Tale 4 冒険者登録(2)
先に廊下の静かな雰囲気を破ったのは、ライの右手方向のドア。
中の良い二人組の宿泊室だ。彼女たちは冒険者としての活動姿に成り変わっていた。
リスティーは締め付けのない、動きやすい服装。その傷み具合からして、今まで前線で相棒を守って来たのだろう。
ユエラの服装は白いローブ姿。冒険者としての活動歴はそれなりにあるだろうが、垢抜けなさがそこにはあった。
「おっ。着替え待ちか?」
リスティーはなぜこうもアルマの行動も思考も分かってしまうのだろう。ライはそんなことを思いながら素っ気なく答える。
「そうだけど」
「そうか……。なあライ、あいつのこと、よろしくな。ああいう性格だからさ、面倒ごとに巻き込まれやすいんだよ。うちらが一緒にいてやれればいいんだけど……」
リスティーの言葉は段々と覇気がなくなり、やがて途切れてしまう。先程までの彼女の威勢は一体どこに行ってしまったのやら。
(あいつというのは、アルマのことだろうか)
「任せてくれ。俺の命に代えても守ってみせるさ」
少し啖呵を切って、格好つけて言ってみる。大げさに聞こえたかもしれないライの言葉だったが、二人ともその言葉にとても安心した。
「ありがとう」
「何かあったら言って。協力、できればするから」
そして話に区切りがついたところで左側の扉が開いた。
準備を整えたアルマが姿を現した。
「お待たせしました。三人で何か話していたんですか?」
「いや、何も話してないよ。さ、メシ食いに行こうぜ!」
アルマは不思議そうな顔をして、そうはぐらかしたリスティーの顔を覗く。
しかし三人は階段に向かって歩き出すので、
「あっ……待ってください!」
アルマも置いて行かれないようにその後をついて行った。
四人がぞろぞろと階段を下りていくと、食事スペースには既に二人いた。おそらく他の宿泊客だろう。
スヤは彼らに対して食事を運んでいた。その通り道でもあったので、スヤはすぐに四人に気付いた。
「おはよー! ご飯食べてく?」
「おう! 頼む」
四人はテーブルを囲むように座り、すぐに朝食が出された。
「サンキュー」
リスティーが礼を言う。
スヤは「ごゆっくりー」とだけ言って、カウンターの方に戻った。そして椅子に座ると、帳簿とは別の本をパラパラと捲り始めた。
彼女はしばしの休憩に入ったようだ。
「さあ、食おうぜ!」
リスティーに促され、ライは目線を料理の方に移す。バスケットに隙間なく盛られていたであろうパンは、既にいくつか無くなっていた。
「もぐもぐ……」
「ってユエ……もう食ってんのかよ」
ライの正面に座っているユエラはすでに口にパンを頬張っていた。
(いつの間に……。そう言えば、お腹空いたって言ってたな)
周りなど気にせずに口を動かすユエラがマイペースなお姫様に見えて、可愛いと思ってしまったライは不覚にも口が緩んで開いていた。
「どうしましたか、ライ? 口が開いてますよ」
アルマにみっともない姿を指摘された。
「何でもないよ! いただきます」
ライは誤魔化すように食事に手を伸ばした。
そうして食事を始めて少したった頃。
「お前たち、今日はどうする予定なんだ?」
リスティーが話の種を撒いてきた。
「今日はまず、ライの冒険者登録に行きます」
「おー、そっか。じゃあそのままクエストに行くのか?」
「まあその予定です」
「気をつけろよ。最近、怪しい術を使うやつがこの近辺をうろついてるらしいぜ」
「怪しい術ですか?」
「ああ。詳しくは分からないが、昨日小耳に挟んだから一応教えておこうと思ってな」
「そうですか。まあ大丈夫です。こちらにはライがいるので」
ライはリスティーとユエラに目を向けられる。言葉は発さなかったが、彼には彼女たちの信頼の気持ちが伝わった。小さく、しかし力強く頷いた。
「じゃあうちらはそろそろ行くわ。ごちそうさん!」
リスティーが席を立つと、ユエラもその後を追いかける。その後、彼女たちの今日の予定を決める会話が聞こえてきたが、二階に上がってしまうと話し声も聞こえなくなってしまった。
遅れて、アルマとライも朝食を食べ終えた。
「私たちもそろそろ出発しましょうか」
「行くか!」
二人は部屋に戻って必要な荷物を取ると、スヤスヤ亭を後にした。




