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Tale 7 グリュトシルデ鉱山(3)

 二人は何が起こったのか分からなかった。


 氷はどこか一定の方向から飛ばされたわけではない。そこに生成されたというのが正しい解釈だった。


 早急に原因を突き止めようと周囲を見回す。


 メタルゴーレムは二人を目指してゆっくり接近中。この氷柱生成の犯人ではなさそうだ。


 では一体誰がこの氷を出現させたのか。答えは頭上にあった。


「何かいるぞ!」


 ライは指をさした。


「あれはフローズメア!? どうしてこんなところに……」


 頭上で狡猾に笑いながら二人を嘲る悪魔フローズメアは、黒と薄青の翼をバサバサと羽ばたかせている。


 メタルゴーレムが通路を崩壊させたあの時、他の通路とこの空間が繋がってしまったことで、普段は接触しないモンスター同士が会してしまったというのがおおよその見解だった。


「悪魔か……」


 ライはその悪魔を観察し、目が合った。


 その時、


「危ない!」


 レイネールはライに抱きつくように飛びついた。

 二人はそのまま地面に倒れた。


「うわっ!」


(ち、近い……!)


 冷静で麗しいレイネールがこんなに大胆な行動をするのは珍しい。彼女の純白の肌が視界一杯に映った。


 ライは驚いていたが、その奥に広がる光景にも驚愕した。


 先程までライが立っていた場所に氷の塊が出現していた。具体的には、心臓を狙い澄ましたかの如くその周辺を。


(あ、危なかった……。レイネールさんがいなきゃ今頃……)


「大丈夫ですか?」


「はい。ありがとうございます」


 レイネールとライは立ち上がって身だしなみを整える。


「フローズメアは凍結の悪魔と呼ばれるモンスターです。目があったら最後、心臓を凍らされます。絶対に目を見てはいけません」


(何だよそれ!)


 理不尽すぎる攻撃方法にライはツッコみそうになった。


 それでも今の一撃を回避できたのは、知識豊富なレイネールのおかげだ。


「戦うしかないようですね」


「はい。流石にフローズメアからは逃げられません」


 二人は覚悟を決めた。


 フローズメアと戦うということは、メタルゴーレムとも戦わなくてはならないということ。負担は倍以上になるだろう。


「いくぞ!」


 ライは悪魔に向かって矢を放った。


 しかしあの悪魔と目を合わせてはならないというレイネールの助言のせいで、狙いが正確に定まらず、容易く(かわ)されてしまった。


 もう一度矢を放とうとするが、


「【冷水の流弾(アクアバレット)】!」


 レイネールが先に、多数の水弾を悪魔に飛ばした。


 ライの放つ矢とほぼ同速の水の弾だが、フローズメアには命中しなかった。せいぜいその身体を掠めるくらいだった。


 それでも、水弾の存在意義は明確にあった。

 水弾はフローズメアの行動を制限していた。


 一発水弾を撃つと、悪魔は当然それを回避する。


 レイネールはその行く先を一瞬で見切り、次の水弾を飛ばしていた。彼女が悪魔を間接的にコントロールしていた。


 その支援のおかげで、ライにも悪魔の移動方向の予測がついた。

 直感を頼りに矢を放てば、矢は見事に悪魔の翼を貫いた。


 フローズメアが怯み、落下しかけた。


「よし……当たった!」


 総合的な命中率は最悪だったが、進捗が生まれたのは評価すべきだ。


 二人は浮かれる暇もなく、すぐに気を引き締める。


 追撃するには絶好の機会だったが、それは許されなかった。


「ライさん!」


「分かってる!」


 メタルゴーレムの拳がすぐそこまで迫って来ていた。


 二人はそれぞれで回避に徹する。


 レイネールはそのまま敵二体を視界に捉えられる場所まで走った。


 ライはメタルゴーレムの体を何回も蹴った。鋼鉄とも言える体組成だ。踏みつけたくらいでは、その鉛色の箱は微動だにしなかった。ライの身体は次第に上昇していき、やがてあの綺麗な鉱床の生える頭頂部まで辿り着いた。


