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Tale 1 祝勝に潜む闇(2)

 人気VRMMOクロス・ファンタジー。このゲームに名を馳せるトップギルド【聖光の五英傑ホーリー・クインテッド】。そのギルドのメンバーは今、この古城にいる。


 【聖光の五英傑】の構成人数は五人。小規模ギルドだが、各々が強者であるゆえ、他プレイヤーからの知名度は高く、全員が二つ名をつけられている。


 ギルドマスターの聖騎士グラン。立派な金属鎧に身を包み、聖剣と聖盾で攻防戦を繰り広げる。彼の鉄壁の守りが、ギルドメンバー全員の生命線と言っても過言ではない。


 破壊王ヴェイン。大斧を振り回す屈強な男。とにかく脳筋プレイで、近寄るものを全て一蹴する。


 変幻自在ギール。プレイスタイルは魔法剣士といったところで、自分の武器に様々な効果を付与して戦う。若干キザな一面があり、女性人気で言えばグランかギールが首位を争う。


 聖賢セリカ。【聖光の五英傑】唯一の女性プレイヤー。攻撃魔法も回復魔法も難なく使いこなす、まさに賢者。また、金髪にその豊かな胸など、男性を惹きつける容姿が聖女らしい。しかし口や態度は少し悪く、ワガママお嬢様といえば彼女を体現するのにピッタリだろう。


 最後に雷帝ライ。陣形で最も後列にいて、全員に指示を出す司令塔の役を担っている。挑戦者からは最奥にいるイメージが強いことから帝の名を、また本人が雷系の攻撃を多用することと本人の名前を掛けて、(らい)の名を、それを合わせて雷帝の二つ名を得た。ライの得意な武器は弓だが、魔法も嗜むことから、周囲からは単なる弓使いではなく弓術師という認識を持たれている。


 そんな彼らは今日、ギルド対抗イベントの攻城戦に参加している。各ギルドが自分たちの拠点である城を守りながら、他ギルドの城を攻め落とすという大規模イベント。それが攻城戦だ。【聖光の五英傑】はこの攻城戦のチャンピオンとして君臨しており、首位を得るために攻撃を仕掛けてくるギルドも多かった。


 しかし、そんな忙しい時間ももう終わりだ。この攻城戦もあと五分もすれば終わってしまう。


「もうこんな時間か……。しっかし、ディフェンディングチャンピオンも楽じゃないな」


 ライは自分の目の前に表示されるウィンドウで時間を確認しながら言う。各プレイヤーごとに自分の情報が記載された、仮想ウィンドウだ。


「いいだろ。前回覇者はこの城を守ってるだけでいいんだからよ。まあ、攻め落とされたら一気に陥落だけどよ」


「そうだぞ。他のギルドは順位を上げたければ、攻めにも守りも人員を割かなくちゃいけない。ヴェインの言うとおり、守りに専念できることは前回覇者の特権だ。実際、今回の攻城戦も無事一位をキープして終われるだろうしな」


