お姉様は悪役令嬢?いいえ、お姉様は…。
私がこの家にお母さんと来てから、あの人はいつも私を見ている。
食事中も、寛いでいるときも、書斎で本を選んでいる時も。
ただ見てるだけ。
何かを言われるわけではないし、されるわけでもない。
ただただこちらを見ているのだ。
皇太子婚約者、フゥリィー公爵家フゥリィー・フロル令嬢。
母親違いの私の姉。栗色の髪の私と違い、輝く金色の髪。
健康だけが取り柄の私と違い、折れそうなほどに華奢な体つきと透き通るような白い肌。
吸い込まれそうな蒼い瞳は、双玉の宝石の様…。
初めての顔合わせの時、その余りの美しさに私は言葉が出なかった。
本当の貴族のお嬢様って、こんなにも奇麗なの?!そんな在り来たりの感想しか出ない自分にがっかりしてしまったほどだ。
でも、それほど令嬢は美しかったのだ。
フロル令嬢のお母さんはすでに逝去されていた。
令嬢が六歳の時、突然の病で儚くなられたのだとお母さんから聞かされている。
お母さんは奥様付きのメイドだったと。同じ年の奥様とは主従関係を超えて仲が良く、『フロルとあの人をお願いね…』と、最後の言葉を託されたことが忘れられないと、寂しそうに笑っていたお母さん。
旦那様と令嬢に寄り添うような日々を過ごすうち、私を身籠ったお母さんは奥様を裏切ったような自分が許せず、黙って二人の前から姿を消し…遠く離れた田舎町で一人私を生み、育ててくれたのだ。
勿論、私に話してくれた時は、お父さんが公爵様だなんて言われなかったのだけど、それよりも自分にお姉ちゃんがいることが嬉しかった。
どんなお姉ちゃんなんだろう?優しいかな?仲良しになれるかな??
十歳の時、初めてお母さんにその話を聞かされた夜。ドキドキしてよく眠れなかったことを覚えている。
あの頃の私は、ただ幼かったのだ。
生粋の貴族令嬢と、片田舎の娘がどうやったら仲良くなれるというのだろう…?
かの人は、決して私を正面から見ない。
ただ、物陰から冷たい視線をこちらに送るだけで、話しかけようと思っても足早に私から離れて行ってしまう。
お父さんは公爵様とは思えないほど穏やかで、「困っていることはないかい?何かあったらすぐに言うんだよ?」と気遣ってくれるし、お母さんも優しいまま。執事のエディさんや他のメイドさんも、驚くくらいに私たち母子を公爵家の一員として扱ってくれていて、幸せ。と言って差し支えないのだろうけれど…。
その中で令嬢だけが孤高の存在として、私の中に影を落とすのだった。
◆
公爵家のお屋敷で最低限のマナーを学び、家庭教師から学園に通っても問題ないでしょう。とお墨付きが出たのは、私がフゥリィー・アリアの名前に漸く馴染めた三ヵ月後の事。
長休みが終わった令嬢が先に学園に戻ってから一月遅れの転入となった。
教師に導かれ、高等科一年の教室に向かう。落ち着きのある校内は、朝の学級が始まっているためか静まり返っている。
ドキドキする…。
緊張を隠せていない自分に、落ち着け。と言い聞かせていたその時、ふと視線を感じ、顔を上げると…。
四階建ての校舎最上階の教室から、令嬢がこちらを見下ろしているのに気づく。
真っすぐ、ただ真っすぐに私を見ている。
その視線の強さに、思わずコクリ。と喉が鳴ったことを…どうか許してほしかった。
「じゃ、次は食堂ね!」
「ティル~張り切りすぎ~」
元気一杯なのは同じクラスのティル、呆れたように声を上げたのはやはり同じクラスのロッタ。
二人とも、休み時間に入るとすぐに話しかけてくれ、校内の案内まで買って出てくれたので、ありがたく案内して貰う。
広い校内は、国中の貴族の令息・令嬢が通うに相応しい佇まいを見せている。
「覚えられるかなぁ…」
不安そうに呟くと、二人は顔を見合わせて「大丈夫よ!一緒に行動すれば迷わないから!」と笑ってくれたのだ。友達、出来たみたい!
