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Tale 7 グリュトシルデ鉱山(2)

 次は右の道を探索する話になった。


 ところが遂に恐れていた事態が起こった。


「右か左……か」


 分岐点だ。

 分岐の先にまた分岐。ライはこの無限ループだけには直面したくないと思っていた。


「どちらに進みましょうか」


「どっちでもいいです。迷っている時間はありません」


 考えるよりも先に足が動いていた。右を選択し、レイネールもすぐ後ろをつけた。


 しばらく歩くと、壁に埋もれた僅かな光沢を発する物を見つけた。


「これは……」


「これは鉱床です。ここから鉱石を採掘するのです」


 採掘のために適当に道が掘られていたのならば、と考えるとライは嫌気が差した。


 道は途中で曲がりくねり果てなく続いているような感覚だった。道が湾曲しすぎて、二人は方向感覚を失っていた。


「どこまで続くんだ……」


 左側の道も探索しなければいけないかもしれないというのに、一向にこの道が正しいのか分からない。


 しかし鉱床はぽつぽつと道中に確認できていた。それはつまり、この先にも道が続いているかもしれない、より深い場所まで続いているかもしれないということだ。


 ライはその一縷の望みにかけて進む。


 そしてその目に映ったものは。


「また分岐……」


 ライの拳に力が入る。ひしひしと伝わる怒りをレイネールは感じ取っていた。

 進むべきは直進か右方向だ。


 ここまで二回とも右の道を選んでいた。もう一度右に進むべきか。ライが愚直に進もうとすると、レイネールは彼を呼び止めた。


「お待ち下さい! この道って、私たちが来た方ではないでしょうか?」


 レイネールは進もうとしていた方向を指し、ライも彼女の言いたいことに気付いた。


 ライは右に曲がって振り返る。その光景は自分たちが先の分岐に差し掛かった時と一致していた。


 それまで気が付かなかったが、この分岐の右の道と左の道は一周の坑道として繋がっていたのだ。


「ほんとだ……!」


 ライは拳で近くの壁を叩いた。

 壁から石ころが剥がれ落ち、その音が道に(むな)しく反響した。


 ライの怒りは収まらなかった。

 道が繋がっていたのは不幸中の幸いだったが、それでも多くの時間を費やしてしまったのだ。弄ばれているようにすら感じた。


「お、落ち着いて下さい。お気持ちは分かりますが……」


「すみません。取り乱しました」


 ライは深呼吸して、来た道を引き返した。


「行こう。中央の道が正解だったんだ」


「はい」


 そうして二人は最初の分岐点に戻り、中央の道を進み始める。


 二人の足音だけが鳴り響く。それはどの通路を進んでいた時も同じだったが、心なしかその音は小さかった。開けた空間が近いということなのだろうか。はたまた先に道が続いているということなのだろうか。


「……おっと!」


 ライは悪くなっていた足場に足を滑らせかけた。付近には石ころや拳サイズの岩石が無造作に転がっていた。


「気を付けて下さい。ところで……」


「ああ」


 この先の坑道は下り勾配になっていた。


「ようやく見つけた……。ここを進めば下に行ける」


「そうですね。……ライさん」


「……?」


 早速進もうとするライを、レイネールは呼び止めた。


「焦らないで下さい。確かに時間がないのは事実です。ですが、ここから先はもっと複雑になるかと思われます。今は偶然接触しませんでしたが、モンスターだって潜んでいます。普段のライさんでいることがアルマさんを助ける一番の近道ですよ」


「ありがとうございます。また我を忘れていたら、その時は……よろしくお願いします」


「もちろんです。では、行きましょうか」




 それからどれだけ時間が経っただろうか。


 二人は繰り返す坑道の確認に疲弊していた。


「今、どの辺りにいるんでしょうか……」


「正確なことは言えませんが、第二層にはいると思います」


 周囲には二人の姿しか見えないが、耳を澄ませば何かの呻き声や笑い声のようなものが聞こえた。


「せめてコレっていう状況証拠でもあればなぁ。あれは……」


 ライは視界の奥に鮮やかな数色の煌きを見つけた。

 もしかして、と思い一目散に近づき、


「鉱床! それもレアなやつなんじゃ……!?」


喜びのあまり声を響かせた。


 それまで灰色や土色や鉄色が多かった鉱石類に比べれば、今彼が発見した物は赤や青やさらには空色という洞窟には似つかわしくない色までも含んでいた。


 そんな明らかに宝石と呼べそうな鉱石。


 レイネールは遅くしてその存在に気付いた。そして、


「あれは……! ライさん、今すぐ離れて下さい!」


 注意喚起は遅かった。


 レイネールがそう言うと同時、地面が揺れ始めた。


「おおっ……!? 何だ!?」


 ライは揺れに足を取られ、バランスを取るので精いっぱいだった。


 お構いなしに揺れは大きくなり、周囲の壁には亀裂が入り始めた。


「……っ!」


 横方向だけに感じていた揺れも、最後には縦方向に勢いを増し、気付いた時にはライは上方へ吹っ飛ばされていた。


 そして崩落した下の空間へと投げ出される。


「いったぁ!」


 見事に身を打ちつけたライ。しかし骨折しかねない高さからの落下にも関わらず、目立った外傷はなかった。


「大丈夫ですか!?」


 危険をいち早く察知し場を離れていたレイネールは、崩落先を覗く。


「大丈夫です!」


「今行きます!」


 レイネールは自分に何らかの魔術を掛け、なんと二本足でそのまま着地した。


「何が起こったんですか?」


「あちらを見て下さい」


 【光の照球(ライトスフィア)】の明かりが、崩落を起こした原因を照らした。


 そこには鉛色に輝く箱型の巨体が佇んでいて、あの色彩豊かな宝石も頭頂部にあった。


「モンスターか!」


「メタルゴーレム……。鉱石を主食として、その体に鉱石を生やして擬態したり相手を(おび)き寄せたりするモンスターです」


 ライはまんまとメタルゴーレムの目論見に引っ掛かったという訳だ。


「戦いますか? それとも逃げますか?」


 白竜が未知数である以上、戦力は温存しておきたいというのがライの考えだった。


「幸い、メタルゴーレムはあのように……」


 メタルゴーレムは二人目掛けて動き始めた。

 しかしその動きはあまりに遅い。


「なるほど。逃げるのは簡単そうですね」


 ライは周囲を観察し、


「あっちに行きましょう!」


見つけた通路を指差した。


「分かりました!」


 二人は同時に走り出した。メタルゴーレムの横を素通りし、その距離を離していく。


 メタルゴーレムの対応速度は見た目通り遅く、ライが確認のため振り返ると、今さら拳を振りかざしていた。


 そして地面に叩きつけ、地面が一直線上に隆起した。


「横に避けて!」


 その一言でお互いに道を開けるようにステップを踏んだ。


 直後、二人のいた場所には岩が刺々しく逆立った。


「ありがとうございます!」


 その調子で出口まで目前となる。

 メタルゴーレムの攻撃の第二波は間に合いそうになかった。


 だから二人には余裕が生まれていた。下への道を強引に見つけられたことで、返ってラッキーだったと。


 だが、


「「!?」」


 通路への道は突然封じられた。巨大な透き通った氷柱によって。


 二人の足は止まり凍り付いた。

2021/12/26 鉱山内の構造変更に合わせて、元々の『Tale 7 グリュトシルデ鉱山(2)と(3)』を統合し、修正を加えました

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