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Tale 9 グリュトシルデ鉱山深層(2)

 下降を渋るライを見て、レイネールは安心させるように微笑んだ。


「大丈夫ですよ。私が先に行きましょう」


 その一言でライははっとする。


(世の中にはレディーファーストって言葉があるけど、こう言った場所では俺が先に行かなきゃだめだよな)


 ライは自分に喝を入れ、レイネールが持っていたロープの少し離れた部分を握り、自分の方へ引っ張った。


「ここは俺が先に行きます!」


 そう言うが、それがから元気だというのはレイネールには透けていた。

 レイネールはロープを離さなかった。


「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですよ。それに……少し怖いのでしょう?」


 そう。ライは恐怖していたのだ。それは穴下りに対してでもあったが、大半を占めていたのは白竜の領域に対してだった。


 未知に飛び込むことは、肉体的な強さとは無縁である。


「すみません」


 白状の言葉を聞いたレイネールは、少し笑った。


「ふふっ。正直なのは良いことです。時に不真面目なくらいが丁度いいですけどね。それに、ライさんが先に下りられては……その……」


「……?」


 レイネールの様子が急に変わった。


「中を見られてしまうかもしれませんからね」


 彼女は悪戯にそう言った。


 ライは一瞬何のことかと思ったが、すぐにその意味を理解した。


「はあっ!? し、しませんよ……そんなこと」


 確かにレイネールはローブ姿で足元はひらひらしていた。


 彼女の下降中、ライが下で待っていれば、努力次第では彼女の懸念する事態が起こるかもしれない。


「冗談ですよ。ライさんはそんなことしないって分かっています。それに、ちゃんと穿いていますので、見られても大丈夫です」


(穿いてるって、何をだよ!? ……はっ! いけないいけない)


 不意に邪念がライの頭に浮かんだ。


 彼は頭をブンブンと勢いよく振って、その考えを捨てた。


 すると彼の一人演技に、レイネールは再度笑った。


「どうですか? 気持ちが楽になったのではないですか?」


 実際、彼女の冗談はライの恐怖を上塗りしていた。


「ありがとうございます、レイネールさん。……ふぅ」


 ライは深呼吸を挟み、穴下りに対する心持を整えた。


「では最後に、おまじないをかけましょう。【抵抗増幅化(レジストゲイン)】!」


 ようやく普段の自分を取り戻したライの身体を白い光が包む。


 レイネールも同じ光に包まれる。


「この光は……鉱山に入る時の?」


「そうですよ。正直なところ、どのくらいの効力を持つかは分かりかねますが、この先白竜の術に対抗するのに役に立つと思います」


 道中、ライはレイネールのことを本当に頼もしい存在だと思っていた。彼女がいなければ、今頃は体調を崩し、さらには怒りに支配されていたことだろう。


 そんな彼の心の内を知らないレイネールは、ゆっくりとその暗闇の穴を下り始めていた。


 降り立った先でトラブルはなかったようで、(じき)に彼女から「下りてきていい」との声が深き底から聞こえた。


「よし……」


 ライはロープを手に取る。


 周りの壁に足を掛けながらゆっくりと下りて行く。


 周囲を光の玉が照らしてくれていたため、足を踏み外すということはなかった。


 時折、踏んだ場所の石が下に転がって行ったので、それがレイネールに直撃していないかが心配だった。


 しかし彼女の悲鳴が聞こえることは一度もなかったので、多分レイネールは着地点から距離を取っていたのだろう。


 ライは着実に深くまで下りて行き、遂にその終端が見えた。


 ロープの端は劣化していた。白竜の術とやらの影響なのか、それとも他のモンスターの影響なのか、はたまたただの時間によるものかは断定不可能だったが、自分たちを苦しめる者が深層には存在している。そう読み取れた。


「よっと」


 ライはロープから手を放して着地した。


 深層はその視覚的情報がこれまでとはまるで違っていた。


(きん)だよな」


 金鉱石がその空間を装飾していた。


 それ以外にも明らかに高級そうな鉱石が至る所にあった。鉱石どころか宝石にも見えたそれらは、この場に商人がいるならニヤニヤしながら奪われていたことだろう。


 白竜の術とやらに耐えながら、その悪じみた表情を浮かべ続けられる商人がいるのなら、ぜひ会ってみたいが。


 そして第二層、第三層とは決定的に違っていたこと。それは周囲の岩壁の一部に散見する白い発光だ。


 この発光こそが白竜の術なのか。


「あれ……レイネールさんは?」


 白く輝くもはや神聖な場所のようにも感じられた場所に、ライは一人残されていた。


 穴は彼の予想以上に深く、下降にも数分かかった。


 だからなのか、レイネールはどこにもいなかった。その時間があれば、ただ待っているだけではなく、周囲の探索を進める方が今後の行動に役立つというものだ。


 その通り、少し先を探索していたレイネールが戻ってきた。


「申し訳ありません。ちょっと先を見て参りました」


「それで、何か発見は?」


「恐らくですが、あちらを進んでいけば白竜の場所まで行けると思います」


 そう言って、レイネールは自分の探索していた方向を指した。


「そう言える根拠は?」


 二人が下りてきた場所。そこを中心として、十字に道が広がっていた。


 つまり選択肢は他に三つあるということだ。適当に進んでいてはまた同じように迷う。そしてこれより襲うであろう白竜の術の影響に侵されてしまう。それだけは避けなくてはならなかった。


「白竜の魔力というものでしょうか。それを強く感じるのです」


「そうですか……」


 レイネールの言う、魔力を感じるという感覚。ライにはそれが分からなかった。


 二人を取り巻く周囲の白光。それは四方八方に広がっていた。これも白竜の魔力だというのなら、そのせいで魔力感知の感覚が誤魔化されているのだろうか。


 しかし、それ以外にも彼女が白竜の魔力を感知できる理由があると睨んでいた。


 彼女と白竜の間には何か繋がりがある。今ならば話してくれるのではないか、とライは思って、


「あの……。レイネールさんは以前ここに来たことがあるんじゃないですか?」


と恐る恐る言った。


 それに対してレイネールは少し悩んでいた。その間は、彼の問いへの肯定を意味するに等しかった。


 彼女が悩んでいるのは、過去を明かすか否かについてだ。


「お話しするならば、今が良いかもしれません。その通りです。私は一度だけ、白竜に会うためにこの地を訪れました」


 レイネールは壁に寄りかかり、目を閉じると昔語りを始めた。

ちなみに、レイネールは「話すなら今が良い」と言っていますが、絶対にタイミングが違います。昔語りをしている間にも、白竜の術の影響を受けるのですから……。


2021/12/28 全体的に少し修正しました。

2022/4/17 能力を変更:【マインドガード】→【抵抗増幅化(レジストゲイン)

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