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Tale 4 冒険者登録(3)

 冒険者ギルドのマスタールーム。


「それではライさん。これから冒険者登録を行います」


「お願いします」


「ではまず、これがあなたの冒険者カードになります」


 レイネールは手元に用意していた一枚のカードをライの方にスライドする。 

 ライはそれを手に取り、表面を眺め始めた。


 カード全体は白に近い色で、そこには幾つかの空白の欄が設けられていた。


「一つずつご説明させていただきますね。まず、あなたの名前が印字されているかと思います」


「そうですね」


(これが俺の名前か……)


 やはりライの知らない言語だ。空返事をして、自分の名前であろう文字を眺める。


「これについては問題ないかと思います。では次に、所属というものについてですが……」


 レイネールは一息ついてから続ける。


「所属というのは、冒険者がどのギルド組織に属しているかを示すものになります。ライさんの場合はここグリュトシルデの冒険者になるということですので、そのように書かれているかと思います」


(うーん……。読めないんだよなあ)


 レイネールが毎回確認を促すが、ライはこの有様だ。


 所属の欄。確かにそこには文字が記載されていたが、ライにとっては知らない言語だ。これが『グリュトシルデ』という文字なのかという感想しか思い浮かばなかった。


 説明が停滞するといけないので、ライは識字について今は伏せておくことにして話を続ける。


「この所属っていうのは具体的にどんな意味が?」


「はい。所属というものは実は特に大きな意味はないのです。冒険者は基本的にどこでもクエストを受けることができます」


「基本的に?」


「例えば、ライはグリュトシルデの冒険者となりますが、他の街のクエストを受けることも可能ということです。地域的な理由によって所属で受注が制限されるクエストもありますが、それはごく稀なので今は考えなくて大丈夫です」


 アルマの補足で納得する。


「アルマさんの説明の通りです。ライさんがグリュトシルデ以外の発行元のクエストを完了した際、それが記録されます。つまり、どの組織の冒険者がどのくらいの実力を持っているか。それを把握するために所属というものはあるのです。どちらかといえば、私たち管理者側のために作られた項目ですね」


「なるほど」


 レイネールのこの説明から、冒険者はしっかりと枠組みの中に存在していて、ギルド側も彼らの管理を怠っていないことが何となく分かった。


「では最後にランクについてご説明します。ランクというのは冒険者の階級でして、低い方からノーマル、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナとなっています」


 イメージしやすい色分けで良かったと、ライはこっそり思った。


「ランクは冒険者の方々の実績に基づいて築かれるものです。失敗が続けば降格があり得ます。問題行動を起こした場合なんかは最悪の場合、冒険者の資格を剥奪という前例もありました」


「い、意外と厳しいんですね……」


「『冒険者は何をやっても自由』という風潮も一部ではあるようですが、一種の仕事である以上、そのような軽い気持ちでは望んで欲しくはありません。そんな組織の総意から厳しい規則を設けました」