「ここも広いね…」
「食堂と講堂は広いよ~。全学年が一度に使うからね」
のんびりロッタが答えてくれる。昼食時とあって、かなりの賑わいを見せていた。
邪魔にならないよう端にいよう。
「今日はお肉がお勧めだって!私お肉!」
「私は魚にするわ~、サリー鯛好きなのよね」
日替わりメニューを肉と魚で選ぶのがメインみたい。これだけ生徒が多ければ、効率を考えた良いやり方だと思う。後はサブメニューの注文もできるようだし…。
二人に教えられながら注文を済ませ、トレイを受け取り席を探す。
人気の窓辺は最高学年の生徒で埋まっているらしい。
と…感じる視線。
そっと視線を向ければ、フロル令嬢がこちらを見ている。
じっ…と。
慌てて気づかないふりをして、その場から離れようとした時だった。
「よろしくて?」
聞きなれない声に顔を向ける。
そこにいたのは燃えるような紅色の髪、同じ赤味の濃い瞳を眇めた令嬢が…。
「コリンナ様!」
「お邪魔でしたか?!申し訳ありません!!」とティル達が謝罪を口にし道を開けるが、コリンナと呼ばれた令嬢は、ひどく見下した目を私に向け。
「あなたが噂の出来損ない?この学園に相応しくないのだから、ここからいなくなってくださらない?」
純然たる悪意。
突然向けられたその感情に、私は動くことが出来なかった。
貴族社会とは、もともとこう言う場所なのだろう。異物を受け入れず、拒む場所。
私は驚く程周りに恵まれていたのだろうと、今更ながらにその幸運を思い返す。
こんな言葉を投げつける人はいなかった。
こんな見下す目で私とお母さんを見る人などいなかったもの。
「食堂は、皆が食事を楽しむ場所だよ。君の物言いは頂けないね」
いつの間にか静まり返っていた空間に、涼やかな声が響きわたる。
「皇太子殿下っ…ご、ご機嫌麗しく…」
流石のコリンナ様も、思いがけない登場人物に怯んだように挨拶を口にする。
殿下は静かに笑うと、「君には、私の機嫌が麗しく見えるんだね」と小さく笑う。
「し!失礼いたしますわ!」
舞う炎のように髪を翻し、コリンナ様が食堂を後にする。
ガタン!と誰かが椅子に座りなおした音が響くと、漸く食堂に少しずつ賑わいが戻り始めたのだった。
◆
毎日感じる視線視線視線…。日々強くなるそれに、私はだんだんと疲れ始めていた。
コリンナ様の嫌味、それに追従し始めた数人の令嬢たちによって少しずつ追い詰められていっていたのも、私の心を疲弊させていっていたのだと思う。
『フロル令嬢は、どうあっても私が嫌いなんだ…』
視線はいつもフロル令嬢で間違いない。視線の先を追えば、必ずそこにかの人の姿を確認できたから。
唯、持ち物が無くなったり壊されたりといった行為がなかったのは、やはり貴族然としたプライドのためだろうか?何より、コリンナ様や他の令嬢から嫌味を言われているとなぜか殿下が現れ、救ってくれることが常となり始めていた。
「大丈夫?」
殿下の声に顔を上げる。
「大丈夫です」
もう慣れました。思わずそう言いかけて慌てて口を噤む。
慣れていい事でもない、そう思ったから。
「そう?」
私の答えに、殿下は安心したように穏やかに笑って見せる。
その手が私に伸ばされかけたその時だった。
「殿下。よろしくて?」
凛とした声が響く。ふわりと風に揺れる金の髪。
「やぁ、フロル」
「フロル令嬢…」
私に伸ばされかけていた手をそのまま気さくに上げ答える殿下に視線を向けた後、思わずその名を呟いた私に『きっ』と睨みつけるような視線を向ける。
「…そのように私を呼ばないでくださる?」
冷たい声から、拒絶されていることが聞き取れた気がして。
「も…申し訳ありません…」
「まあまあ。私に用があるんだろう?いつもの事かい?」
取りなすように殿下がそう口にすれば。
「ここでお話しすることではないと存じます。いつもの場所でお願いいたしますわ」
こちらにはもう視線も送らず、フロル令嬢は殿下にだけそう話しかけるとツン、と顔を上げて殿下を伴いその場から立ち去って行ったのだった。
「…」
