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Tale 6 侵蝕熱(4)

 グリュトシルデの街の裏一帯は荒れている印象だった。

 土が露出していて砂利にまみれた地面。靴で踏む度に小石の擦れる音が耳に入った。


 やがて二人は走るのを止めた。体力の温存を考えてのことだ。


「レイネールさん。あれが裏口の番人ですか?」


 ライは褐色の鎧の大男を思い出す。ぶっきらぼうな男だったが、その根底には優しい心があるように感じていた。


「はい。裏口の守護を任されているのがあの方です」


「でも、何であんな人が裏口の見張りなんてやってるんですか? 別にあれほどの武装なら正門の見張りも務まると思うんだけど」


「それはグリュトシルデにとって、この先にある鉱山がとても重要な場所だからです」


「重要な場所?」


「この先の鉱山はとても広く、豊富な種類と量の鉱石を採取することができます。それはほかの鉱山にも劣らない程の物です」


「大切な資源が他所に採られないようにってことか」


「はい。鉱山に侵入するには、あの方がいる場所を通らなくてはなりません。それゆえ、彼にその守りをお願いしているのです」


「裏口を通らないといけないんだったら、街に入る必要がありますよね? だったら正門に立たせていても、あまり変わんないんじゃないかな?」


 そもそも街に盗みを働く輩を入れなければ、裏口を守る必要はないのではないか。正門の守りさえ固めていれば事は足りると、ライはそう思った。


「仰る通りです。ですがあのような無骨な格好をした方が街の正門にいれば、どうでしょうか? 少し近づきにくいと思ってしまわれませんか?」


 ライは自分の頭で想像してみる。


 いつも街の正門で見張りをしている一般の兵士。彼らの武装は量産型の鎧で、顔もしっかりと見える。礼儀を心得ていて、挨拶も交わしてくれる。

 冒険者でなくとも、住民や観光客も安心することができるだろう。


 だが、それがあの大男に変わったらどうだろうか。確かに来るもの全てを拒みそうで、街の守護という観点からは普通の兵士たちよりも成果は出せるだろう。しかし彼は戦闘力はあっても会話力は多分平均以下。


 住民や観光客が避けたがるのは、満場一致で彼だろう。


「……そうだな。あいつにはあの場所が相応しいのかもしれない。それと、もう一つ聞きたいことがあるんだけど……」


 ライは足を止めた。


「『犠牲を出した』……って。番人はそう言ってましたよね?」


「……その話は今は控えていただけますか? お話しする時期が来れば、その時にきちんとお話ししますので……」


「分かりました。嫌なことを思い出させちゃってすみません」


「いえ」


 憂鬱なレイネールの顔を、ライは初めて見た。




 それから歩くこと数分。彼らの足は再び止まった。


 その先がゴツゴツした岩肌の絶壁で進めそうになかったからだ。


「ここが、この内部がグリュトシルデ鉱山です」


 ライは高くそびえる鉱山を見上げた。


 見上げ続けるには首が痛くなってしまうほどに高い鉱山。実は街にいる時にも建物の隙間からその姿を確認できた。それがこれほどまでに標高ある場所だったとは、思いもしなかった。


「ここに白竜がいるんですね?」


「はい」


 ライは岩肌を眺める。


 そして不思議に思う。


 あるべきものがなかったからだ。


「入り口は?」


 鉱山内部に侵入できそうな入り口、それどころか小さな穴さえも見当たらなかった。


「こちらです」


 レイネールの方をよく見ると、その先に道が続いていた。

 緩やかな勾配の道だった。


「登るのか……」


 ライはまさか、と嘆いた。


 道幅は五メートル程あり、一歩間違えれば落下してしまう……という心配はなかった。だが、途中崩れかけている場所もあった。そういった場所は避けて通らなければならなかった。


 鉱山の周りを鷲のような見た目の鳥が飛び交っていたが、二人を襲ってくることはなかった。


「あいつらもモンスターなんですか?」


「あれはガルーダですね」


「襲ってこないのは何故?」


 ライはその気になれば鷲たちを撃ち落とすことだってできた。だが、クエストでもないのに罪なき者を一方的に攻撃するのは心が痛む。だからそれはやめておいた。


「鉱山上空には白竜の守護結界が張り巡らされています。そのため、害意を持った者が外から侵入できないようになっているのです」


「どっちにせよ、面倒なことにならないならそれに越したことはないですね」


 何の変哲もない空だが、レイネールに言われるとそこへと意識を向けてしまう。


 しかしやはり結界があるようには思えない。同時にガルーダは一向に襲ってこない。


 結界が機能している証拠なのだろう。


 次に、ライはふと足を止めて見下ろした。

 先ほどまで二人がいた荒野はもう遠い。グリュトシルデの街も小さくなっていた。


(アルマ、まだ生きてるよな?)


 その様子を見て胸中を察したのか、レイネールは優しく笑った。


「大丈夫ですよ。アルマさんは胆力のある、優しい方です。呪いなんかに負けはしません」


 今(すが)れるのは彼女の励ましの言葉とアルマ本人だけだった。


(待っていてくれ……アルマ!)


 ライは力強く頷いて、鉱山侵入口を目指し登山道を進んだ。

2021/12/26 鉱山への道中の会話を中心に、全体を微修正しました。

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