「了解です」


「あと、ほとんどのギルドはクエストの受注条件をランクで制限しています。ですので失敗が続くというのは現実的には可能性の低い話です」


 つまり、ノーマルランクの冒険者がブロンズやシルバーランク以上に制限を掛けたクエストを受けることはできないのだ。


「見栄を張ったり大金を手に入れたりするためにわざわざ高難度の高い依頼を受ける人って、いそうですもんね」


「まさに仰る通りです。失敗すれば依頼者や受注した冒険者だけでなく、その地域の方々にも迷惑が掛かることも大いにあり得ます。……ライさんは大丈夫そうですね」


 レイネールは嬉しそうに微笑んだ。


「ぼちぼち頑張りたいと思います」


「期待しています。それで、ライさんのランクですが……。実は今、飛び級でゴールド辺りから登録しようかと考えておりまして」


「いいんですか? そんなに善くしてもらって……」


 嬉しさが滲み出ているかと思いきや、ライにとっては想定外だったようで本当に戸惑っていた。


「はい。森の主を完封できるだけの実力、うちでは即戦力です。ぜひお願いします」


「私もとっても良いと思います! ランクが高い方が活動の範囲も広がると思いますし」


 アルマは自分のことのように喜んでいた。


 彼女の助言を聞いて、ランクが高ければ仲間捜しも有利に進むかもしれないと思ったライは、


「……分かりました! それでお願いします」


 レイネールの提案を快諾した。


「承りました。ちなみに、ライさんの年齢を伺ってもよろしいでしょうか?」


「年齢?」


「はい。登録には必要なことでして」


 ライというアバターには年齢はない。ここは実際の自分の年齢を言うしかなかった。


「確か……十六だったはず」


 ライは自分の誕生日を思い出しながら、年齢を言った。


「了解致しました。では……」


 レイネールはポケットからハンコのようなものを取り出した。


 それをライの冒険者カードに押し当て数秒して持ち上げると、カードのランクの欄に金の印がついたのが分かった。そこから金色がカード全体に浸透していく。


「うわぁ……」


 クロス・ファンタジー内で似たような光景は見たことがあるものの、現実ではありえない光景に、ここが異世界であることを再認識させられた。


 そんな感動がライの口から漏れた。


「びっくりしましたか? ライはストラティアに来たばかりなので説明しておきますね。こういう物は魔道具と言って、魔力を媒介にして効果を発揮する特殊な道具です」


「魔力か……」


 ライはうっすらと気付いていた。

 体内で何かが循環する慣れない感覚。それこそが魔力であると、今はっきりと分かった。


「これでライさんの冒険者登録は終了です」


 ライはレイネールから完成した自分の冒険者カードを受け取る。

 ピカピカに光るそのカードを見て、落ち着かなかった。何だか成金みたいで恥ずかしかったからだ。


「ありがとうございます。それでクエストっていうのはどうすれば受けられるんですか?」


「気合十分ですね。クエストはこの建物の二階のスペースに張り出されています。昨日、掲示板のようなボードをご覧になりませんでしたか?」


 ライは昨日の光景を思い出す。正直昨日はミノタウロスの肉に夢中だったので、周囲は確認していなかった。しかし記憶をなんとか辿ると、そんな掲示板があったような気がした。


「あったような、なかったような……」


「ふふっ。自分に正直なのは良いことです。その掲示板に貼ってあるものをカウンターまで持っていけば、クエストを受けることができます。クエストを終えた後は再びそこで報告すれば、あとはギルド職員が対応します」


「そうなのか。じゃあ早速クエストを受けようかな」


 そう言ってライが立ち上がるが、それをレイネールは止めた。


「少しお待ちを。私の記憶ですと、今下に貼ってあるクエストでライさんの腕に見合うものはなかったように思います」


「え……そうなの?」


「はい。それでお伺いしたいのですが、これからお二人でクエストに行かれるのですか?」


「私は、ライが良ければそのつもりですが……」


「俺もだ」


 二人の意見が一致する。


「でしたら、そうですね……。こちらのクエストなんていかがでしょうか?」


 いつの間にか立ち上がっていたレイネールは、執務机の上の書類の山を漁っていた。そこから一枚の紙を見つけると、それを二人に見せる。


「これは?」


「こちらは、この後張り出そうと思っていたクエストです。よろしければ今ここでお受けしていただいても構いません」


 ライはクエストの内容に目を通す。


「……読めない」


 隠していた事実がポロリと出てしまった。

 やっぱり読めなかった。一語も分からなかった。


「えっ……? 読めないって、読み書きができないってことですか!?」


 アルマは驚いた。


「なるほど。元居た世界と異なる言語という訳ですか。読み書きを習得する必要がありそうですね」


「そうですね……はは」


 ライは少し気が重かったが、英語を勉強するようなものだと自分を鼓舞した。

 レイネールが先生になってくれるのなら、すぐに習得できそうな気がした。


「まあそのことは後日にしましょう。その依頼書の内容はレッドウルフというモンスターの群れの殲滅になります。ブロンズランクのクエストですね」


 字が読めないライの代わりに、レイネールが直々に内容を教えてくれた。


「ブロンズ? まずはこれで実力を示して見ろってことですか?」


 ライはゴールドランクといえども、冒険者活動経験がないのだ。まずは下位ランクのクエストをこなして実績と信頼を築き上げてほしいという、ギルドマスターからの計らいなのだろうか。


「いえ。そういうことではなく……」


 ライの思ったことも理由の一つではありそうだが、別に理由が存在しているようだった。


「私、ブロンズランクなんです。ごめんなさい」


 申し訳なさそうにアルマが言った。


「そっか!」


 ライは少なからず浮かれていた。


「別にアルマが謝ることじゃないよ。一緒に頑張ろうぜ!」


「アルマさん、ライさんに強さの秘訣を聞いてみる……というのは如何でしょう? これだけの実力を持つ方と活動ができるなんて、中々ありませんよ」


「そうですね……はい! 私、やる気が出てきました!」


 レイネールのフォローもあって、アルマは機嫌を取り戻した。


「それじゃレイネールさん、このクエスト、受けさせてもらうよ」


「はい」


 レイネールの短い返事の後、マスタールームの扉は閉められた。


 ライがアルマの手を引き、階段を下り切った後で、


「お気を付けて」


とレイネールはぽつりと言い放った。

2021/12/24 これまでのTale 4 冒険者登録(3)と(4)を統合し、修正を行いました。

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