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Tale 5 赤狼の大群(2)

「そ、そうでした。ライに矢を提供してほしいのです」


「確かに、寂しい矢筒だな。じゃあちょっと弓を見せてくれ」


 ライは担いでいた弓をフェイズに渡す。するとフェイズは様々な角度から弓を調べ始めた。


「面白い弓だな……」


 店主は観察を続ける。ただ見ているだけだったが、その目つきはまさしく職人のもの。ライたち凡人には分かりえないことまで、今のフェイズには分かっているのだろう。


 満足気な吐息を零して、弓は持ち主へと返される。そしてフェイズは店内の弓と矢が飾られているスペースに歩いて行き、数種類ある矢の中から目星を付けた一種類をひと掴みした。


「これなんてどうだ?」


 フェイズはその矢の束をライの手に乗せる。


「矢にも種類があってな。兄ちゃんの使う弓の重量、素材と照らし合わせると、この矢が丁度良い。どうだ?」


 ライは受け取った矢を一本残し、他は矢筒に入れる。


 矢は全体が鉄色で黒光りしていて、威力は申し分なさそうだった。しかし姿かたちは普通の矢。それ以上の期待はできなさそうなものだった。


 ライが昨日使っていた矢は、その弓とセットになっている物だ。最高のパフォーマンスを期待するには、やはりあれでなくてはならない。今さら無い物をどうこう言っても仕方がないが。


 何はともあれ、まずは耐久チェック。矢を曲げてみると、結構な力を込めているはずなのに、矢はしなやかに湾曲したまま折れない。力を抜くと、矢は元通り一直線になった。


「普通の矢じゃないな……」


「俺の店の商品を舐めてもらっちゃあ困るな! それは見た目こそ普通だが、素材は特殊なもんを使ってるんだ」


 フェイズは威張るように言った。


黒煌鉄(こっこうてつ)って知ってるか?」


「黒煌鉄?」


「聞いたことがあります。鉄の中でも魔力を多く含んだ物のことでしたっけ?」


 アルマが記憶を探りながら解説する。


「まあざっくり言えばそんな感じだ。洞窟なんかの光の当たらない場所でしか採掘できない。そういう場所で魔力を蓄積しながら育つんだ」


「育つ?」


 “鉱石が育つ”なんて言い回しは普通はしない。


「まあ育つっつっても、サイズは変わんねえ。鉱石に含まれる魔力量が増えていくから育つって言うだけだ。……で、魔力量に応じて黒く輝くことからその名前が付けられた」


「なるほど。今の説明だと、場所さえあれば黒煌鉄は簡単に作れるってことになるのか?」


 ライが質問すると、フェイズは感心した声を上げた。


「呑み込みが早いな! 確かにその通りだ。だが、鉄が黒煌鉄に育つには条件がもう一つある」


「条件ですか?」


「ああ。それは鉄が魔力を吸収できるということだ。何も全部の鉄が魔力を吸収できるわけじゃない。そういう特殊な鉄があるというだけだ。まあどういう原理でそうなっているのかは俺も分からんが……」


 フェイズは一息つくと、説明を続ける。


「だけどな、最近の研究で黒煌鉄を人工的に作る試みがなされているらしい。なんでもただの鉄に強引に魔力を流し込むと、吸収反応を示す場合があるんだとか。最も、そういう過程で作られた物は天然の物よりも質の期待はできないだろうけどな。もちろん、その矢は天然由来だぞ」


 フェイズは矢を指差しながら胸を張る。店主は拘りが強いみたいだ。


「勉強になりました」


「それで、この矢にはどんな期待ができるんだ?」


「この矢には魔力が含まれているというのは、さっきの説明で予想がつくだろう。だが、重要なのはそこじゃない。魔力を吸収できるということが重要なんだ」


「どういうことだ?」


「魔術を使う時なんかだな。もし魔術をこの矢を介して使う時、魔力はまず矢にいく」


 フェイズは矢を指して言う。


「その時、矢が魔力に耐えられないとどうなるか。……答えは簡単だ。壊れてしまう」


「つまり物を介して魔術を使用するには、それに見合っただけの魔力を吸収できる器が必要というわけか」


「ま、そういうことだ。何ならこれもやるから試してみな」


 そう言って、フェイズは素材の異なる矢を数本ライに渡す。ライはそれらをまとめて矢筒にしまった。


「その目で見た方が早いってもんだ」


「ありがとう」


「お代はいらねぇよ。今回はお試しってことで、次からよろしくな!」


(商売人だなあ……)


 ライが感心していると、フェイズが近づいてきた。今、二人の距離は手を伸ばせば届くくらいだ。


「あとよ。お前さんの装備、どれも一級品に見えるんだが……もし良ければじっくり見せてくれないか!?」


 さっきまでとはフェイズの目の色が違う。自己紹介をし終えた時と似ていたが、今と前とではその力強さがまるで違う。これが職人の性という奴で、かつフェイズの本性なのか。


 ライの身に纏う外套、ブーツ、その他装飾品、それらはこの世界で見ないものなのだ。そんな財宝を見るようなフェイズに肩を掴まれ、ライは硬直する。


「え、えっと……」


 困るライを助けたのはアルマだった。


「はいはい。そこまでにしてください」


 男二人の間にアルマは割って入った。


「これから私たちはクエストに行くんです。そんな時間はありません」


「そうなのか……。それは残念だ」


 言葉の通り、フェイズは残念そうだった。まるでレアモンスターを逃してしまった時のようだ。


「俺の装備は次までお預けだな」


 二人はフェイズに軽く挨拶をすると店のドアに向かう。

 彼は先輩風を吹かせて、勢い良く送り出してくれた。

【キャラクター紹介】

◇フェイズ……武具店アトリエ・フェイズを営む中年男性。一応現役シルバー冒険者。鉱石や木材など素材について詳しい知識を持っている。


2021/12/24 微細な修正を行いました。

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