Tale 4 冒険者登録(1)
窓から朝日が差す。
昨夜は入浴後、床に就くなりすぐに寝てしまった。そんなことを思い出しながら、ライはベッドから起き上がった。
だが、自分の体が上手く動かないことに気付く。まるで何かに締め付けられているように。
(あれ……体が重い。疲れが抜けてないのかな……)
その自問に対する自答は否だった。
ライが首を捻ると、答えは明らかだった。
「なっ!? ア、アルマ!?」
ライの右腕。そこにアルマは抱きついていた。
それだけならば良かったのだが、アルマの寝姿は完全にはだけていた。露出した白い肌、谷間が覗ける胸元。
ライの理性は乱れていく。
「おい、起きろって! あ、いや……ここはばれないように腕をほどいて部屋を出た方がいいのか……?」
誤解を生まないよう、自分は何も見なかったことにした方がいいのではと、後でボソッと言った。
しかしもう遅い。「起きろ」という一声がアルマの耳に届いてしまった。
「おはようございます、ライさん。あ、さん付けはやめようって話でしたね……」
まだ寝ぼけているのか、言葉の輪郭がはっきりとしていない。
ライは「おはよう」と返すことができなかった。この状況をどうするべきか全く分からなかったからだ。
そうして答えを導けないまま制限時間はゼロになった。
「ライ……って、んん!?」
アルマは自分の目を擦ろうとしたのだが、自分の手の位置に違和感を覚えた。両手がライの腕に巻き付いているのだから。
アルマもようやくこのおかしな状況に気が付いた。同時に完全に目が覚める。
自分が男性に抱きついている。これは一体どういうことなのだろうか。アルマにも分からなかった。
そしてそれ以上に問題なのが、自分の服装だ。顔を赤くしたアルマは、腕をほどいて慌ててパジャマのボタンを閉め始めた。
「こ、これは一体どういうことですか! まさか、私が寝ている間に変なことしてませんよね!? 余計な気遣いは無用ということに了解はしましたけど、こういったことはその……もっと互いをよく知ってからと言いますか……」
「聞きたいのはこっちだ! なんでアルマが抱きついてるんだよ!?」
「し、知りませんよ、そんなこと!」
歯切れの悪いアルマに、動揺しているライ。
二人があれこれと言い合っていると、隣の部屋からリスティーとユエラがやって来た。
小規模な建物だ。これほど騒ぎ立てれば、その声は昨晩の如く全部屋に届いたことだろう。
「朝からうるさいぞー」
「私、もうちょっと寝たい……」
二人はまだ昨日の寝間着姿のままだった。
ユエラは眠そうだ。よく見ると、目が開いていなかった。リスティーに引っ張って連れて来られたのだろうか。
一方でリスティーはしゃきっとしている。少しワクワクしているように見えたが、取っ組み合いになりそうな二人の姿を見ると、全てを察したようだ。
「なーんだ。そういうことか」
リスティーは肩を落としがっかりした後、一人で納得し始める。
しかしその姿を見ても、ライには当然何も分からない。顔をしかめた。
「大丈夫だ、ライ。お前は何もしてない。悪いのはアルマだ」
リスティーははっきりとそう言った。するとアルマは全く納得いかないようで、リスティーに突っかかる。
「どういうことですか!? 全く分かりません!」
「アルマは自分の癖を把握しておいた方がいい」
「全くだ」
二人に言われ、アルマは軽くへこむ。
そしてリスティーは事の真相を一言で告げた。
「アルマの寝相が物凄く悪い。それだけのことだ」
言われてみれば、それで説明がつく。
目覚めたらアルマが抱きついていたのだ。両者思い当たる節はないのだから、何らかの無意識的な行動が発生していたと考えるのが自然だ。
もちろん他人による工作の可能性もあったが、リスティーもユエラもそんなことをするはずがない。
幾らからかうのが好きでも、昨日の延長戦のような事態をわざわざ仕組みはしないだろう。
「私の寝相が悪いって本当なんですか!?」
「自覚なかったのかよ。ま、アルマは誰かと寝ることなんて一度もなかったからな。分かんなくてもしょうがないか」
「……次からは気を付けます。ライ、ごめんなさい。私の早とちりでした」
「まあいいさ。何もなかったんだから」
アルマは小さくなって落ち込んでいた。
昨日聞いた、正義感が強い反面、気が弱くもあるようだ。
「私、お腹すいた。ご飯食べに行こ」
「おう、じゃあ支度しに戻るか」
何事もなかったかのように、リスティーとユエラは一旦客室へと戻って行った。
これ以上の追撃はしないようにと、ライは彼女たちなりの配慮だと感じた。
アルマはそれからしばらくへこんでいた。自分の寝相の悪さに対してか、ライへの無礼に対してか。それ以外にも要因があるのか。いずれにせよ、良好とは言えない一日のスタートを切ってしまった。
ライはアルマの落ち込みように困っていた。今日も彼女と行動するのだから、そんな調子でいられると気を遣わなくてはいけなさそうだったからだ。
そんな気分を一新するためだ。ライは手を一回、パンと叩いた。
「この話はここまでだ。俺もこのことは忘れるから、お前も忘れろ。いいな?」
「そうですね。はい……。分かりました!」
ライが若干圧をかけたからか、アルマはすぐに従った。
「じゃあ、着替えて朝ごはん食べに行きましょうか!」
「そうだな」
こうして二人は着替えをすることになるが、今一つの部屋に男女でいるのだ。ライはある問題に気付いた。
「……俺、先出てるから終わったら呼んでくれ」
女性の着替えを見るわけにはいかない。その気持ちから、ライはアルマに順番を譲った。
そして先に部屋を出ようとするが、アルマに引きとめられた。
「別に大丈夫です」
(えぇ!? どうしてそんな流れになるんだ!?)
自分のはだけた姿を見られたからネジが外れたのか。それとも見られたことへの仕返しとして、冤罪を作り上げようとしているのか。ライはアルマの考えが読めなかった。
「背中を向けて着替えれば問題ありません」
(ああ。そういうことか)
変なことを考えていた自分が恥ずかしい。そう思いながら、ライは安心した。
「分かった。じゃあ、場所を交換しよう」
「えっ?」
ライが寝ていた側は窓側だ。もし自分が寝ていた側で着替えを始めると、窓に反射したアルマの姿が映ってしまうかもしれない。それだけは避けなくてはならなかった。というか、それくらいの配慮はするべきだと考えての発言だ。
「いいから」
「は、はい」
こうして二人は場所を交換し、背を向けて着替えを始めた。
(でも、たとえ見えてなくても、変に意識しちゃうな)
背後で聞こえる服の擦れる音に耐えながら、ライは自分の感情を何とか抑え、アルマよりも先に準備を終えた。
「じゃあ俺、準備終わったから先出てるぞ」
「はい」
場所を交換していたため、ライはアルマを視界に入れることなくすぐに部屋を出ることができた。
部屋を出てすぐに扉を閉めた。もちろんアルマが目に映らないよう、扉を盾にするようにだ。そして廊下の壁に寄りかかって、アルマを待つことにした。
【補足】
Chapter 1 最初で最後のお色気シーンでした。それ目的で読み進めるのはオススメできません(ここまで読んで貰ってるので、大丈夫だとは思いますが……)