 メタルゴーレムは攻撃後の隙が長い。今は地面にめり込んだ拳を持ち上げているところだった。


 一方、フローズメアは翼に突き刺さった矢をその手で抜いていた。翼から羽が少し抜け落ちた。


 そして手に握る矢を放り投げ、冷徹さを含んだ憤怒の眼差しで見下した。


「俺が狙いか……」


 傷を負わせた張本人だからだろう。


 ライ目掛けて、悪魔はその体ごと勢いよく突進して来る。

 同時に、悪魔の前方に氷の(つぶて)が生成され、彼に一直線。


「……っ!」


 ライは氷の礫の速度を見誤った。


 それでも反射神経で対応し、間一髪避けることに成功した。


 だが、回避する方向が良くなかった。


 重心が後方に寄ってしまい、メタルゴーレムから落下しかけていた。


 背中の矢筒に手を回している時間はなかった。さらに言えば、少しでも後方に手を回せばさらに体重が後方へ偏ることになって、それこそ落下は間違いなくなる。


 だから魔力で生成した光の矢で弓を引き絞った。


(いけっ!)


 冷笑の悪魔に向かって放たれた矢は、


「駄目か……!」


 その胴体を掠めるだけに終わった。


 そして悪魔は急旋回し遠ざかって行く。


 ライを一瞥した悪魔は嘲笑しているようだった。

 悔しいが、今の体勢では追撃を行うことは敵わなかった。


 しかし、彼の一矢は無駄ではなかった。


「上出来です。【凍てつく鋭槍(フロストジャベリン)】!」


 レイネールの声が響き渡り、旋回中の悪魔を目掛けた魔術が発動する。


 直後、多数の氷塊が出現した。


 それは一撃目から悪魔に直撃し、衝撃で飛び散った氷の粉が舞い散る。


 悪魔は呻き、咄嗟に飛行角度を変えた。しかし氷塊はそれを追尾する。タイムラグなど存在しない。


 まるでその悪魔の動きが最初から分かっていたかのようだった。


 結局、氷塊は全弾命中した。


 悪魔の身体は深く裂かれ、翼はボロボロに。


 そんな神業の一部始終を目撃していたライには、気になった現象がある。


 氷塊が悪魔の頭部辺りを狙った瞬間、何かが見えたのだ。青っぽい、紫っぽい破片が飛び散るような。


 それは、悪魔が反撃のつもりで放った氷が相殺されたために起こった現象だったのだろうか。いやしかし、レイネールの魔術の方が圧巻であり、悪魔が氷を生成していたかどうかも怪しい。……などと考えてみたが、そんな余裕はもうなかった。


 なぜなら、ライはいまだバランスを崩していたからだ。攻撃後には落下する覚悟であの一矢を放ったのだ。バランスを取り直せるはずがなかった。


 そんな彼に追い打ちをかけるように足元が揺れ始めた。体勢を立て直したメタルゴーレムが動き始めたのだ。


 自分の頭を踏まれて不快に思うのは当然だ。メタルゴーレムは体を振った。


 メタルゴーレムはかなりの重量を持っている。ゆえに遠心力も大きく働いた。


(だめだっ……!)


 次の瞬間、ライは宙に投げ出された。

 そして鉛の拳が半円を描いてライの眼前に。


(防御が間に合わない……!)