今までは無かった、教科書等私物が破損されている。
放課後、先生からの呼び出しに応じている間に破かれ、ごみ箱に見えるように捨てられていたそれ。何より私が驚いたのは、そのごみ箱の前で、教科書を手にしていた人物だった。
「フロル様…」
びくりと背中を震わし、破れた教科書を手にしたまま何も言わないで出ていくその背中に、私は…。
その日、殿下は私の前に現れなかった。
『お母さん、私…フロル様に嫌われてるね』
この家に来てから、初めての弱音だったかもしれない。
そんな私をそっと抱き締め
『絶対にそんな事ないから。大丈夫よ、大丈夫』
そう呟きながら繰り返したお母さんは、何かを考えこむように遠くを見つめていた
「もう、いい加減にしてくださいませ!」
廊下に漏れ響く声はフロル令嬢の酷く苛立ちを隠せない声だった。
「フロル」
諫める声はお父さん。
「私ばかりが我慢して!こんな生活,もううんざりですわっ!!」
お父さんの書斎の扉扉僅かにが開いているのだろう、たまたま通りかかった私の耳にそんな言葉が飛び込んでくる。
フロル令嬢との関係は、何も変わらず…。
遠くから私に視線を向ける令嬢に、なんだか少し慣れてしまったほどだ。
破かれた教科書も、あっという間に新しいものが用意され、それ以降は被害にもあっていない。
勿論、誰がそんなことをしたのかも…私は探さなかった。
その必要はないと思いたかったから。
廊下の壁に背を付け、二人の会話を…聞いてはいけないと思いながらもその場に留まってしまう。
「私は、もう十分すぎるほどに我慢いたしましたわ。ええっ!もう、私の好きにさせてくださいませっ!」
珍しくも声を荒げ、そう言葉を綴る令嬢を諫めるように『待ちなさい』と声が追いかける。
部屋の扉が開くことを感じ、慌ててその場から立ち去った私は気が付かなかったのだ。
部屋の中にいた、もう一人の存在に。
◆
「あなた、まだこの学園に居ましたの?」
私の人生の転機になった。いや…なってしまったその日は、何の前触れもなく突然。本当に突然訪れたのだ。
「本当に図々しい!」
「私だったら恥ずかしくていられませんわぁ」
教室の中、取り囲まれるようにコリンナ様とゆかいな仲間達に貶され始めた私に、オロオロしているティルとロッタの姿が見える。
二人に火の粉が降りかからねばもうそれでいい。
「フロル様も御可哀そうだわ、あなたみたいな出来損ないが身内にいるなんて。ねぇ?出来損ないなら、学ぶことなんて無駄でしょう?」
コリンナ様が慣れた仕草で顎を尺ると、令嬢の一人が汚いものを持つように机の上の教科書を取り上げると数枚のページを破り取って見せる。
「フロル様にも認められず、公爵家とは言えお前なんて…」
その醜悪な笑みを見ながら私が考えていたのは、あの日、私の教科書を破り捨てたのがフロル様ではなかったのだという事実。
なんで?どうしてあの人はあの場所にいたの?
学年も違う、居るはずのないこの教室にいた理由は?
「聞いているの!?無視するなんて!!生意気なのよ!!」
深く思考していた為、コリンナ様の声が全く聞こえていなかった。無視されたことに気が付いたその手が、扇を携えたまま大きく振りかぶられたその時。
「たかが侯爵家の人間が、私の妹に何をしているの?」
ひどく冷たい声が辺りに響く。
それと同時に、コリンナ様の手首は扇を落とさずにはいられない程の強さでフロル様の侍従に捩じ上げられたらしく、苦悶の表情を浮かべていた。
「ああ、あなた」
名前も知らぬ令嬢の一人が、フロル様に扇で指示され蒼醒る
「あなたが今楽しそうに破いたアリアの教科書ですけど。お気づき?公爵家の紋入りでしてよ?」
「ひいっ!!」
更に青醒めた令嬢の喉から引き攣った声が上がるのを目にしながら、フロル様は開いた扇で口元を隠しながら言葉を続けたのだ。
「ねぇ?アリスタ男爵令嬢?」と。
私も知らなかった…。フゥリィー公爵家の家紋入りの品を傷つけるということは、序列の低い貴族の行いであれば大問題らしい。お家取り潰しとか…こわっ!
