Tale 28. 闇オークション(4)
活動報告にて、12月の投稿カレンダーを掲載しました。
よろしければ、ご覧下さい。
「「セリカ……!?」」
顔見知りの二人は、ここで彼女を見ることになろうとは思いもしなかったはずだ。氷漬けにされたような仲間が競売に賭けられるのを、誰が予想できようか。
そんな二人を置き去りに、バロンは話を進める。
彼にとって、彼女はお金になる商売道具でしかない。
「とっても美しいでしょ? こちらの品を手に入れるのは大変苦労しました」
余興のつもりか、思い出話を始めたバロン。
「帝国の領内、その廃れた神殿の祭壇に祀られていました。汚れが目立っていましたので、私は精魂込めて磨き上げました。そしたら次の日からは絶好調の連続! お金が流れるように私のもとへと集まって来たのです!」
貴族たちは張り詰めた空気を作り出す。もしもバロンの経験談が真実であるならば、その水晶体一つで周りの貴族との財力の差が生まれることになる。将来を見越せば、全額を叩いてでも買う価値があるかもしれない。
「私はこの水晶に、幸運の女神像という名前を付けました。大変手放すのは惜しいですが……この場を盛り上げるためです。ぜひ出品致しましょう!」
だが、そんな夢のような話は万に一つ存在しない。
「何が幸運の女神像だ。あれはセリカだ!」
ライは状況が全く読めず、混乱していた。ただ一点、生気を感じさせずに水晶内で眠っているセリカを見つめて。
「あの、セリカさんって言うのは……」
「俺たちの仲間の一人です。なぜあんなことになっているのかは分かりませんが……」
流石にグランも面食らっている。しかし彼は自身の矜持を胸に、気持ちを切り替える。
幸運の女神像の落札開始価格は金貨五十枚。この提示に、半数以上の貴族は早くも音を上げた。
それを他所に、生き残りは争いを繰り広げる。落札が決まってしまえば、金額に対する支払い能力の有無に関係なく、事は進んでしまう。価格の吊り上げに、誰もが慎重になっていた。
だが、この少年は違った。
「俺たちも参加するぞ! えっと……」
そう言って挙手しかけるライの手を、グランは握り押さえた。
「落ち着け。大体、金貨一枚ですら俺たちには払えない」
「セリカがどうなってもいいのか!」
「そんなことは言ってない。だがここでは、オークションのルールが全てだ。どの道、俺たちは成り行きを見守るしかない」
「だったら、今すぐにあいつを捕まえるんだ! 正当性が失われれば、セリカだって……」
「落ち着けっ!」
憤怒しているライ。それ以上にグランは、威圧するような大声で彼を咎める。
「今は任務中だ。悪いがセリカを利用する」
「セリカを……利用だと? どう見ても、セリカの救出が最優先だろ!」
水晶に閉じ込められているセリカを見れば、命が心配になるのは無理ない。彼女が呼吸可能な余裕ある空間は、その内部にないのだから。
「恐らくだが、あれは封印の水晶と言う魔道具だ。生命活動を一時停止させた状態で、その肉体も精神も保たせる物だ」
「つまり、セリカさんは死んではいないということですか?」
グランは笑顔で頷いた。
「それどころか、ピンピンしているでしょうね。意識や思考は止まっていますが、見たところ外傷はないですからね」
「……信じていいんだな?」
血の上った頭を冷やしながら、ライは今も女神像を注視して聞く。
「ああ。だが、俺ではなくセリカを信じろ」
「セリカを?」
「これからセリカには囮になってもらう。あいつのことが心配なら、あいつの無事を信じろ。俺もセリカを信じる」
「……分かった」
そしてライを宥めた後。
グランは、視界の隅に映る一人の男を鋭い視線で追った。
「来たか……」
彼もまた貴族だ。しかし服装こそ似つかわしいが、珍しいほどに痩せ細っていた。目の下に大きな隈を作り、体長が悪そうに見えるのは誰が見ても共通だ。
「その女神像、金貨千枚で買いましょう」
男の一言は、他者に対しての事実上の敗北宣言だ。
敗者と相成った貴族たちは、ステージにゆっくりと近づく彼に響動いている。
どうやら有名人のようだ。
「千枚です! 千枚、これを超える者はいるかっ!?」
もちろん、その煽りに答える貴族はいなかった。
そのままの流れで、幸運の女神像ことセリカは細い男の手に収まることになった。
「あいつ……金貨千枚だと!?」
「オラリアだ」
「何?」
「オラリア伯爵、今回の調査対象が奴だ」
公爵、侯爵に次ぐ権力を持つのが伯爵。この二つの爵位ならば、他の貴族たちも恐れ多くなるだろう。
しかしオラリアは伯爵。貴族の誰もに注目されているのは、その地位よりかはその風貌が奇妙なほどに目立っているからに他ならない。
その後、バロンは満足気に短い挨拶を述べ、裏方へと姿を消してしまった。オラリアは別の入り口から裏の方へと回った。女神像の譲渡のためだ。
場の貴族たちも順次解散した。最後にホールに残されたのは、それまで座りっぱなしだったライたち三人だ。
ほとぼりが冷めたからか、疲れたからか、感覚が麻痺していたからか、特に言葉を交わすこともなく家々の照明で明るい街路まで出た。
「今日は遅くまでありがとう」
「色々衝撃的だったよ。本当に……」
三人の中で誰よりも興奮していたライには、疲労の色が窺えた。
「俺は一旦ここまでの事をまとめて、オラリア周辺のことを調べておく。時間がかかるだろうから、明日はゆっくりしていてくれ」
「分かりました」
二人は宿へ、一人は自宅へと。その時、グランは
「アルマさん」
と彼女を呼び止めた。
「何ですか?」
アルマがそう言う間にも、ライは一直線に歩き、二人との距離を離す。
「明るく振る舞ってるように見えますけど、あいつ、結構ダメージ受けてるみたいです。変な事しでかさないように、監視しといてください」
「監視ですか……。はい、了解しました!」
アルマは目の前の騎士に背を向け、遠くの弓使いへと走って行く。
その光景を眺めてグランは言う。
「ライ、良い仲間を持ったな」
彼は二人の姿が見えなくなるまで、そこに立ち尽くした。




