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『あなたは父親からの愛情を求めていた。
でも、満たされなかった。
父親から与えられた婚約者でそれを埋めようとした。』
確信をついていた。
私はこの婚約破棄が怖かった。
それは、何故か。
お父様に迷惑をかけるのが嫌だった。
今更、また1から婚約者を探すなんて、どれだけ迷惑をかけるのか。
いつまで経ってもお父様の役に立てない自分が嫌だった。
けれど、彼への想いは確かにあったはずなのに。
声はまだ続く。
『彼は幼くあなたへの愛情は単なる幼馴染みに対するものといったところだった。
それでもあなたは耐えた。
彼へのあなたの愛情は変わらなかった。
たとえ、求めるものと多少違っても愛情を向けてくれるのだから。
あなたの愛情は、厚意と少しの執着が入り混じったもので、変わりようがなかったのね。』
自分の感情を、こうも暴かれて私は怒りを感じていた。
『怒った?でも、彼のこと、異性として好きだったわけではないでしょう?』
確かに、そうなのだけど。
6つも歳下の男の子にどうやったら異性として好きだと想うのか。想ったら犯罪だと思う。
……理性が邪魔をしていたのかと聞かれると、そうではないので声の主の言う通りなのだと思う。
腹は立つけれど、我慢して声の続きを聞く。
『けれど彼のあなたへの愛情は変わってしまった。
これにはね、少しわたくしも責任を感じました。
愛といっても一括りではないのに、恋愛と夫婦愛においてのみ助力をしたのはいけなかったなぁ、と。
それについて顕著に悪影響を受けたあなたにわたくしからちょっとしたプレゼントをいたします。』
眩い光が走り、目を思わず閉じる。
恐る恐る目を開くと、視界に入ってきたのは驚きの光景。
神殿に祀られる像が夢に出てきたのかと思ってしまった。
ただ、像は比較にならない。
息を呑むほど美しき、愛の女神がそこに顕現していた。
怒りの感情は、諦めに変わる。
女神様だからお見通しなのは、仕方がない。
愛に纏わる全てを知る愛の女神なのだから。