Tale 7 グリュトシルデ鉱山(1)
「ようやく着いたのか……」
ライとレイネールの前には、大きな穴が広がっていた。
壁には街で散々見かけた石を光源とするカンテラがかけられており、鉱山内部を明るく照らす。坑道は十分に整備されていて、進むのには苦労しなさそうだった。
「ここがグリュトシルデ鉱山の入り口になります」
「それじゃあ……入りましょう……っ!」
「大丈夫ですか!?」
「ぜぇ……ぜぇ……」
ライは完全に参っていた。その場に座り込み、顔色は悪く、今にも吐き出してしまいそうだった。
「お顔が優れないようで……」
特に異常なしのレイネールは、ライの顔を見るや右手を彼の額に当てた。
(高山病とかかな……。そんなに高くまで登ってないと思うけど、甘く見てた)
「【抵抗増幅化】」
温かい光がライを包み込む。
しばらくすると、ライの呼吸は正常に戻った。そして吐き気も全くなくなってしまった。
「お体の方は大丈夫ですか?」
「助かりました。今のは?」
「【抵抗増幅化】、精神抵抗を一時的に強化する魔術です」
(なるほど。精神状態が整って、脳内の酸素不足が解消されて、吐き気も消えたのか。……原理は全く分からんけど。まあそれが魔術ってもんだよな)
超常的な力に感謝しながら、ライは自分の頬を叩き、気合を入れ直した。
「さあ、行きましょう」
「はい。ですがここからが正念場です。無理のなさらないように」
二人は坑道へと足を踏み入れた。
入り口付近は外光が差していたため照明が十分に感じていたが、奥へ進めば周囲が薄暗いと感じ始めた。
「思ったよりも暗いですね」
ライは後ろを振り返る。
先程までいた入り口が小さな光を放っていた。
「心配いりませんよ。【光の照球】」
レイネールの周りに三つの光の玉が現れる。それらは互いに距離を取り、二人の視界を明るくした。
「おお……! 便利ですね」
単純に有難かった。松明やカンテラでも用は足りただろうが、この光源にはそれらにはない強みがあった。
それは手が塞がらないということだ。それでいて、自分の意識でコントロールして好きな場所を照らせるのだ。
「この程度の魔術であれば、お教えしますよ」
「本当ですか!?」
「はい。もちろん、どんなものを覚えられるかはその方の素質や適性によりますが……」
「ぜひお願いします!」
「ふふっ。いい返事ですね」
まだまだ警戒するような場所ではなく、二人はこれまでのように会話を楽しみながら歩いていた。
「そうだ、この鉱山について少しだけお話しておきます。ここは複数の層で区分けされています」
「ってことはここが第一層で合っていますか?」
「はい。グリュトシルデ鉱山は四つの層に分けられています。第一層から第三層と深層です。下りるほど希少な資源が眠っていますが、モンスターも手強くなります」
「油断は禁物……ですね」
「はい。ですが深層だけは訳が違います。あそこは……とても採掘ができるような場所ではありません」
「どうして?」
「そこが白竜の棲み処だからです。きっと……苦労を掛けることになると思います」
レイネールはこの時、弱々しくなっていた。
ライは“犠牲を出した”ということが再び引っ掛かっていた。
「細心の注意を払って進みましょう。大丈夫、俺が何とかしますよ」
「……そうですね。まずは下を目指さなくては、ですね」
一本道を歩き続けると、分岐に差し掛かった。
「道が三本……。レイネールさん、どっちに行けばいいんですか?」
光の玉がそれぞれの道を照らしている。
どの道も大きな違いがない。すぐに行き止まりというわけでもなさそうなのがさらに厄介だ。
「資源を求めて掘り進めた結果……ですね。残念ながらどの道が下に続いているかは覚えていません」
「それじゃあ、一つずつ確かめていくしかないのか……」
「力不足で申し訳ありません」
出来ることならば避けたい行動だった。時間なき今、鉱山内の構造を丁寧に把握している余裕なんて当然なかった。
しかし行動しなければ事態が進展しないのも事実。やるしかなかった。
二人で手分けをして探索することはしなかった。
はぐれるという事態になれば、時間を浪費してしまうことになるからだ。はぐれるくらいならば、効率を抑えてでも一緒に行動した方が良いという話になった。
彼らはまず左の道に進むことにした。
数分して小さな空間に出た。
「行き止まり……のようですね」
「そうみたいですね」
三つの光玉はその空間の天上や壁を隈なく照らす。
掘り返した後だったのか、その空間には何もなかったのだ。
「戻ろう」
選択肢が一つ消えたという成果は得たものの、過ぎ行く時間が気になる。
二人は足早に来た道を戻った。
2021/12/26 鉱山の内部構造を少し変更しました(後の話に影響はありません)
2022/4/17 能力名称を変更:【ウォームフルハート】→【抵抗増幅化】
【ライトスフィア】→【光の照球】




