4. 1/25~ ?
2時限目は全校集会で、日間さんの姿はなかった。
次のLHRで終わり、午前中に帰れるからラッキーだ。
無言で学年移動が行われる中、みんなも浮足立っているようだった。
休み時間は、自分の席でぽつんと座っていた。
前の席の波多田君も、後ろの席もいなかった。トイレか、別のクラスに
行ってるのだろう。
離れ離れになった友達が何組なのか確認せず、何か空席になった日間さん
の席が気になっていた。
始業のチャイムがなっても、日間さんは来なかった。
何かおしゃおしゃ言いながら、先生がプリントの整理をしている。
「はい、今日はこれが最後の時間ということで、何をするかというと、
まずは配布物を配ります。とにかく多いので、枚数、確認お願いします」
先生が手際よくプリントを配布し、内容をチェックする。
心構えや学校規則、去年あった近隣からのクレームと対応や、
年間行事等々だった。
……どれどれ。プリントに目をやると、当該中学生と思われる
夜遊びや事件があった。
深夜徘徊については、特徴も場所等全く記載もなかったから、
俺の件はセーフだ。
「はい、これで以上なのですが、先生の手際が良かったのと、
皆さんが静かに聞いてくれたおかげで、すぐに終わりました。
はい、解散! 」
クラスのみんなが、喜々として帰る準備に取りかかろうとする。
「……と行きたいところですが、ついでに、来週から三者面談も
始まるので、今のうちに進路希望を取りたいと思います」
フェイントに、クラス中からブーイングが飛ぶ。
「新しいクラスで、このクラスは32人で男女ちょうど半々なので
バランスがいいです。進路希望調査で隣の席の人と、2人1組になって
もらって、30分、質問してプリント欄を埋めてください。見ての通り
趣味・特技・将来の夢や進路希望・それから不安に思っていることや
関心事など簡単なので、それを元に仲良くなってください」
ん? ……2人1組? 隣の空席をチラリと見る。
先生がぐふふ、とこちらを見ている。
……何かわかった気がする。
「今、日間さんがいないのでね、陽当くんは、先生と組みましょう。
では、みなさんも早速取り組んでください。はい! スタート」
先生が合図の手を叩く。
「この席小さいな。イス壊れちゃったりしたら、日間さん怒るかな?
うお、机に収まらないな。先生の悩み? 」
「聞いてないです」
「そう言わないで聞いてよ。いやぁ、この席は本当に日当たり良好だね」
「やめてください」
「なんと先生! 去年と比べて胴回り6cm! ぜい肉ついちゃってさ」
「さっきより、増えてるじゃないですか! 」
「いやぁ、先生見栄張っちゃってさ! あっははは! 」
「そんな大声で言ったら、見栄張った意味ないじゃないですか」
……そんなペースに巻き込まれながら、俺は先生の話は無視して、
日間さんとの会話を思い出しながら、あーでもない、こーでもないと、
用紙を埋めておいた。これには、おー、と先生も感心したようだった。
3時限が終わり、SHRになると日間さんが戻ってきた。先生がつき添っている。
机をカバンに、いや、カバンを机においてハアァ――、と顔をつっぷしている。
「もうチョイだ、がんばろ」
低い声が聞こえた。
「じゃあ、今日はみなさんの協力もあって、後、日間さんも
早く帰りたがってるので、終わりにしたいと思います。
その前に、今日1番活躍した、MVPの陽当くんに拍手~! 」
……だから、なんなんだよ、これ!
「それじゃあ、土、日休みで、次に来るのは来週の月曜日!
さようなら~! 」
日間さんは、1人だけ席に着いて突っ伏した。顔をこっちに向けた。
「今日はありがとね~、陽当くん」
「うん……本当に大丈夫? 」
「ダイジョウブ、ダイジョウブ。後は友達来てくれるし、ダメだったら、
先生に送ってもらうよ~」
「うん、それじゃあお大事に」
付き添いの女子が、心配そうに相談している。本当に、大丈夫だろうか?
廊下に出ると、見かけた顔があった。
「さっくー! 自原! 」
「よう、お前3組だったんだな」
「そろそろ来る頃だって、待ってたぜぇ~? よしゃ、帰ろうぜ」
「2人とも同じクラス? 」
「いや、違う。俺1組」
「俺は、4組だぜぇ……」
「そうだったのか、他のクラスでよろしくやってるのかと思ったよ」
「お前の方はどうだ? りょーこ! 」
「なんか、先生とは仲良くなった……かな」
「おぅ……それは、災難だぜェ」
「3組は階下先生だろ? あたりじゃん。いい先生だよな、メタボだけど」
自原が鼻で笑った。
2人とのやりとりが、なつかしく感じる。
「あの死にかけてる子、日間さんだろ? 大丈夫か、あれ? 」
周りに、3人の女子に誘導されて教室を出るのが見えた。
「多分……」
雑談してる俺達の前を、ゆっくりと通り過ぎて行く。
「陽当くん。ほんとうに、さっきはありがとねー」
「……手伝おうか? 」
「いいのいいの! そこの職員室までだから! 」
女子3人のうちの1人が言う。
「いつの間にか、知り合いに? 」
2人が声を合わせて聞いてくる。
「今年も同じクラスだった」
「お~、てことは……125分の1! 」
息ぴったりで顔を合わせた。なんだ、こいつら。
「考えようによっては、最初のクラスを除外して、25分の1だけどな」
俺はつけ加えた。
「確かに」
「あと……席も3年連続同じ席だった」
「計算できねぇな……」
声を合わせて言った。みんな、成績は察しの通りだった。
俺達は、校門を出て途中まで一緒に帰った。
「さっくー、内山ってのは、来た? 」
「内山? あいつは来ねぇよ。また違うクラスだったし、
どうするんだろうな。自原とも、違うよな? 」
「ああ、違うぜェ……」
「今日も報告だけはするけど、無駄だろうな」
「今の、日間さんについて何か知ってる? 虚弱体質って聞いたけど」
「俺も、あまり知ってることはないな。
とりあえず、体育とかそういうのは無理って聞いたことがある。
いつ頃か忘れたけど。交友はいい方じゃないか?
クラスの中心てほどじゃないけど、ムードメーカーってやつ?
みたいな」
「1年の頃は合唱、それから吹奏楽部だったぜぇ……。
合わせて半年くらいで体調不良で辞めたって、姉ちゃんから
聞いたぜぇ……俺も、それしかないぜぇ? 」
「そうか」
「俺達は、どうする? 帰って昼飯食って、どっか遊びに行くか? 」
「追って連絡するぜぇ」
「ごめん、俺は今日はちょっと無理。腰痛めた、休みたい」
それぞれ帰宅した。
「ハアァ―――ァ」
部屋に戻ると、ベッドに飛び込んだ。
少し休んで夕方になった。あと少し、夕食を食べ終えて、風呂に入ったら
今宵も行動開始だ。
「へ、へへへ」
夕食を食べて風呂に入る。野菜ジュースを飲みながら外を散歩する。
今日はどこにしようかな?
頭に場所とルートを浮かべながら、俺はその時を待った。