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Tale 3 冒険者ギルドへ(3)

 酒場内は街の様子とは打って変わって真逆の光景だった。


 お洒落すぎないシャンデリアが視界の上の方で主張していた。


 そしてその光を浴びながら、冒険者であろう人々が酒の入ったグラスを口に運んでいる。同時に卓上に並べられる肉料理や魚料理に手を伸ばし、美味しそうにそれを(むさぼ)っていた。


 ライの鼻に食欲をそそる美味な匂いが侵入してくると同時に自分の腹が鳴る。

 その音は冒険者たちの喧騒に掻き消されたので、誰にも聞かれることはなかったが、音を発した本人は自分の空腹に気付いていた。


 腹の方に目線をやると、アルマはライのその様子で彼が何を欲しているのか分かったらしい。

 彼女はライの手を取った。


「食事はもう少し我慢してください。後で私が御馳走するので、今はこっちに来てください」


 入り口付近で飲み食いしていた数人の冒険者たちが二人を見る。建物内に入ったきり、しばらく立ち止まっていたから目に付いたのだろう。

 同時に、見かけないライに珍しい物を見るような目を向けていた。


 しかし彼らに構うことなくアルマに手を引かれ、壁沿いに備え付けられた木製階段を上っていく。その途中、目の合った冒険者たちにペコペコと会釈しながら。


 意外と階段の耐久性はあるようで、段を踏むたびに軋むということはなかった。


 二階に辿り着くと、アルマは掴んでいたライの手を離した。


「報告しなければいけないことが色々とあるので、そこらへんの椅子に座って待っていてください」


 アルマはそう言い残すと、受付へと歩いて行った。ギルド職員の女性がアルマと話し始めた。


 ライは指示通り、幾つもある椅子の一つに腰掛けた。

 階下で騒ぐ冒険者たちの声が耳に届いた。


 ライは待たされている間、ぼーっとしていた。座った瞬間に疲れが込み上げて、外部の情報を遮断したかったのだ。


 しばらくすると、アルマが戻って来た。


「お待たせしました。……ライさん?」


「ん? ああ、ごめん」


 思考を停止させていたライは唐突に現実に引き戻された。


「これからうちのギルドマスターに会ってもらいますが、大丈夫ですか?」


「ギルドマスターか……」


 ライは妙に緊張してしまう。


「別に気構えなくていいですよ。うちのギルマスはちょっと変わった人ですから」


「変わった人?」


「はい。ただ、面会の準備に少し時間がかかるようで……。そうだ! ちょっと待っててください」


 アルマは上ってきた階段を小走りで下りていった。そして一分もしないうちに戻ってきた。


 彼女の両手には、皿が(うかが)えた。そこから漂う肉の香ばしい匂いがライの嗅覚を絶え間なく刺激する。


「簡単に食べられるものを持ってきました。ライさん、お腹がすいていましたよね?」


「はは……実はね。ありがたく頂くよ」


 ライは皿に載った肉の串焼きを手に取ると、それを迷いなく口に運んだ。


 一口で串に刺さっている肉の半量を口に入れる。


 何回も何回も肉を嚙み締めて飲み込む。


「美味い……! 美味いよ!」


 疲れが一気に吹っ飛んだ。


 すぐに残りの肉も口に入れると、肉の旨味が口内にたっぷりと広がる。


 ライが喜ぶ顔を見て、アルマも嬉しそうだった。


「お口に合ったようで良かったです。この肉はミノタウロスの肉で、結構良質なんです」


「へぇ……」


(ミノタウロス……。要するに牛肉ってことか。あれ……でもミノタウロスって牛の姿をした怪物だよな? まあ、美味しいから何でもいいか)