 防衛本能が働き両腕を盾のように突き出して顔を覆うが、そんなものは全身金属の物体の前には意味を成さなかった。


 ライは恐怖から目を瞑ってしまった。この世界でまともに傷を受けたらどうなってしまうかと(よぎ)ったら、その先は考えたくもなかった。


 しかし彼を恐怖が支配する前に、優しい声が彼を包み込んだ。


「【大障壁(プロテクトウォール)】!」


 レイネールの声の後、ライの前に巨大な壁が現れた。


 特徴的な文様の描かれたステンドグラスのようなそれは、ギリギリでメタルゴーレムの重い一撃を受け止めた。


 その障壁に阻まれ硬直したように見えたメタルゴーレム。しかし巨大な金属体がその圧倒的な力で障壁を押すと、中心からヒビが入った。


 そしてものの一秒で障壁は完全に破壊されてしまった。


 しかし、一瞬でも時間が稼げたことはライにとって好都合だった。


「【蒼雷の雲衣(サンダーヴェール)】!」


 ライの全身に小さな雷が発生し始める。

 それらは彼の体内の魔力を吸い上げて電力を強化して、発動者の身体を蒼く包んだ。


 直後、巨大な拳はライの腹にへこみを入れるように食い込んだ。


「がはっ……!?」


 声にならない悲鳴と共にライは吹き飛んだ。端の壁まで直線的に叩きつけられた。


 一般の人間ならこれで死んでいただろう。


 だがライは本来、クロス・ファンタジーで使っていたアバターだ。当時の高いステータスはそのまま今の彼に受け継がれている。

 それでも決して防御力が高かったわけではないが、レイネールの障壁のおかげでダメージは軽減できていた。


 そしてダメージを軽減できた要因がもう一つあった。


 それはライの身体に(まと)っていた雷だ。


 メタルゴーレムの拳の接触時、そこから金属体に電流が流れていた。もちろん、メタルゴーレムは全身が鉛金属なので、これに耐えられるはずがなかった。


 メタルゴーレムも呻きに呻いて、攻撃を中断していた。


 それでも壁に叩きつけられるほどの威力の攻撃を受けたのだ。どれか一つでも足りなかったらと思うと、ライはぞっとした。


 ダメージを最小限に抑えていたおかげで、ライの意識ははっきりしていた。


 彼は埋め込まれた壁から、壁を押す反作用で抜け出した。


「ふぅ……」


 ライが息を整えていると、レイネールが走って来た。



「ライさん、大丈夫ですか!?」


「ああ。レイネールさんのおかげでなんとかね」


 ライは笑っているが、レイネールの心配は続いた。


「傷が……」


 彼の身体に幾つかの(あざ)と打ち身の傷があったからだ。それらに加えて、全身の焦げた跡も。


 【蒼雷の雲衣(サンダーヴェール)】で纏った雷は護身にも攻撃の手段にもなるが、纏った本人にも電流は流れる。


 ライが軽微の代償で済んだのは、彼が雷に耐性を持つスキルを習得していたからだ。


「大丈夫ですよ。本当に……」


「いいえ。しっかり治療しておかないと……【応急治癒(キュア―)】」


 全身が光ったと思ったのも束の間、ライの傷は消えてしまった。皮膚はまるで始めから傷がなかったかのように元通りだ。


「これが回復魔術……」


「はい。正確には傷を塞いだだけですが。生命力を回復させる魔術は神にも等しい力。神官などにのみ許される行動です」


「ポーションとは訳が違うんですね」


「ポーションは持続的に生命力を回復させる効果がありますが、即時性はありません。魔術であれば即時に生命力を回復させることが可能ですので、生命力回復魔術を扱える人材は大変貴重です。私は使えませんが……」


「なるほど。それでこの状況……どうしますか?」


 揺れ動く地面と凍て尽いた空気。


 二人の前にはその二つの脅威が再び迫っていた。

2021/12/27 全体を少し修正しました。

2022/4/17 能力名称を変更:【アクアバレット】→【冷水の流弾(アクアバレット)

【キュア―】→【応急治癒(キュア―)

能力を変更:【クリスタルボム】→【凍てつく鋭槍(フロストジャベリン)】 

これに伴い、戦闘描写を中心に一部修正しました。


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