 攻城戦では、開始時に参加ギルドに順位が割り当てられる。その際、前回の攻城戦の順位が参考にされる。

 順位の変動方法は至ってシンプル。城に設置されたオーブを取られると、その二つのギルド間の順位が入れ替わるというものだった。


「確かに、他のギルドのことを考えたら恵まれてるのかもな。っていうか、攻城戦の連覇って、俺たちが初めてか?」


「そういやそうだな」


 ヴェインは当然のことをやってのけたかの如く、小さく頷いた。

 横をちらりと見れば、グランも似たような反応だ。


 ゲームの中くらい、感情を前面に出しても良さそうなものだが、ライは言わないでおいた。彼らの妙なストイックさは、今に始まったことではない。


「……それにしても、あいつら戻って来るの遅くないか?」


 ふとそう思ったライは、玉座の間に光差すガラス窓の一つに目を向ける。彼の待ち人はこの古城の外にいるはずなのだ。


「じきに戻ってくるさ」


 グランがそう言って数秒後、玉座の間の入り口からプレイヤーが現れた。その男女の二人組は何か会話をしていたようだが、三人にははっきりとは聞き取れなかった。

 中央で談話中の三人はその二人組に構えることもなく、受け入れた。


「そろそろ終わりだねー」


「はあぁー……。つっかれたー!」


 華やかな衣装に身を包んだ、細身で灰色髪の青年ギールが歩いて来る。

 そして城内に響く、少し嫌味交じりの女セリカの大声も一緒だ。


「お疲れさん」


 ライは二人に手を振る。するとセリカが足音を荒く立てて、ライに突っかかった。


「あんたたちねー……。攻めてくる敵があんなに多いなんて思いもしなかったわ。私をハメたわね!」


 セリカははっきりとした金髪のロングヘアーとローブの下の胸を揺らしながら文句を言う。

 そんな彼女の胸を押さえつける白いローブには、所々に金の装飾が施されており、彼女のお嬢様っぽさを一層引き立てている。


 実際、今回の防衛の担当分けに関して、城内担当の三人は結託してセリカを城外の敵の掃討に充てた。

 というのも理由があって、彼女の魔法による殲滅力は群を抜いているからだ。まずは来る敵の頭数を減らすという観点からはとても効果的だ。


 セリカはおだてられれば調子に乗るタイプで、ワガママな反面で扱いやすい一面もあるのだ。


「そう言うな、セリカ。おかげで城を守りきれたんだ。感謝してる」


 そんなこんなで激昂しそうなセリカを、グランは礼を言いながらなだめた。


「まあいいわ。今度私の行きたいクエストに付き合ってくれれば、チャラにするわ」


「「……」」


 急に黙り込む城内担当の三人。というのも前例があって、その時は遠慮なしにとんでもないクエストを押し付けられて、苦労させられたからだ。


「そういうことにしといたほうがいいよー。セリカったらさあ、感情に任せて魔法を無差別に撃ちまくってたんだから。僕も巻き込まれかけたし……」


 ギールは胸ポケットの一輪の花をいじりながら最後に小さな声で愚痴をこぼしたが、それは誰の耳にも届かなかったのか、反応は無い。


「ああ、分かったよ。約束する。ギールもありがとな」


 ライがセリカを怒らせないように返答した。一方で、セリカの受けたいクエストの想像がついていたのだろう。グランとヴェインは苦笑いだった。


 そして全員に聞こえるアナウンスが響き渡る。


『間もなく、第五回攻城戦が終了します』


「ようやく終わりか……。長い三時間だったな」


 グランがギルドマスターとして、場をまとめようと取り仕切り始める。それに合わせて、一同も一言ずつ述べる。まずはギール。


「また次回の開催が楽しみだね」


「次は城の中担当にしてよね」


 今日のことをまだ根に持っているセリカ。


「これが終わったら、打ち上げだ!」


 メンバー内で一番酒を飲みそうなヴェイン。

 そして。


「なあ、みんな。足元の異変に気付いてないのか?」


 不安げな表情を浮かべるライ。


 ライの言葉に、皆は足元に視線を向ける。次の瞬間、和気藹々な雰囲気は無くなってしまった。

 見慣れない異様な光景が視界に移ったからだ。


 五人を目として闇が渦巻いていた。


「なんだこれ?」


「渦みたいだけど、吸い込まれてるってわけではなさそうね。……ってゆうか、足が動かないんですけど」


 ヴェインもセリカが足に力を入れるが、その足はまるで床に張り付いているかのように離れなかった。

 恐らく原因は目下の渦。それは誰もが思っていた。


「ほんとだ。新しい転送演出かな」


「それはない。どんな演出だ」


 ギールとグランも自分の足を動かして、セリカの言葉の信憑性を確かめている。

 彼らの足ももちろん動かない。


 そして、丁度イベント終了の鐘が鳴り響く。


『第五回攻城戦終了です。参加した皆様、お疲れ様でした』


 優勝確定を告げるアナウンスと同時。


「おい! なんか吸い込まれてる!」


 闇の渦も活発になり始めた。


 その状況に焦り、ライが大声で訴えた。

 体は足の方から闇の渦に吸収されていく。他のメンバーも同様だった。


 特にセリカが喚いて抵抗しているが、誰にも解決手段はなかった。スキルを使った抵抗、自発的なログアウトなど、そのどれもが意味をなさなかった。丁度イベントマップからの転送とタイミングが重なり、システムがプレイヤーの操作を受け付けなかったからだ。


「くそっ……! どうなってんだ!?」


 最後にライが言い放った。他の四人はすでに諦めていたのか、口が動かせなかったのか、声が聞こえることはなかった。先に渦に呑み込まれてしまったのかもしれない。


 五人はやがて完全に渦の餌食に。クロス・ファンタジーの世界から、重ねて現実世界からも存在を消した。

【キャラクター紹介】

◇ライ……ギルド【聖光の五英傑】のメンバー。弓や雷魔術の扱いに長け、パーティの司令塔を担っている少年。本作の主人公。


◇グラン……ギルド【聖光の五英傑】のマスター。仲間思いで誠実かつ丁寧な男。他のプレイヤーが言うには、硬すぎてダメージが入らないらしい。


◇セリカ……ギルド【聖光の五英傑】のメンバー。魔法系スキルを多様に扱える、ゲームで言う所のまさに賢者。わがままな性格の一方、令嬢のような容姿を持つ彼女に惹かれる者は多い。


◇ヴェイン……ギルド【聖光の五英傑】のメンバー。周囲からは“とにかく脳筋”というイメージだが、実際に脳筋な屈強な男。


◇ギール……ギルド【聖光の五英傑】のメンバー。よくいるキザ男で、苦手な人とそうでない人ははっきり分かれる。胸ポケットに日替わりで花を入れておくのは拘りらしい。

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