ブルブル震えるアリスタ令嬢から、周りにいた他の令嬢たちが後退る。勿論コリンナ侯爵令嬢も…。
そんなコリンナ様の後ろから現れた皇太子殿下は、諦めたように笑いながら
「あれほど『アリア嬢に手は出さないように』と忠告したのに。君達は本当に何もわかっていなかったんだねぇ…。大体、彼女は僕の義妹になる立場なんだよ?君達は、王家に連なる人物に危害を加えたってことの自覚がなかったのかい?」
そう話しながら皇太子殿下が片手を上げると、答えるように現れた侍従騎士達が俯き震える令嬢達を伴い退室して行く。
私は。と言えば、目の前で起きた余りの急展開について行けないまま、皇太子殿下とフロル様を口を開けて見詰めてしまう。
「ア!アリア!大丈夫?!」
「何にもできなくてごめんねぇ」
泣きそうになりながら走り寄ってきたテイルとロッタと抱き合っていると、『う、うんっ!』とわざとらしい咳払いが聞こえる。
「…フロル令嬢…」
助けてくれた。この人は、今、確かに私を助けてくれたのだ。
「あの…あ、ありがとう…」
緊張でぎこちなくなってしまう私の言葉に、フロル様は
「私の事を、そんな風に呼ばないで頂戴!」
と、遮るように声を上げる。その勢いに思わず竦んだ私に…。
「私の事は、お姉様…いいえっ!!おねえちゃん…お姉ちゃんって呼んでちょうだいっ!!!!」
フンスフンスと鼻息を荒げ、興奮しきった様子で張り切りながら声を張るこの人は誰だろか…。
思わず呆然とする私たちに皇太子殿下は「どうどう」と、まるで馬でも往なすようにフロル様に声を掛け、困ったように笑いながら
「驚いただろう?アリア嬢、申し訳ないのだが一緒に来てくれるかい?」
と私に話しかけてきたのであった。
わからない…もう、何もかもがわからない…。
フロル様…いや、フロルお姉ちゃんと私は、皇太子殿下が案内してくれた生徒会室に招き入れてお茶まで用意してもらったのだが、その間、私は引っ付き虫と化したお姉ちゃんにしっかりと抱きこまれていた。しかもこの人、ふんかふんか私の匂いを嗅いでいる気が…やめてぇ~!!泣くぞ!
抱き込まれたせいか、無理やりかがなくても柑橘系の爽やかな香りが鼻腔を擽ってく。
え~??何これぇ~?
「フロル。アリアちゃんが吃驚してるよ」
「なれなれしくアリアの可愛い名前を呼ばないで頂戴ませっ!だから私は遅すぎるって言ったのっ!!それなのに、じじいもお義母様も『もう少し、もう少し』って私がアリアの傍に行くことを引き留めたせいで!」
ぎゅうぎゅうと抱き締めながらここぞとばかりに叫ぶお姉ちゃんは…思ったより激しくて、冷たい雰囲気なんか見た目だけの激情型の激しい人でした…。お義父さんの事、じじいって言ったし…ええ~っ??
この姉は幼いころから「妹」といった存在にあこがれ続け、亡母にも「妹が欲しいの!」と言い続けていたらしい。
再婚もせずお母さんを探し続けていた公爵が私たちを見付けた時、一番の懸念となったのが私を前にした時の、お姉ちゃんの暴走的愛情の爆発だった…と。
私の存在を知った時から、再婚にはもろ手を挙げて大賛成。同じ学校!できれば子供部屋として同室なんかどうかしら?!お揃いの服を用意して、二人でお出かけもしたいわっ!!と会う前から大興奮だったというから驚きだよ…。そしてそんなお姉ちゃんの興奮爆発ぶりに、義父さんとお母さんはまずいと考えた。
そして考えた末実行したのが、興奮しすぎてぐいぐい行くと私から嫌われる。気持ち悪がられる(ひどい言い草だ)。落ち着いて立派な姉としての姿を見せられない間は、私の傍に寄ってはいけない。と約束、いや…契約させたらしい。何やってんだ、あの両親は…。
そんな契約をさせられたお姉ちゃんは、耐えて耐えてひたすら耐えて…私を穴が開く程見つめていたらしい…怖いよっ!!
