悲願は果たされなかった。門前払いされたのだ。


 彼女にとって白竜は因縁の敵と言っても良かった。

 そして今再会出来たことに、重要な意味を秘めているに違いない。


 実際は、荘厳な白竜を前に、レイネールは怯んではいなかった。汗をかいていることもなければ、足が震えていることもなかった。顔つきは険しくなっていたが、それだけだった。


 過去に犠牲になった冒険者たちの思いを無駄にしないためにも、彼女は一歩前に踏み出した。


「私たちは浄化結晶を求めて来ました。あなたの体内で生成される、呪い治しの宝珠のことです」


「あの時の脆弱な人間か……。当時よりはまともな(つら)をしているようだな」


 白竜の術が途中解除された訳であるが、それを除いてもレイネールは深層道中に潜む脅威と戦い、勝利を収めた。彼女は確実に成長していた。


「助けたい奴がいるんだ。頼む……! 譲ってくれないか?」


 ライは必死で頭を下げた。


 その間、またも静寂が訪れる。


 白竜が悩んでいたのか。秘宝の持ち主の返答が届くまで、ライが体勢を変えることはなかった。


「いいだろう」


「ほんとか!?」


 快諾の一言。


 ライは嬉しさのあまり頭を上げた。だが、それはぬか喜びだった。


 彼の目先。

 白竜はその翼を羽ばたかせ、さらに高い位置から二人を見下ろすこととなる。


「……っ!」


 二人は風圧のあまり、目を腕で覆い隠した。


「ならば力を示せ。力無き者に与えてやるものは何もない。この意味、言うまでもないな?」


 今までの何百倍もの圧がライを襲う。気を緩めれば、あっけなく散ることとなる。恐怖を戦前から刻み込まれた。


「レイネールさん! 俺に力を貸してください!」


「もちろんです!」


 こうして圧倒的上位種とも言える白竜との戦いの幕が上がった。

2022/1/13 全体を少し修正

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