 脳内に浮かぶ家畜としての牛の姿とミノタウロスの姿。湾曲した二本角を持ち、二足歩行する筋肉質な格好だろうか。


 果たしてストラティアのミノタウロスの姿が想像している通りかは分からないが、腹が減っては何とやら。ライは考えるのをやめて肉を噛む。


「もっと貰ってもいいか?」


「はい! どうぞ!」


 ライにとっては出所不明の逸品料理だったが、食べるのを止められない。


 その後もライは必死に串を口に運び、ものの数分で皿に盛られた肉を全て平らげた。


 アルマは彼の食べっぷりを横で見ていただけだが、勢い減ることなく肉を食べ切ったので感心していた。


「はぁー。食ったぁ!」


「お腹は満たされましたか?」


「うん、満足!」


 これでギルドマスターとの面会にも備えることができると一安心する。

 二人で食後の会話を楽しんでいると、先ほど見た職員がやって来た。


「アルマ様、お待たせしました。準備が整ったようなので、上の階にお越し下さい」


「はい。分かりました」


 二人は立ち上がり、受付嬢に案内されるがまま三階へと上がっていく。


 そして扉の前に辿り着いた。扉の造りは木製だが、デザインが特徴的で質感は他の物より良さそうだ。

 突然の緊張感にライが襲われているのも知らずに、その扉を受付嬢がノックする。


「二人をお連れしました」


「お入りください」


 扉の向こうからしっとりとした女性の声が聞こえて来る。


「失礼します」


 受付嬢は二人を部屋に通した。そして軽く会釈し扉を閉めると、階段を下りて行ってしまった。


 待っていたのは一人の女性。


 紫の髪に同色の瞳。身長はライよりも高く、髪の手入れが大変そうな、腰辺りまで下ろされている長髪。


 彼女は夜空を彷彿とさせるような配色のタイトなドレスに身を包み、高価そうなアクセサリーをつけている。その一つがネックレスだが、どんな装飾なのかは確認できなかった。装飾部分がドレスの内側にあり、隠されていたからだ。


 そして室内の至る箇所に、ライが見たことない興味をそそるものが幾つもあった。


 総合的に、女性はとてもミステリアスな雰囲気を纏っていた。

 冒険者の喧騒には似つかわしくない程に麗しい女性だった。


「突然の面会、申し訳ありません」


 アルマは頭を下げて、ギルドマスターと(おぼ)しき女性に挨拶する。ライもアルマに合わせて頭を下げた。


「いえいえ。こちらこそ、準備にお時間を取らせてしまい申し訳ありません。とりあえずそこにお掛けください」


 二人は言われるがまま、ソファーに腰掛ける。それを確認してから、女性も座った。


「まずは自己紹介を。私はグリュトシルデの冒険者ギルドのマスターを務めています、レイネールと申します」


 レイネールは軽く頭を下げた。動作一つ一つに大人っぽさが付随していた。


「私は……以前にお会いしたことがあるので、大丈夫ですよね。えっと、こちらはライさんです。私がモンスターに襲われているところを助けてもらいました」


「ライさんですか。確か、あのフォレストバインを討伐してしまったとか。うちの冒険者がお世話になりました」


「いや、大したことはしてないですよ」


 早速、アルマは話の本題に入る。


「それで、相談というのは彼のことなんです」


「はい。なんなりと」


「実はライさんは他所の世界から来たようで、この世界でのことにまだ慣れていないのです」


「……」


 レイネールに反論の様子はない。彼女もまた、ライが異世界から来たということを少しは信じているのか、それとも疑念を抱えているのか。


「ライさんは腕の立つ人です。冒険者になれば生活には困らないと思うし、ギルド側としても即戦力として起用することができると思うのです」


「なるほど。つまりライさんを冒険者登録したいということですね」


 透き通った瞳に覗き込まれた彼は、この人の前ではどんな嘘も看破されてしまいそうだと、自然な防衛反応から無言で頷いた。

【キャラクター紹介】

◇レイネール……グリュトシルデの冒険者ギルドのマスター。不自然なくらい冒険者ギルドに場違いな麗しい姿をしており、物腰は柔らかい。

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