いつもいつもいつも視線を感じていたのは、そういった経緯があったからなんですねっ!!なんなんだよっ!無駄に怖がっちゃって損したよっ!私みたいに、根ががさつで打たれ強いタイプだったからよかったけど、気の弱い女の子とかだったら軽く病んでたレベルだったよ?!?
けれど、屋敷の私の部屋の内装や家具類は、なんと全てお姉ちゃんが私の為に一生懸命考えて用意してくれたものだったとの事。すごくかわいくて、すっかりお気に入りですとも!
今回、初めて正面から介入してきたのは、ここにきて漸くお母さんから私に近づく許可が下りたから。
お義父さんはまだ早いって止めたらしいけれど、お姉ちゃんに嫌われているとへこみ始めた私を見て、そろそろまずいと感じたらしい。
お母さん?!一言言っておいてよぉ~!!!!
「アリア…かわいいわ~私の妹は本当にかわいい…」
うっとりとそう囁くさまはちょっと怖いけど…。
何より、学園内のいじめ問題に関しては随分と気づかないところで守ってくれていたと、お姉ちゃん。
靴や備品が被害に合わないようにとか、何よりこの人、皇太子殿下まで使ってたんですけど。わぁ!
道理でタイミングよく助けに来てくれたはずだよ!
「王太子殿下、何度も助けていただいて、本当にありがとうございました」
抱き込まれる腕の合間から顔を出し、ぺこりと頭を下げると、
「みた!?私の天使はきちんとお礼が言える子なのよ!!素晴らしいわ!たまらないわ~っ!」と姉。
「君は本当に素直でかわいいね。あんなにいじめられていたのに、卑屈にもならず常に堂々としていた」
そう言いながら殿下の手が私の頭に、あの時のように伸ばされたその時。
「あの時も言ったでしょ?私の妹に勝手に触らないで頂戴」
パシリとその手が落とされる。
コリンナ様に絡まれた時のやり取りだと想い出す。
あの時は二人のやり取りを見て、私はお姉ちゃんが私に対して怒っているんだと思っていたけれど…逆だった見たい…。私に触ろうとした殿下。に、不快感を隠せていなかった、と。
「私がまだ一度もなでなでもぎゅーっもしていなかったのに、なんで殿下が先に撫でようとしたんですの?!アリアは、私だけの可愛くて愛らしい最高の妹ですの!気安く触らないでくださいまし!」
お姉ちゃんが、皇太子殿下を睨むようにして私を隠す。
そんなお姉ちゃんを気にも留めず、殿下は私にこんな言葉を口にする。
「僕も妹が欲しかったんだ、弟どもは最近生意気で可愛くなくてね。フロル、君の妹ってことは、僕の義妹ってことでしょ?アリアちゃん、僕の事はお兄ちゃんでいいからね」
にっこり。
皇太子殿下、いつの間にか親しげに『僕』の変わってますよ。
その途端、猫の子のようにしゃーっ!と威嚇しながら、お姉ちゃんが叫ぶ。
「アリアを妹って呼んでいいのは私だけよっ!婚約なんて!解消してやりますわーっ!!」
えええええっ~ちょっと待ってぇ~!!!!なんて事になりかけちゃってるの?!
私のせいで婚約破棄なんて嘘だよねっ?!やめてぇ~っ!!
ああああああっ!!お姉ちゃんはあれだ!
義理の妹にいじわるする悪役令嬢…なんかじゃなくてむしろこう…恐ろしいほどに
度を越した…越したでは言い切れないほどの…天然拗らせドドドシスコンだったんだねっ!?
皇太子殿下ともめているお姉ちゃんに抱き締められながら、これからどうなるんだろうとぼんやり考えつつ…ちょっとうれしい自分を隠せない私もまた、多分お姉ちゃんと同類なのかも…と小さく笑ってしまうのだった…。
END
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コリンナとゆかいな仲間たちは退学。
貴族階級の学園を退学させられたらまともな所への嫁入りは無理でしょう。
修道院行きですね。自業自得。
何よりフロルに目を付けられているから、その方が逆に幸せでしょう…。
読んでいただいてありがとうございます。お目汚し失礼しました、よろしければ、評価の星、ぽちっとしていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします!