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Tale 24. 王都への旅立ち(4)

活動報告(11月の投稿カレンダー)を更新しました。

お時間ある時にお読みください。

 アルマの弁当は手作り感溢れる物だった。酸味のあるドレッシングがかかっているサラダ、甘辛い味付けの肉料理など、栄養バランスが考えられた弁当だ。スヤスヤ亭の厨房を借りて、朝早くから用意していたらしい。


 一方で、ルシアの弁当の中身は昨日見た物ばかりだった。裏メニューを頼むほどの(つう)である彼女の頼みならば、弁当の注文を聞き入れることも難しくないのだろう。

 あの銀貨一枚と等価のスープは流石になかったが、それでもなお、金のかかっていそうな内容だった。


 自然に囲まれながら昼食を楽しむ中、ルシアは突然


「姉さん……」


と呟いた。もちろん二人には聞こえていた。


「姉さん? ルシア、お姉さんがいるのか?」


「……ああ。こうして昔、家族で同じようにピクニックをしたことを思い出してしまった」


 ルシアは悲し気にそう言った。


「お姉さんに何かあったんですか?」


「何かあったかと言えば、そうなのだろう。実際のところは私も分からないのだ」


「分からないってどういうことだ?」


「姉はある日、突然姿を消した。行き先も分からず、全くの形跡もなかった。私は自由になりたいから冒険者になったと昨日は言ったが、本当は姉を捜すために今もこうして旅をしている」


「誘拐された……とか?」


 アルマは食べる手を止めて聞く。


「さあな。何にしたって情報が全くない。男一人生まれなかった私たちの代は、本来姉が継ぐことになっていたが、その姉が失踪したことにより両親の束縛は必然的に私へと向かうようになった」


「だから家を出たくなったってことなのか……」


「まあそういうことだ。そして同時に姉探しも始めたという訳だ。もし姉が行方不明になっていなかったら、私は縛られることなんてなかっただろうから、冒険者になっていたかどうかも怪しいな」


「お姉さん、見つかるといいな」


「お前こそ、頑張れよ。なんてったって、ライは私の四倍も人捜しに励まなきゃいけないんだからな! はっはっは!」


 最後には、ルシアは暗い雰囲気を笑って吹き飛ばした。彼女にもまた捜し人がいることを知り、ライは一層親しみを覚えるようになった。




 弁当を完食した三人は、次こそはと出発した。

 ところが歩き始めて数分、アルマからの提案があった。


「あの、ちょっといいですか?」


「どうした、アルマ?」


 ライとルシアは立ち止まって、アルマを見る。


「もう少し進むと、私の故郷があるんですけど……寄ってもいいですか?」


 ライとしては大歓迎だった。今、アルマがしようとしている行動は、以前の、魔王軍と対峙する前の彼女では遂げることのできない行動だからだ。


 そんな勇気ある成長した彼女の意思を、誰が止めようか。


「もちろん。ルシアもいいよな?」


「ああ、時間はまだたっぷりある。遠慮するな」


「ありがとうございます」


 同意を得てさらに進むことしばらく。寂れた看板が見えて来る。

 文字は完全に擦れていて判読不可能。辛うじて生きているのは矢印だけだ。


 一方の矢印はさらに草原の先へと、もう一方は傾斜のある林道へと道を示している。

 アルマが選んだのは当然後者の道だ。


「こっちに行けば、村があります」


 ライは焼き討ちという魔王軍の襲撃の影響がどれほどの物かと覚悟していたが、年月が経っているからだろう、周辺の自然環境は道中で見てきた物と大差なかった。


 だが、村の跡地に関しては話が違った。

 短い草花こそ生えていたものの、全焼の家屋跡は今もそこに放置されていた。


 アルマにとっては、五年以上の時を経た帰省だった。ゆっくりと草地を踏んで行く。


「これは……」


「酷いな」


 ライもルシアも言葉を失いかけていた。二人でさえ、建物の状態を見れば、当時の状況が浮かんでくる。今日が曇天や雨天であれば、気持ちは飲み込まれてしまっただろう。


 そんな二人を他所(よそ)に、アルマはどんどん村の奥へと進んでいく。


「ここって……」


「はい。私の家です」


 三人の目に映るのは、例外なく大部分が炭と化した原形を留めていない家だった。

 木造の建築ゆえこの有様なのは、村の文明レベルを物語っている。文明がさらに発展していれば、形だけでも残っていたかもしれないのが悔やまれる。


「そんな顔しないで下さい。私がここに帰って来たのは、『ごめんね』を言うためじゃなくて、『行ってきます』を言うためなんですから」


 アルマは三人の中で誰よりも笑みを見せているが、寂寥感をから元気で上塗りしているのは明らかだ。

 彼女に気を遣わせては、心身を余計に疲弊させてしまうだけだ。ライもルシアも普段通りに戻った。


 その後村を歩き回った一行は、最後に一角の墓標が立つ所に向かった。

 (しるべ)はたった一つだけだったが、頭上まで伸びるほどに大きい石碑だった。


 そこには、


『村人たち、ここに眠る』


とだけ短く刻まれていた。当時の戦火の中、原形を留めていた遺体は数少ない。彼らの骨を地中に収めてあるが、果たしてアルマの両親、そして弟が一緒に眠っているかは不明だ。


 しかし、魂はここに安らかに眠っている。そう思っているアルマは、手を合わせ、祈りを捧げ始めた。


「私も祈ろう」


 ルシアも地に膝をつき、目を瞑る。

 ライも遅くして同じようにするが、彼が目を瞑った時、涙が一粒頬を伝った。何度見返しても悲惨であることへの残酷さと、村人たちがこうして今は供養され続けていることへの安心感、その両方が混ざりに混ざった結果の涙だ。

 本当に泣きたいのはアルマのはずなのに、ライは感情を抑えることはできなかった。


「二人とも、ありがとうございます。村の皆も喜んでいますよ」


 アルマは礼を言った後で、もう一度墓標に向き直る。


「行ってきます」


 アルマはその思いを、全て墓標に、そこに眠る村人たちへと伝えたのだろう。一切の未練の無い、晴れやかな顔がライの瞳に映った。



 分岐路のある看板まで戻ると、一行は本来の道を再び進む。

 そして空の色が変わり始めた頃。


 またも分岐に差し掛かっていた。そこが丁度、ルシアと別れる地点でもあった。


「こっちに行けばエルフェオースだ。お前たちはそっちの道だ」


「色々とありがとう、ルシア」


「私も、お前たちとの一日は楽しかった」


「また、どこかで会えたらいいですね」


 一日という時間は、アルマにとって短かったのだろうか、三人の中で別れを一番惜しんでいるのは彼女だ。


「心配しなくても、冒険者でいる以上、どこかでは巡り合える。それに、私たちは同じ街に籍を置く者だ。きっかけは少なくないだろう」


 お互いに、凛々しい顔を見せる一同。


「エルフェオースは魚介料理が絶品だ。来た時には御馳走しよう」


「楽しみにしてるよ」


 ルシアのにこやかな表情に、二人もつられてしまう。


「……では、私はそろそろ行こう。日が沈む前には、到着しておきたいしな」


「気を付けて」


 ライは手を差し出す。ルシアはその手を取り、強く握った。

 アルマとも同じことを繰り返した。


「そちらも気を付けるのだぞ」


「はい!」


 二人はルシアの背を見送る。出会った昨日は側だけ見ればまさに変人だったが、今は彼女の身を包む舞台衣装が、これ以上ないほど夕焼けに映えていた。



 旅路を共にする仲間が一人減ってしまい、どことなく空虚感が溢れてくる。

 それでもなお、日没を前にライとアルマは先を行く。


 しかし馬車を直す手伝いをし、以降ほぼ歩きっぱなしの二人はそろそろ疲労に(こた)えられるかどうか、といった具合だった。


「今日はここで野宿するしかないな」


「そうですね。私も疲れました」


 すっかり日も暮れて星が広がる夜空の下、二人はだだっ広い草地の真ん中に、テントを張って野営の支度をする。


 アルマが火を焚き終える。慣れない手つきだったが、そもそもキャンプの経験もないライよりはマシだ。


「何か採って来るよ」


「お願いします」


 ライはその場にいても役に立たないと思い、夕食の食材を探しに森へと入る。


 奥深くへは入らないよう、自分がいた草原が木々の間から確認できる範囲で行動する。

 しかし、放置された森に野菜が生えているはずがなく、見つかったのは数色のキノコだ。他に食材になりえる物と言えば、動物の肉ぐらいだが、死んで間もない獣を片手に帰っても、血生臭さにアルマは拒絶してしまうだろう。


 結局、ライはそのまま森を出た。収穫としては寂しすぎるが、何もないよりはマシだ。


「何かありましたか?」


「キノコしか手に入らなかったよ」


 ライはバラバラとキノコを並べる。


「でしょうね」


 アルマは予想通りと言った様子で、キノコを選別していく。


「これは食べれる。これも大丈夫。これは……麻痺毒があって危険な奴ですね。これは……分かりませんね、やめときましょう」


「どれが毒キノコか、分かるんだな」


「まあ本はよく読んでいたので。もちろん、今みたいに見たことないキノコもありますけど」


「ルシアなら、全部判別できるのかな?」


「きっとそうでしょう。あの人、色んな方面の知識を持ってそうですからね」


 先輩冒険者の偉大さに改めて気付かされながらも、アルマは夕食作りを進めていく。

 今回は長旅だ。念には念を入れて、アルマもリュックを背負っていた。その中から、食材を出す。


「それは?」


「モンスターの干し肉です。非常食にもなるので一応持って来ました」


 今晩のメニューは、簡素なキノコのスープと干し肉だ。何とも寂しさが漂う内容だが、腹に入るだけありがたい。

 二人は会話をしながら肉を噛み締めているが、それもすぐに終わってしまい、やがて不服を申し立てるかの如く腹が鳴った。


 だからと言って、他に食べる物はもうない。


「もう少し気の利いたものを用意しておけば良かったですね」


「いや、俺もちゃんと準備しておけば良かったよ」


「これからどうしますか?」


 星空を眺めるのも選択肢の一つだが、腹の虫が介入しては集中できないだろう。


「もう寝ようぜ。明日、街に着いたら腹ごしらえだ!」


「そうしましょう」


 話が決まると、焚火は消火された。そして二人は煙の収まらないうちにテントに入った。


「……そうだ」


 寝る寸前、ライはあることを思い出して起き上がった。

 自分のポーチから、今朝買った魔除けの香水を取り出す。


「折角だから、使ってみるか」


 テントからちょいと顔を出し、香水を噴射する。


「匂いは特にないんだな。人間には分からないだけか……?」


 とにかく、今夜の安全は確保できたと安堵して、ライはもう一度床に就いた。

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