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Tale 1 祝勝に潜む闇(1)

 とある古城の玉座の間にて。

 剣や盾の金属が打ち合う音。魔法の爆音。広い空間にそれらが轟いていた。


「ヴェイン! 右から二人来てる!」


 陣形の最後方に構える少年が指示を出す。

 黒髪の先端を染める赤色。全身は深緑色の装束で包まれており、その隙間からスカーフが顔を覗かせている。そして彼の最大の特徴、背中の黒い弓は、数多の獲物を狩って来たと言わんばかりに煌々としている。


 そんな弓使いの隣には、黄金に輝くオーブが一つ、台座に飾られている。


「おうよ!」


 ヴェインは短く返事を済ませる。その後で、まずは対峙していた目の前の敵プレイヤー一人を鋭く睨み、その大斧で薙ぎ払った。


 大柄で筋肉質な体から放たれた一撃だ。それを食らった敵はたまらず大声をあげてしまう。床に仰向けに倒れ、ヴェインを睨むが、やがて死亡エフェクトと共に散っていった。


 ヴェインはそれを確認することなく、指示通り次の侵入者二人を排除しに向かう。


 そこから離れた同じ室内の一角で、がっしりと守りを固める男もいた。

 その淡い金髪の男は白と青を基調とした、重厚な鎧に身を包み、両手にそれぞれ持つ聖剣と聖盾と謳われる武具を巧みに操っている。


「はあっ!」


 彼もまた、侵入者の排除に専念している。相手はアサシンだろうか。細身の女だが、真っ黒な装束と鋭利な短刀から、際限のない殺気を感じる。


「聖騎士グラン。……あなたと打ち合えてとても光栄だ」


「それはどうも。私も嬉しいです。それで、私を突破する手段はあるのかな?」


 グランはにっこりとほほ笑んで、己に幾度となく向けられる刃を盾で容易く防ぐ。


「くっ……。流石は聖騎士と呼ばれるだけの存在。しかし……遠いな」


 女アサシンは遠くの黄金のオーブを見る。彼女はそれを奪いにこの城まで攻め込んできたのだ。

 しかし眼前の鉄壁のグランはこれ以上の侵入を許さなかった。


余所見(よそみ)をしている時間はありませんよ。では、そろそろ行きます!」


 グランがそう言うと、女の注意から外れていた聖剣が白く輝き出す。グランの攻撃準備が整った合図だ。


「【聖なる輝剣(ホーリーブレイド)】」


 女アサシンの攻撃の僅かな間隔を突いて放たれた剣撃。それは女アサシンの腹部に深い傷を生んだ。


「しまった……! ああっ……!」


 女アサシンは苦痛に喘ぐ。グランは容赦なく、その後も光纏う剣撃を放った。

 何度も剣傷を刻まれた女アサシンは抵抗することなく倒れてしまった。

 彼女が空に散っていく様を見届けると、グランは一息つく。


 そして自分の右横で繰り広げられている戦闘を一瞥(いちべつ)する。


 ヴェインが大斧を振り回しながら敵二人を相手している。通常、大斧は一撃が重い代わりに一回の攻撃にかかる時間が長い。それが彼らのいるゲーム世界での(ことわり)だ。


 しかし、この大男は普通のサイズの片手剣を振るかの如く、軽々しくもその無骨な大斧を振り回すことが出来る。ステータスという数値上の概念に囚われるこの世界では、筋力の数値が大きいほど武器の重量を無視することが可能だからだ。


 さらに、ヴェインは自分の体も武器にして戦っている。時には斧を握ってない方の拳でパンチを繰り出し、時には足蹴りや足払いをしたり、その身で体当たりしたり。無茶で強引な戦い方が彼らしく、そして今も相手を苦しめている。


 グランが仲間の様子を伺ったのは、自分も助けに入った方が良いか戦況を確かめるためだ。しかし、それは不要だと判断した。


 そして束の間の休憩もすぐに終わる。


「おい、グラン! 次来てるぞ!」


 弓使いの少年がそう言った。

 グランが前方を確認すると、確かに玉座の間の入り口から数名のプレイヤーが入り込んできている最中だった。


 少年はその集団に向かって複数の矢を撃ち込む。グランが接近しやすいように、侵入者を牽制した。


「悪い!」


 前方の騎士はその方向へ駆けて行く。そのプレイヤーは魔法使いのようで、離れた位置から一斉に魔法を放ってくる。多数の火球がグランへ向かっていく。


「【聖なる輝盾(ホーリーシールド)】」


 グランが盾を前に勢いよく突き出す。すると、盾から大きな障壁が展開される。彼の盾をそのまま巨大化したような障壁だ。


 グランはその大きな盾と共に前進する。次第に距離の詰まっていく敵の火球はその障壁にぶつかり、溶け込むようにすべて消えてしまった。


 そしていとも簡単に距離を詰めたグラン。


 まさか自分たちの魔法が完全無力化されるとは思っていなかったのだろう。そんな様子の無防備な魔法使いたちを剣で横薙ぎすると、彼らも死亡エフェクトを発生させた。


 儚く散る青白い光を見届けて、グランは剣を鞘に収めた。


「ふぅ……」


 グランが今度こそ一息つく。


「こっちも終わったぜ」


 ヴェインも大斧を持ち上げながら、大きく伸びをする。


「お疲れ様」


 司令塔の青年は前衛二人のもとへ下りていく。


「ナイスサポートだったぞ、ライ」


「俺の方も手伝ってくれよなぁ」


「お前は斧振り回してれば、大体のやつは倒せるからサポート要らないと思ったんだったけど、必要だったか?」


 矢を放った少年ライは、少し反省した様子でヴェインに尋ねる。

 自分より小柄なライが委縮したように見えたのか、ヴェインも申し訳ない気持ちになった。


「いや、俺のわがままだったな。まあ確かに、今回のやつは手応えがあまりなかった方だな」


 三人は広い空間のど真ん中で話し込んでいる。先ほどの戦闘からしてありえないほどの油断っぷりを見せているのは、もうすぐこのイベントが終わるからだ。

2021/8/30 Tale 1 のタイトルを変更しました。(内容に変更はありません)

2022/4/16 能力名称を変更:【ホーリーブレイド】→【聖なる輝剣(ホーリーブレイド)

【セイントシールド】→【聖なる輝盾(ホーリーシールド)

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